志村けんさんとの別れに撮影中断 未曾有の事態を乗り越えた、朝ドラ『エール』への賛美
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『エール』という力強く前向きなタイトルで始まった、第102作目のNHK連続テレビ小説が最終回を迎え、異例の長期放送を終えた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一時は撮影を中断。放送休止を余儀なくされ、共に撮影に挑んでいた大切な仲間の命までもが失われた。誰もが正解がわからないまま模索した日々を乗り越え、裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)が海を背景にしっかりと抱き合う姿に出会ったとき、誰もがこの結末に涙しただろう。
6年ぶりに男性が朝ドラの主演を務めることとなった『エール』で、窪田正孝は視聴者を虜にした。約8カ月にわたり、温厚で優しく、家族思いなひとりの作曲家という役と向き合い、高校時代から老年期までの古山裕一を演じきった。
窪田の演技は、時に辛辣でリアリティに迫ったものとなり、鋭く視聴者の心を抉ってくる。音楽の道を諦めることに苦悩する時、戦地で直面した無残な現実に身体を震わせ心に傷を負っていく時、その姿は、あまりに生々しく脳裏に刻まれた。一方で、最後まで一身に音を愛し、また友人らに対しても優しさに満ちた眼差しを向ける様子からは、誰よりも細やかな心を持ち、愛にあふれた人柄であることが見て取れる。
窪田の繊細な表現は、こうしてゆっくりと丁寧に裕一の人生を積み上げていく。『エール』と共に始まる視聴者の朝を時に明るく元気づけ、時に「共に乗り越えよう」と声援を送る、そんな存在だっただろう。
そして窪田を支え続けたのは、裕一の妻・音を演じた二階堂ふみである。はじめは裕一に恋する少女だった音も、音楽学校でのヒロイン争い、妊娠、出産、そして娘の華(古川琴音)の結婚。裕一と共に人生を歩む中で「母」としての強さを滲ませるようになる。最終週では、母親の光子(薬師丸ひろ子)の面影さえ感じられる堂々とした姿を見せてくれた。二階堂はこの撮影期間に2度も誕生日を迎えている。『エール』の公式Instagramにもある通り、朝ドラで2度も誕生日を迎えるのは珍しいこと。まさに二階堂にとって『エール』に捧げた1年となっただろう。
こうした役者陣の努力と、多くの愛されるキャラクターの誕生で、本作は反響の大きい作品になった。最終回後にはSNSで「夫婦愛に号泣した」「志村けんさんの笑顔を見て涙がでた」などの声が散見され、『エール』が終わってしまうことへの寂しさを滲ませる視聴者の声が多く寄せられた。
「オリンピック・マーチ」の作曲家でもある古関裕而をモデルにした物語は、本来であればオリンピックイヤーに放送されるはずだったが、コロナ禍という未曾有の事態にオリンピックも延期となってしまった。しかし、そんな世の中の情勢も数々の柔軟かつ機転の利いたアイデアで乗り越え、『エール』は最後まで音楽の尊さ、力強さを訴えてきた。そして古山裕一の人生を通して、音楽が繋いだかけがえのない愛を視聴者に届けてきたのだ。
これまでの主要キャラクターが総出演となった最終週は、物語の実質の最終回が木曜日に放送され、金曜日は“カーテンコール”としてNHKホールで『エール』出演者陣の歌声が披露されるなど、これもまた異例尽くしの企画で視聴者を盛り上げた。最後まで『エール』らしさを忘れない華やかなラストで有終の美を飾った。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)全120回
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/