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『鬼滅の刃』少女マンガ的な魅力とは? 炭治郎と禰豆子の兄妹関係に好感を抱くワケ

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リアルサウンド

 『鬼滅の刃』ブームがすごいですね。1日で鬼滅関連のモノを目にすることなく過ごすのは至難の業でしょう。先日はあまり視野を広げずに下を向いて歩いていたのに、道路に炭治郎のキーホルダーが落ちていました。

 かくいう私もジャンプ本誌で最終回まで追い、鬼滅SLに応募しまくり、当選したので乗りに行き、その予習のために映画を見に行ってバク泣きして来ました。鬼滅のためにけっこうイレギュラーなこといっぱいやっています。

 鬼滅を初めて知ったのは、2018年に六本木ヒルズで開催されていたジャンプ展の時です。『ブラック・クローバー』『約束のネバーランド』『鬼滅の刃』が新作連載として紹介されていました。その時に「鬼になりかけた妹を助ける兄の話? なにそれ胸キュンだ!」と思ったのです。

 私は少年マンガを全部読め進められたことがあまりないのですが、鬼滅のこのハマりっぷりは我ながら久しぶりです。その理由を考えてみました。

①シスコンものである

 兄と妹の話は、少女マンガにめちゃくちゃたくさんあります。『聖14グラフィティ』『東京のカサノバ』『エデンの花』『そんなんじゃねえよ』『シックス・ハーフ』などなど……。

 兄妹もので王道なのは、兄はめちゃくちゃデキがよくイケメンなこと。そして兄とは実は血が繋がっていませんでしたラッキー! 恋愛できる! みたいなもの。それが発展していき、実の兄が実の妹に恋愛感情を抱いて欲情しまくる物語すら登場しました。妄想と欲望の翼は果てしないですな。

 私個人は兄を欲しいと思ったことはなく、むしろ弟に強い憧れがありました。なので兄妹作品には萌えないのですが、一般的に兄妹・姉弟ものに非常に大きな需要があることは伺えます。

 ただ少女マンガには、やたら威張った兄が「お前、バカだな!」とか見下してくることがあります。「兄らしさ」を表現しているのでしょうが、実際やられたらけっこうイラッとくるはずです。でも炭治郎は、兄だからといって理不尽に権利を行使したりしないところが、兄萌えじゃない私にもとても好感が持てます。

②無惨さまが美しい

 悪者ってめっちゃマッチョだったり、とかく醜く描かれることが多いですが、無惨さまは美しいですね。登場する鬼たちも、グロテスクなものはあまりいません。

 もし無惨さまが「太陽の下を歩きたいよゲヒゲヒ」みたいな品のないキャラだったら「あー、早く倒されちゃいなよ」と思っちゃいます。でも美しいので完全に嫌いにはなりません。魘夢や堕姫も、美しかったですね。魘夢なんか喋り方まで何か色っぽくて、ゾクゾクしました。

 GACKTが無惨のコスプレした動画が話題になりましたが、あの無惨さまって、「スムース・クリミナル」って曲のマイケル・ジャクソンそっくりじゃないですか? 美しい!

③スポ根もの

 鍛錬を繰り返し、奇抜な訓練を受けるところなどはモロスポ根ものって感じですが、もうひとつ大きなスポ根要素があります。

 登場するキャラたちは、みな切なく苦しい体験をしています。でもそこで鬼になった人たちと、鬼殺隊に入った人たちには、大きな違いがありました。鬼になったのは人間に痛い目に遭わされた人たち。鬼殺隊に入ったのは鬼に痛い目に遭わされた人たち。炭治郎も禰豆子も、家族がとても仲がよく愛情深かったから人間への愛着を失わずに踏ん張れたと言えそうです。そしてもうひとつ、鬼になったのは「自分の弱さに負けた」人たちでした。

 スポーツに真剣に取り組んでいると、必ず自分と向きあうときが来ます。練習が辛くてサボるのか、体力の限界と思い力を弱めるのか。イライラしたり焦ったりして冷静な判断を欠き、試合で本領発揮できないこともあります。試合に負けて、自分の未熟な部分が露呈するのも辛いし、苦手を克服するためにできないことに取り組むのもまた辛抱です。炭治郎も言ってましたが、少し成長したと思うと、またその先に高い山が見えてくる。未来に勝利を得るために弱さと向きあわなければいけません。

 魘夢も最後に「アイツだ!! アイツのせいだ!!」「あのガキが悪い……!!」と、めっちゃ人のせいにしていましたね。弱い。「精神的な強さ・弱さ」をとても重視しているところが、すごくスポ根らしい良さがあると思うんです。

④禰豆子の太ももと蜜璃ちゃんの胸元

 炭治郎の背負ってる籠からボカッと出てくる禰豆子の太ももがめっちゃ萌えです。蜜璃ちゃんの胸元にもいつもハラハラさせられます。「どう考えてもこれは具が出ちゃってるのでは」と思いながら見ています。でも決して彼女たちは、お色気で男の気を惹こうとはしないんですよね。蜜璃ちゃんなんかあんなに恋愛体質なのにも関わらず、です。

 蜜璃ちゃんが胸の大きく開いた隊服を着せられているのは、そういう隊服を与えられたからで、拒否できることを思いつかなかったからのよう。それって長年女子達が「なんかブルマーって不便だし恥ずかしいしやだな」と思いながら「でも決まりだから」と着用していたのと似ています。禰豆子も蜜璃ちゃんも、なんか無防備なところがすごくリアルな女の子っぽくて好感が持てるんです。

 こうして「好きな点」をあげてみると、鬼滅には「いやだと思う要素」がほとんどないことに気付きます。炭治郎が威張って弟妹を見下すような長男だったら、1巻で読むのをやめたでしょう。無惨さまが醜い姿だったら、目にするのも不愉快で「鬼殺隊がんばれ、以上」だったでしょう。鬼成敗が単なる悪者いじめだったり、柱が才能だけで努力もしない人たちだったら、3巻で読むのをやめたでしょう。女性キャラが男性に媚びたり、お色気を振りまいたり、意志のない男性のチアガールみたいな役割だったら、5巻で読むのをやめたでしょう。

 もちろん、禰豆子の爆血がご都合っぽいなーと思ったりするので、まったく文句なく完璧と思っているわけではありません。だた、圧倒的に「不愉快」なことが起こらないのが、鬼滅のすごくいいなと思うところです。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報

『鬼滅の刃』既刊22巻(最終巻である23巻が12月4日に発売される)
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/