『共演NG』は秋元康の企画力の真骨頂 80年代から現在まで話題作を生み出し続けた歴史
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芸能界の裏側を赤裸々に描いた『共演NG』(テレビ東京ほか)は視聴者の欲望のど真ん中を射抜く。
中井貴一演じる人気俳優・遠山英二と、鈴木京香演じる人気女優・大園瞳は、かつて恋人同士であったが、遠山の浮気によって破局。以後、ふたりは共演NGとなり同じ作品に出演することはなかった。そこから25年、ラブストーリー『殺したいほど愛している』(ころあい)でついに封印が解けた。
『ころあい』には、遠山と大園のみならず、共演NGの俳優たちが複数いる。元・師弟関係にあった出島徹太郎(里見浩太朗)と小松慎吾(堀部圭亮)、イケメンキャラがかぶっている2.5次元俳優・加地祐介(小澤廉)と戦隊モノ出身・佐久間潤(細田善彦)、元アイドルの篠塚美里(若月佑美)と現役アイドル・内田梢(小野花梨)。
一触即発状態な俳優たちがひしめく撮影スタジオは、まるでそこここに爆弾が仕掛けられているようで、テレビ東洋の制作スタッフや事務所スタッフたちは戦々恐々となる。なぜ、こんなにも共演NGばかり集めてしまったのか。制作スタッフはぼんやりさんたちばかりなのか。彼らはこの4組の俳優たちをひっくるめて「共演NGアベンジャーズ」と呼ぶ。
一般視聴者は芸能界の裏側情報が大好き。恋愛、不倫、ライバル……複雑な事情を想像して楽しんでいる。その興味を、やっぱりそうなんだ~と満たしてくれるエピソードが目白押し。
なかでも第1話で盛り上がったのは、サントリーとキリンというライバル会社がスポンサーだったこと。本来共演NGではないかと思う2社をあえて並べて紹介していた。スポンサーまでライバル関係の不穏な空気に、本作の音楽を手掛ける堀込高樹(KIRINJI)が、やたらとさわやかな高音で「共演NG~」と歌い上げ、風を入れる。
遠山と大園は共演解禁したものの、完全に雪解けしたわけではなく、いちいちぶつかり合っている。彼らのピリピリムードが、ほかの共演者たちの関係にも刺激を与えてしまう。さらに、遠山と大園の、なんだかんだ言いながら意外とお互い気にしている関係を、遠山の妻で元アイドルの雪菜(山口紗弥加)が感づいて、牽制してくる。
第4話では、これまでのことを振り返って、「製作発表のころあい事件」「師弟対決事件」「不倫発覚」「元カノ対今よめ戦争」が起こったとドラマ部長(岩谷健司)とプロデューサー(迫田孝也)がまとめてくれて、1~3話まで見なくても、なんだかわかった気になってしまった。
「共演NGアベンジャーズ」「製作発表のころあい事件」「師弟対決事件」「不倫発覚」「元カノ対今よめ戦争」と一言ですぐわかる親切ワードにできるエピソードばかり。これが、秋元康企画の真骨頂である。多くの人たちがぱっと見ですぐわかるパッケージングの完成度の高さ。
2019年、考察ブームを巻き起こした『あなたの番です』『あなたの番ですー反撃編ー』(日本テレビ系)は、「マンションの住人たちによる交換殺人ゲーム」、その1点で半年押し切った。前半は「毎週、死にます。」というキャッチコピーの通り、誰か死んで、前半のクライマックスでは原田知世が演じたヒロインが死んでしまうという衝撃で、「反撃編」に突入、視聴率はぐんぐん上がっていった。
どんな内容か、他者に説明しやすく、モチーフが今、世間で話題になっているもの、あるいは普遍性が高いものであること。秋元康企画は80年代から一貫している。
放送作家として数々のバラエティ番組に参加し、作詞家として多くの大ヒット曲を生み出し、プロデューサーになって、巨大で多岐にわたる企画を手掛けてきた秋元康は、テレビドラマの企画も80年代から行っていた。80年代は、「海岸」「恋」「サザン」「ユーミン」の『季節はずれの海岸物語』(フジテレビ系)。『男女七人夏物語』(TBS系)で俳優としても注目された片岡鶴太郎が海岸でカフェを経営する主人公を演じ、そこに来る女性客と恋をする。毎回、サザンかユーミンのヒットソングがかかる。
90年代は、「ポケベル」「不倫」の『ポケベルが鳴らなくて』(日本テレビ系)。緒形拳演じる大人の男性と裕木奈江演じるヒロインの不倫の恋。
10年代は、「AKB」「マイルドヤンキー」の『マジすか学園』シリーズ(テレビ東京ほか)。AKB48のアイドルたちが学園や刑務所、キャバクラなど様々なシチュエーションのなかでバトルしていく。
10年代後半になると、「ホラー」「ミステリー」の映画『クロユリ団地』や『あなたの番です』。
こうして40年近く、ヒット作を作り続けているのは、秋元康があくまで「企画」者として関わっているからだろう。脚本や演出は、餅は餅屋と、その道の新鋭だったりベテランだったり、その都度違うスタッフと組んでいる。
『ポケベルが鳴らなくて』は『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)でドラマ演出家としてブレイクする直前、PVなどで演出センスを発揮していた堤幸彦が参加していて、『マジすか学園』シリーズは、森ハヤシ、豊島圭介、徳永友一が参加。渡辺麻友主演の『さばドル』(テレビ東京ほか)では、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の根本ノンジ、指原莉乃主演の『ミューズの鏡』(日本テレビ系)では目下、大ヒットメーカーとなった福田雄一、『クロユリ団地』ではホラーの旗手・中田秀夫、欅坂46のミステリードラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京ほか)では『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の徳尾浩司、映画『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平、シベリア少女鉄道の土屋亮一など、『あなたの番です』はピチチ5の福原充則、『共演NG』は『モテキ』(テレビ東京ほか)やNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』などの大根仁と、自作の小説『ボクの妻と結婚してください』が映画化もされた、バラエティを多く手掛ける放送作家の樋口卓治を起用。じつに多彩だし、秋元ドラマを80年代から追っていくと、エンタメの歴史がわかる勢いである。
シンプルな題材を提示し、多彩な顔ぶれを集め個性豊かに料理させる、まさに名プロデューサーだと思う。
『共演NG』は、『金曜日のスマたちへ』(TBS系)や『人名探求バラエティー 日本人のおなまえっ!』(NHK総合)などバラエティ畑の樋口の芯をくった視点と、サブカル育ちのすこしひねった感性をもった大根のかけ合わせで、ベタ過ぎず、とんがり過ぎない、言い換えれば、ベタなものが好きな人も受け入れやすく、とんがったものが好きな人も離さないという、この組み合わせは共演OKである。
■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。
■放送情報
『共演NG』
テレビ東京系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:中井貴一、鈴木京香、山口紗弥加、猫背椿、斎藤工、リリー・フランキー、里見浩太朗、堀部圭亮、細田善彦、小澤廉、若月佑美、小野花梨、小野塚勇人、森永悠希、小島藤子、岡部たかし、迫田孝也、岩谷健司、瀧内公美、橋本じゅん
企画・原作:秋元康
監督:大根仁
脚本:大根仁、樋口卓治
プロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、合田知弘(テレビ東京)、浅野澄美(FCC)
制作:テレビ東京/FCC
製作著作:「共演NG」製作委員会
(c)「共演NG」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyouen_ng/
公式Twitter:@kyouenNG_tx