幅広い音楽性乗りこなすミーガン・ザ・スタリオン、80’s受け継ぐマイリー・サイラス……今年台頭した女性アーティスト4曲
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こんにちは、ノイ村です。
今回の新譜キュレーションでは、2020年のポップシーンで大きく台頭した女性ミュージシャンによる、これまでの取り組みを拡張する自由な表現やクリエイティビティに着目してみました。今年はトレンドに乗るよりも、「やりたいこと、言いたいことを全力でやる」というアプローチがより一層支持を受ける一年だったように感じており、今回挙げる4曲もその流れを汲んだ作品となっております。
2020年のパイオニアがほんの一瞬だけこぼした“弱音”
Megan Thee Stallion「Circles」
2020年前半は「Savage」で、のちにビヨンセも合流するほどの流れを作り出し、後半はカーディ・Bとの「WAP」が今年最大級のヒットを記録、まさに2020年最も活躍したアーティストと言っても過言ではないミーガン・ザ・スタリオン。米『TIME』誌はミーガンを“2020年 世界で最も影響力のある100人”の内の一人として選出している。しかもそのカテゴリは”ARTISTS”ではなく、“PIONEERS”である点に注目してほしい。
前作からわずか8カ月というスパンでリリースされた新作『Good News』は、トラップ一辺倒には留まらない幅広い音楽性と、それら全てを見事に乗りこなしながらミーガンらしい力強くも挑発的なメッセージが込められた傑作である。その中でも出色の仕上がりなのが、ジャズミン・サリヴァンの名曲「Holding You Down (Goin’ In Circles)」のサンプリングを中核に構えた「Circles」だ。初期のカニエ・ウェストなどを彷彿とさせるトラックの上で、軽快かつ丁寧に韻を踏んでいく本楽曲は、アルバムの中でも特にミーガンのラップスキルが発揮された名曲だ。一方で、人間関係の難しさを描いたリリックには「銃弾の傷跡、陰口、母さんの死、まだ悲しいよ〈Bullet wounds, backstabs, mama died, still sad.〉」というフレーズがある。ミーガンのことをよく知っている人なら理解できるであろうその意味と、そこにある“脆さ”は、『Good News』全体のメッセージをより力強いものにしている。
80’sを受け継いだ2人が交わる時
Miley Cyrus「Prisoner feat. Dua Lipa」
かつてはお騒がせタレントとしての印象も強かったマイリー・サイラスは、今やスティーヴィー・ニックスやデボラ・ハリーといった、80年代を代表する先人たちの系譜を受け継いだ、現代のロックシンガーへと姿を変えた。先日のライブでブロンディの名曲「Heart Of Glass」を見事に歌い上げる姿は、彼女を軽視していた人の度肝を抜き、大きな話題となっている。
そんなマイリーの新曲には、同じく80年代を現代式にアップデートした最新アルバム『Future Nostalgia』を今年リリースしたデュア・リパを迎えており、まさに80年代の系譜を受け継いだ2人が一堂に会した、夢のコラボレーションと言えるだろう。オリビア・ニュートン・ジョンの「Physical」を連想させる〈Prisoner, Prisoner〉というフレーズが印象的な本楽曲は、やはり80年代を彷彿とさせる「懐かしくも新しいサウンド」となっており、デュア・リパの透き通るように真っ直ぐな歌声と、マイリーの荒々しくもハスキーな歌声の相性が最高で、まさに2020年のポップシーンにおける、一つの集大成のように感じられる。
徹底的に創り上げられた「男の世界」へのメッセージ
Marina「Man’s World」
昨年、Marina and the Diamonds(マリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズ)という名義をシンプルなMarina(マリーナ)表記に改名。前作『Love + Fear』に続く作品に向けて、SNS上で女性のコラボレーターを募集していた。そしてMV含め、全てのスタッフを女性とノンバイナリーで揃えたマリーナがついに来る新作の1stシングルとして発表したのが「もうこれ以上男の世界で生きていたくない〈I don’t wanna live in a man’s world anymore〉」と宣言する本楽曲である。
マリーナは、古くは魔女狩りから、2019年に策定されたブルネイの同性愛を罰する極めて厳しい法律まで、様々な歴史を参照しながら女性やLGBTQ+の人々が“Man’s world”に迫害されてきた過去、そして現在を歌いながら、男性に対して理解を訴えかける。本楽曲はあくまで対立ではなく、理解を促そうとしていることが重要だ。そして何より、神秘的、かつ壮大な本楽曲は極めて美しいポップソングであり、それはマゼンタやミントグリーンといったビビットな色彩の衣装を身に纏ったパフォーマーによるMVでも同様だ。1人でも多くの人に届いてほしい。
自由なプラットフォームだからこそ生まれる新たなポップミュージック
BENEE「KOOL」
2019年12月に発表した「Supalonely」が、3カ月の間を空けてTikTokを中心に大ブレイクし、あのエルトン・ジョンにまで評価されるなど、一躍人気ポップアーティストの仲間入りを果たしたニュージーランド出身、現在20歳のベニー。ついに登場したデビューアルバム『Hey u x』は、そんな成功で得た自信をモチベーションに様々な音楽性に挑戦した、実験的でユニークな作品となっている。
その中でも「KOOL」は、冒頭から強烈なインパクトを放ち、その後も多様される強靭な4拍のビートと、ニューウェーブを彷彿とさせるどこか奇妙でキャッチーな楽器の音色が楽しい曲であり、その奇妙さを増幅させるような、人気ライフシミュレーターゲームの『The Sims』を再現したキュートなMVも素晴らしい。すでに確固たる地位を持つアーティストの完成された作品も良いが、TikTokをきっかけにブレイクするアーティストの楽曲はどれも自由な楽しさを持っており、またポップカルチャーの違った魅力を発見することができる。
■ノイ村
海外のポップ/ダンスミュージックを中心に愛聴。普段は一般企業に勤めているが、SNSやブログにおけるシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。
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