ミスチル、セカオワ、King Gnu、back number……人気と実力兼ね備えたバンド勢揃いのドラマ主題歌 音楽性や傾向を探る
音楽
ニュース
現在、佳境を迎えている2020年10月期ドラマ。主題歌を担当しているアーティストの中でも、Mr.Children、SEKAI NO OWARI、King Gnu、back numberといったバンド勢が目立っている。人気と実力を兼ね備えたトップアーティストが顔を揃えた今期の主題歌。その楽曲の音楽性や傾向を探ってみたいと思う。
Mr.Children「Brand new planet」(カンテレ・フジテレビ系ドラマ『姉ちゃんの恋人』主題歌
いわゆるコロナ後の“ニューノーマル(新しい日常や常識)”の中でスタートした今期のドラマ。『姉ちゃんの恋人』は、まさに「コロナという形の見えない不安によって壊れかけた世の中に向けて、人やモノの“希望”と“再生”の物語を届けたい」(参照:ドラマ公式サイト)という思いで制作されたドラマだ。本編は、事故で亡くなった両親の代わりに3人の弟を育ててきた主人公・安達桃子(有村架純)が、会社の同僚・吉岡真人(林遣都)に恋をする、というストーリー。桃子にとって恋は、新たに訪れたハッピーな日常。だが真人は、ある辛い過去を抱えている。彼はそれを乗り越えることができるのか? そんな“希望と再生”というドラマのコンセプトを受けて提供された主題歌が、Mr.Childrenの「Brand new planet」である。始まり感のある爽やかなサウンドと突き抜けたボーカルが印象的で、〈新しい「欲しい」までもうすぐ〉というサビのフレーズがキモとなる1曲。また〈絡みつく憂鬱にキスをしよう〉〈静かに葬ろうとした 憧れを解放したい〉という歌詞が、鬱屈した気持ちや不安と隣り合わせにいる現代社会へのメッセージであると同時に、劇中のふたりの恋を後押ししているようにも思える。根底にあるのは、やはり“希望と再生への願い”だろう。
SEKAI NO OWARI「silent」(TBS系ドラマ『この恋あたためますか』主題歌)
『この恋あたためますか』は、コンビニのアルバイト店員の主人公・井上樹木(森七菜)が、バイト先であるコンビニチェーンの若き社長・浅羽拓実(中村倫也)と出会い、コンビニスイーツの開発を手がけるうちにお互いに惹かれ合っていく……というラブストーリー。さらに、スイーツ開発の仲間2人を交えた恋の四角関係が繰り広げられる。クリスマスシーズンという背景、スイーツというアイテムがそれぞれの恋の行方に関わる重要なキーポイントとなり、ドキドキ感が自ずと掻き立てられる本編。そして、SEKAI NO OWARIがこのドラマのために制作した「silent」が、さらなる演出効果をもたらしている。同曲は、澄みわたった鈴と鐘の音に心洗われるクリスマスソング。降り積もる雪に周囲の音が吸い込まれていく静けさの中、抑えきれずに“恋の鼓動”が心に鳴り響く。でも好きな人はここにはいない……。そんな寂しさが表現されている。SEKAI NO OWARIの真骨頂ともいえるファンタジックな世界であり、ドラマの切ない恋模様に甘酸っぱさを添えている。
King Gnu「三文小説」(日本テレビ系ドラマ『35歳の少女』主題歌)
10歳の時に不慮の事故で長い眠りにつき、25年ぶりに目覚めた主人公を柴咲コウが演じる『35歳の少女』。『家政婦のミタ』などで知られる遊川和彦が脚本を手がけ、心は10歳、体は35歳の主人公・時岡望美の葛藤や苦悩、成長を描いている。今回は、ドラマのプロデューサーがKing Gnuに主題歌をオファーし、両者のタッグが実現。リーダーの常田大希が台本を読み込み、ドラマサイドとディスカッションを重ねた上で作詞・作曲をし、「三文小説」が完成した。歳を重ねることや人間の弱さを受け入れる人生讃歌であり、重厚なスケール感をたたえた楽曲に仕上がっている。本編のエンディングでは、望美(柴咲)の顔のアップの映像にボーカル・井口理のファルセットボイスが重なり、〈そのままの君で良いんだよ 増えた皺の数を隣で数えながら〉と望美に静かに語りかけるようなイメージの作りになっている。特異な設定を加味しつつ、ドラマプロデューサーからの「絶望している主人公に神から降臨したような…魂を揺さぶるような、これまでのKing Gnuのイメージを壊すような」(参照:ドラマ公式サイト)というリクエストに見事に応える形となった。
back number「エメラルド」(TBS系日曜劇場『危険なビーナス』主題歌)
東野圭吾の原作をドラマ化した『危険なビーナス』は、主人公の獣医師・手島伯朗(妻夫木聡)が、弟の妻を名乗る謎の女性・矢神楓(吉高由里子)と共に30億円もの名家の遺産をめぐる謎に迫っていくラブサスペンス。主題歌として、back numberが新曲「エメラルド」を書き下ろした。彼らが主題歌を担当するのは、2019年1月期のTBS系ドラマ『初めて恋をした日に読む話』の「HAPPY BIRTHDAY」以来。それまでのback numberの十八番である“ちょっと女々しい男心を吐露するラブソング”から一転、危なげで妖しい男女の恋愛を想起させるナンバーになっている。イントロのギターのディスコード感と歪んだサウンドは、不穏なムードを醸し出し、艶めかしい詞世界は、危険でミステリアスな女性だからこそ惹かれてしまう男性の心理をあぶり出す。そんな楽曲の世界観は、主人公が不思議な魅力を放つ美女に翻弄され、一族の遺産相続争いに巻き込まれていくドラマの展開ともオーバーラップし、物語をスリリングに盛り上げている。
今回紹介した主題歌4曲は、全てがドラマのための書き下ろし楽曲。その中で、Mr.ChildrenとSEKAI NO OWARIは、普遍的なメッセージやシチュエーションをベースとしたバンドとしての王道を、King Gnuとback numberは、コンセプチュアルなドラマのプロットを原案に新機軸を打ち出した。いずれも、物語や登場人物のキャラクターに導かれ、音楽的ポテンシャルや魅力が引き出されたといえる。今後も、ドラマとアーティストの奇跡の化学反応にぜひ期待したい。
■水白京
音楽・映像ソフトの制作・販売会社を経て、音楽ライターに。J-POPを中心にインタビュー、ライブレポート、 コラムなどの原稿執筆を行っている。主な執筆媒体は「リアルサウンド」「MANTANWEB」「オリコン」など。