U.D.O.、Manter、Annisokay……ジャーマンメタル&ラウドシーンの過去と未来をつなぐ新作10枚
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「ジャーマンメタル」と聞いて、皆さんはどんなバンド/音楽を思い浮かべますか? ジャーマンメタルとは文字通り“ドイツのヘヴィメタル”という意味ですが、時代によってイメージするバンドやサウンドは少しずつ異なるような気がします。
参考:5FDP、Halestorm、Shinedown…モダンとクラシックが交差するアメリカンHR/HMの新たな潮流
例えば80年代半ばまでなら、ScorpionsやAcceptといった湿り気のある泣きメロを持つ叙情的ハードロックや、男臭いパワフルなヘヴィメタルを思い浮かべることでしょう。しかし80年代後半以降、HelloweenやBlind Guardian、Gamma Rayといったバンドの台頭により、「アニソンにも似た明快なメロディとスピード感の強いパワーメタルサウンド」こそがジャーマンメタルという次式が完成したように思います。
このジャンル分け自体は日本固有のものであり、決して本国ドイツや海外諸国で通用するものではありません。しかも、90年代以降はゴシックやインダストリアルサウンドからの影響が強いRammstein、テクニカル系デスメタルのObscura、エレクトロニコアを導入したEskimo Callboyのようなバンドも登場しており、これらすべてを総じてジャーマンメタルと呼ぶことにいささか抵抗はあります。が、今回の記事ではジャンルとしてではなく、ドイツ出身のバンドという意味でこのジャーマンメタルという呼称を使うことにします。
日本でジャーマンメタルというワードが定着して約30年。我々が簡単にイメージする“Scorpions、Accept以降のジャーマンメタル”、“Helloween以降のジャーマンメタル”は現在どのような形で継承されているのでしょう。ここでは最近リリースされた新作10枚を紹介しつつ、そこから透けて見えてくる現在のドイツのメタル/ラウドシーンとはいったいどういうものなのか、少しでも伝えられたらと思います。
■Helloween以前の、王道の継承
70年代から活動するScorpionsやAcceptは現在も健在。まず最初に紹介するU.D.O.はそのAcceptのシンガーであったウド・ダークシュナイダーを中心に1987年に結成されたメタルバンドで、サウンドスタイル自体はAcceptのそれをそのまま継承したもの。先日発売された新作『Steelfactory』は彼らにとって16枚目のスタジオアルバムとなり、スピード感とヘヴィさ、シンガロングしたくなるコーラスパートやメロディアスなツインリードなど、Accept時代からの“らしさ”もそのまま引き継がれています。本作はジャーマンメタルといった括り関係なしに、2018年のハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)シーンにおける重要作と言えるでしょう。
一方で、ScorpionsやAcceptと同じく80年代にワールドワイドで活躍したドイツのHR/HMバンド、Warlockの紅一点シンガーだったドロ・ペッシュも今日まで現役で活動中です。Doro名義では通算13作目となる最新作『Forever Warriors // Forever United』は初の2枚組オリジナルアルバム。こちらも時代を超越したパワフルなHR/HMが展開されており、54歳という年齢を感じさせない圧倒的な歌声からは、40年近くにおよぶキャリアならではの深みも感じられます。また、本作にはWhitesnake「Don’t Break My Heart Again」やMotörhead「Lost In The Ozone」といったカバーも収録されているほか、Bon Joviのデヴィッド・ブライアン(Key)やThe Dead Daisiesのダグ・アルドリッチ(Gt)、Testamentのチャック・ビリー(Vo)、Annihilatorのジェフ・ウォーターズ(Vo)など豪華なゲストプレイヤーも多数参加。日本盤はボーナストラック6曲が追加されて計25曲、トータル100分とボリューミーな内容ですが、古き良き時代のドイツ産HR/HMの香り漂う楽曲群は一聴の価値ありです。
■Helloween以降の、ジャーマンメタルの“今”
続いては、“Helloween以降”のバンドの新作から。Primal FearはGamma Rayの初代シンガーであるラルフ・シーパースと、80年代初頭から活動するSinnerの中心人物マット・シナー(Ba / Vo)を中心に1997年に結成。今回紹介する『Apocalypse』は通算12枚目のスタジオアルバムで、先に述べた「アニソンにも似た明快なメロディとスピード感の強いパワーメタルサウンド」がそのまま実践された正統派ヘヴィメタルアルバム。ところどころにシンフォニックな要素も感じられ、バンドとしても常に進化を続けていることが伺える力作です。
ラルフと入れ替わりでGamma Rayに加入したヘニュ・リヒター(Gt)と2012年から加わったマイケル・エーレ(Dr)が、サイドプロジェクトとして2016年からスタートさせたのがThe Unity。昨年発のデビュー作『The Unity』に続き早くも発表された2ndアルバム『RISE』は、それぞれ長いキャリアを持つメンバーたちによる、安定感のある叙情的なメロディックメタルが楽しめます。しかも、単なる“Helloween以降”のジャーマンメタルでは終わらない、HR/HMが本来持つ懐の深さ、ジャンルとしての幅広さも備わっており、ジャーマンメタルというワードに苦手意識を持つリスナーでも楽しめる1枚と言えるでしょう。
2003年に結成されたPowerwolfはヘヴィで荘厳なサウンドとわかりやすいメロディ、このジャンルには珍しいブラックメタル的白塗りメイク、英語やドイツ語、ラテン語を駆使した壮大な物語性を持つ歌詞世界が特徴のパワーメタルバンド。そのスタイルは7thアルバム『The Sacrament Of Sin』でも健在で、重厚さやパワフルさ、ドラマチックさに重点を置いた作風は、“Helloweeni以前”と“Helloween以降”がバランスよく混在した、ジャーマンメタルの最新形なのかもしれません。なお、本作は初回限定盤のみEpicaやBattle Beast、Heaven Shall Burn、Kadavar、Amarantheなどドイツ国内外のメタル/ラウド系バンドがPowerwolfの楽曲をカバーしたボーナスディスク付き。こちらも興味深い仕上がりになっているので、興味があるリスナーはぜひチェックしてみてください。
■ドイツ出身バンドの新たな可能性
ここまでは“Helloweeni以前”と“Helloween以降”のバンドを通じて、ジャーマンメタルの現在進行形を紹介しましたが、続いて従来のジャーマンメタルの枠にとらわれない新たなスタイルを持つバンドたちの新作をピックアップします。
Obscuraは2002年にミュンヘンで結成されたテクニカルデスメタルバンド。デスメタルをベースに、プログレッシヴメタルやフュージョンなどの要素を取り入れた複雑怪奇なサウンドと、この手のバンドにしては珍しいフレットレスベースを取り入れている点などが特徴です。2年ぶり5作目のアルバムとなる『Diluvium』は次々に展開していく難易度の高いアレンジと、異常にテクニカルな各メンバーのプレイが合間って、コーラスパート以外メロディアスさが一切ないデス声ボーカルながらも不思議と引き込まれる、常習性の強い1枚。暴力的ながらも知的さも兼ね備えた、まったく飽きのこない力作です。
ボーカル&ギター、ドラム&ボーカルという2人編成のMantarは、2012年結成とキャリア的にはまだ浅いながらも強烈な色を放つ異色の存在。メタル/ラウドロックでベースレス編成は致命的と思われがちですが、彼らが奏でるヘヴィなスラッジメタルサウンドはドイツだけでなく世界中を見渡しても類似するものが見つからない、個性的なバンドです。昨年の初来日公演を経て、今年8月末にリリースされた3rdアルバム『The Modern Art Of Setting Ablaze』は、とても2人だけで鳴らしているとは思えないほどに重厚かつ威圧感があり、爆音で聴いたらきっと脳天をハンマーで殴られたような感覚に陥ることうけあいです。
男女ツインボーカルを含む6人編成のVenuesは、この夏にアルバム『Aspire』でデビューしたばかり。流麗な女性ボーカルと激しいスクリームやラップボーカル、モダンなバンドアンサンブルが織りなすサウンドは、日本のラウドロックバンドにも通ずるものがあり、coldrainあたりが好きなリスナーにもヒットするのではないでしょうか。また、女性ボーカルを擁したポストハードコアという点においては、初期のParamoreを好む人にもうってつけ。
男性4人組ポストハードコア/メタルコアバンドのOur Mirageにとって、先日発売された『Lifeline』は初のフルアルバム。昨年3月に発表されたデビューシングル『Nightfall』のMVは、現在までYouTubeで244万再生を記録する人気ぶりで、翳りのある叙情的なメロディと端正に作り込まれたサウンドからはLinkin Parkあたりの香りが感じられます。日本盤もリリースされていない、まだまだこれからの存在ではあるものの、名前だけでも覚えておいて損はないバンドのひとつだと思います。
さらに、ドイツ国内でこの手のバンドとしては比較的キャリアの長いAnnisokayの新作『Arms』も、メタルコアやポストハードコアが好きなリスナーにはたまらない1枚ではないでしょうか。すでに結成から10年以上の彼らが放つ4thアルバムでは、クリーンとスクリームを巧みに使い分けたハイトーンボーカルと、昨今のBring Me The Horizonあたりに通ずる浮遊感の強いエレクトロニコア寄りサウンドが独特のゴシック感を作り上げています。また、Attilaのクリス・フロンザックがゲスト参加した楽曲も含まれているので、この手のバンドが好きでたまらないリスナー必聴の1枚と言えるでしょう。
VenuesやOur Mirageしかり、こういったスタイルのバンドがこれから続々と、ドイツから世界に向けて羽ばたいていくことになるでしょうし、そういったバンド群が新たなシーンを築く可能性もゼロではありません。古き良きジャーマンメタルサウンドを守り続けるバンドもいれば、Annisokayたちのように時代に敏感な若手もいる。さらにその中には、ObscuraやManterみたいに新しいヘヴィ/ラウドサウンドを追求する者たちもいるわけで、視界を広げることでドイツのヘヴィメタル/ラウドロックシーンは思っていた以上に多彩であることがわかるはずです。これを機に従来の偏見を捨て去って、さまざまなドイツのヘヴィメタル/ラウドロックバンドに触れてみることをオススメします。(西廣智一)