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新興宗教信者の親に育てられた子どもの目に映るものは? 芦田愛菜主演で話題『星の子』の問いかけ

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リアルサウンド

 『星の子』を読み終わったときに残ったのは、透き通った不穏感だった。

 2019年に『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した今村夏子。彼女が2017年に出版した『星の子』は、その年の芥川賞候補にノミネートされたほか、野間文芸新人賞を受賞している。2020年には芦田愛菜の主演で映画化もされた。

 主人公・林ちひろは生まれたときから体が弱く、彼女の病気を治そうとした両親は新興宗教にたどり着く。宗教から離そうとする親戚や、別に信じるものを見つけた姉、宗教施設で触れ合う友人など、様々な価値観が入り交じる世界を、ちひろの目線から描いている。

 『星の子』では、ちひろの両親が信仰する宗教の中身について、とても詳細に記述されている。ちひろたちが愛飲している、特別なパワーを持った水の効能や、それが載っているパンフレットの内容に加え、定期的に開かれる集会でどのように過ごしているか、年に一度の研修旅行では何を行うかまで、丁寧に説明される。

 この詳細な記述は、閉ざされた空間に感じる新興宗教を透明にしている。これによって、ちひろたちの信じる宗教は、日常と地続きなもののように感じられてくる。集会所でお菓子を食べたり、UNOで遊んだりする姿は、他の子どもと変わらない。

 しかし、その地続き感は、ちひろが中学生の時に断ち切られる。たまたま学校の教師に車で送ってもらったときに、ちひろの両親が公園でとっていた行動を見て、教師は「不審者」と表現する。ちひろの目線で見てきた「普通」が、他者によって明確に否定されるタイミングだ。

 そして、タイミングを同じくして、新興宗教団体の内部のゴタゴタが、噂話として信者の中で広まっていく様が描かれる。その噂を話すのは主に子どもで、しかも人によって聞いている内容が微妙に違う。

 ちひろを含む全国の信者が研修旅行で訪れる研修施設には、昔、集団リンチが行われたという理由から閉鎖されたと言われている講堂がある。それも、真偽の程はちひろには分からない。

 最初は日常と地続きに見えるほど透き通って見えていた宗教団体が、読み進めていくごとに濁りを増していき、その濁りは、作品に不穏な空気をもたらしていく。

 ちひろは研修施設に行ってから、両親と会えなくなる。ちひろを探していたという声は聞くけれど、両親がいたという場所に行っても会えない。夜も遅くなってからようやく会えた親子は、星がよく見えるという場所へ散歩に出かける。寒い中、同じ流れ星を見ようとする親子だが、父親や母親が見た流れ星をちひろは見られず、逆にちひろが見た流れ星を、両親は見られない。

 身を寄せ合いながら流れ星を探す親子の姿は幸せそうに映るはずなのに、そこにあったのは、どこか絶望にも似た感情だった。この親子は、同じ流れ星を見ることを望みながらも、永遠に同じ流れ星を見ることは出来ないだろうと感じさせる。

 『星の子』全体を通して、ちひろは宗教に対して比較的淡白だ。ちひろの両親は、完全にこの新興宗教を信じている。しかしちひろはどうだろうかと振り返ったときに、熱心に信仰している様子は一度も描かれていない。特別なパワーを持つ水は飲むが、宗教団体の集会所に行く理由は、そこにいる友達たちと過ごす時間が楽しいからであり、信仰からではない。研修施設で宣誓をする人のくじで外れた時はホッとしていると同時に、中には選ばれたい人もいるのだ、ということを認識している。お風呂場で友達から一緒に流れ星を見ようと言われても、そこまで乗り気ではない。

 淡白なちひろの目線は、新興宗教と日常の境目をぼやかしてもいたし、両親と同じ流れ星を見られない理由にもなっているのではないか。何を信じるか決めるということは、何を見るか決めるということなのかもしれない。

■ねむみえり
1992年生まれのフリーライター。本のほかに、演劇やお笑い、ラジオが好き。
Twitter:@noserabbit_e

■書籍情報
『星の子』(朝日文庫)
著者:今村夏子
定価:682円(税込)
発売日:2019年12月6日
出版社サイト

■公開情報
『星の子』
10月全国公開
主演:芦田愛菜
監督・脚本:大森立嗣
原作:今村夏子『星の子』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
配給:東京テアトル、ヨアケ
(c)2020「星の子」製作委員会
映画公式サイト