乃木坂46 堀未央奈が見せたアイドルとしての生き様 大貫真之介が辿る「バレッタ」から現在までの軌跡
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11月27日、午後10時15分、堀未央奈のソロ曲のMV「冷たい水の中」が公開された。
乃木坂46公式アカウントのリプ欄を見ると、「いつも応援してくださる皆さんへ堀未央奈より」という見出しに動揺したもののソロ曲のMV公開と知って安心し、MVの最後に語られた卒業発表に衝撃を受ける……というファンの感情の流れが可視化されている。
MVの内容はこうだ。ベンチコートを着た堀が乃木坂46で過ごした7年間が何だったのか独白するシーンから始まるのだが、その気持ちの揺れはどこか演技のよう。そして、ベンチコートを脱いで、センター曲「バレッタ」のセーラー服衣装で「冷たい水の中」を歌い出す。
秋元康の本領が発揮された繊細でどこか生々しい歌詞を、堀はコンテンポラリーダンスで儚く、そして激しく表現していく。思えば、『真夏の全国ツアー2019』で堀は自身が率いたユニットによる「自由の彼方」でもコンテンポラリーダンスを舞っていた。
堀はセーラー服を脱ぎ捨てると、震えた声で「私、堀未央奈は乃木坂46を卒業します。もっともっと冷たい水の中へ」と口にする……。
監督は、堀の主演映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』を撮った山戸結希。「冷たい水の中」を観て、山戸監督による西野七瀬のソロ曲MV「ごめんね ずっと・・・」を思い出した。
2分割の画面で展開されるのは、「アイドルの西野七瀬」と「もしも西野七瀬がアイドルになっていなかったら」の映像。一見すると「アイドルの西野七瀬」がノンフィクションで、「もしも…」がフィクションのようだが、しだいに「もしも…」こそ真実の西野に思えてくる。この正解のない映像体験は、いまでも頭にこびりついて離れない。
『冷たい水の中』のMVもまた、どこからがノンフィクションでどこからがフィクションなのか境界線が分からないからこそ、心が揺さぶられる映像になっている。そこには堀が乃木坂46で培ってきた確かな表現力があった。
今年6月20日に配信された『乃木坂46時間TV』(ABEMA)の「乃木坂電視台」で、堀は『ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル』をオマージュした企画「堀未央奈のキャラクターズブック」で、あざといインスタグラマーやギャルの女子高生といったキャラになり切ってインタビューに答える映像を放送した。
堀はドキュメンタリー風コントでフィクションとノンフィクションの被膜を「笑い」に変えてみせた。実は2017年4月のインタビュー(『EX大衆』)で、「ロバート秋山さんのクリエイターズ・ファイルみたいなことをやりたいんです」と答えており、以前から構想があったようだ。
以前のインタビューで、観賞したという松岡茉優主演の映画『勝手にふるえてろ』について話を振った際、堀はこう答えている。
「妄想をメンバーに話すことも多いんですけど、だからといって現実の世界が嫌いなわけじゃなくて、妄想と現実が混じり合ったような世界が好きなんです。ジブリ映画にもそんなロマンチックな描写があるじゃないですか」(『EX大衆』2018年7月号)
堀は、2013年10月に加入から5カ月でセンターに抜擢されてから「生き様」を「物語」に変えてきた。
7枚目シングル曲「バレッタ」でセンターに選ばれた時は、『乃木坂って、どこ?』(テレビ東京系)の放送前(同日)に代々木第一体育館のライブで選抜発表が行われ、1万2000人のファンを前に決意を語った。現在までファンを前にした唯一の選抜発表だ。
「バレッタ」の間奏部分では、先輩メンバーたちが手を掻き乱すなか、堀が歩いていく振り付けがあるのだが、まるで「嫉妬の森」を抜け出していくようにも見える。
12枚目シングルで表題曲メンバーに選ばれなかった時は、ドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方』のラストライブで、「自分ではない自分」との葛藤から「乃木坂を辞めるか、髪を切るか」悩んでいたことが母親視点のナレーションで語られた後、髪を切って笑顔で駆けていく堀の姿が映し出された。
12枚目シングルのアンダーライブ(4thシーズン)の千秋楽で、アンダーセンターを務めた堀は「アイドルをやっててよかった」と口にし、自ら『悲しみの忘れ方』を完結させるのだった。
そして、14枚目シングル『ハルジオンが咲く頃』では、卒業するセンターの深川麻衣が、曲の最後に堀の手をとって前に歩いていく振りがある。深川のインタビューによると「これからのことを頼んだよ」というバトンタッチの意味があったようだ。「ハルジオンが咲く頃」のMVは山戸結希が監督している。
近年の堀は、グループでは前線に立ちながら同期や後輩を「『守りたい』と思うようになった」と語るようになっていた。その一方で、個人としては山戸結希や山岸聖太といった監督との出会いから演技を追求していきたい気持ちが強くなったようだ。
堀は755で「背伸びしたお洒落すぎる世界観よりも乃木坂特有のシンプルさや品がある独特な世界観のほうが好きなのかもしれないなー」と書いたことがある。その真意を聞くと、堀はこう答えた。
「乃木坂に魅力を感じたのはその唯一無二感というか、繊細で芸術的な作品が多いところでした。楽曲だけでなく衣装もMVもそう。一見マイナスに感じるようなメンバーの個性でも、グループ自体の不思議な魅力で逆に輝かせてくれるし、実際、乃木坂に入った後も『このグループに入ってよかった』と思えたんです」「乃木坂の素朴でまっすぐなのに個性がある唯一無二なところは引き継がれていってほしい」(『EX大衆』2019年6月号)
乃木坂46の唯一無二な魅力を体現してきたメンバーこそ堀だったのではないだろうか。乃木坂46から離れた堀未央奈が「唯一無二の表現」で映像の世界を席巻する日がいまから楽しみだ。
■大貫真之介(おおぬき しんのすけ)
フリーの編集・ライター。アイドルを中心に、サブカルチャー全般を多くの雑誌に寄稿。『EX大衆』、『月刊エンタメ』、『日経エンタテインメント!』、『OVERTURE』などで坂道シリーズの記事を執筆。