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藤原季節×内山拓也監督『佐々木、イン、マイマイン』対談 「三振かホームランしか狙っていない」

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リアルサウンド

 藤原季節主演映画『佐々木、イン、マイマイン』が現在公開中だ。

 本作は、King Gnuや平井堅、Uruのミュージックビデオを手がけた内山拓也が、俳優・ 細川岳との共同企画で挑んだ長編映画。実在する細川の同級生“佐々木”のエピソードをもとに、誰もが「あの頃の自分」、そして「今の自分」と出会える、普遍的な青春を描く。

 リアルサウンド映画部では、主演の藤原季節と内山拓也監督にインタビュー。同世代のキャストとスタッフで作り上げた本作への思いと、互いの存在について話を聞いた。

藤原「こんなに全身全霊で1個の作品を作る人に出会ったことがない」

ーー内山監督と藤原さんは同い年で、『佐々木、イン、マイマイン』は同年代が多いの現場だったそうですね。

内山拓也(以下、内山):監督と呼ばれる立場の僕がまだ20代ということもあり、みんな気兼ねなくやってくれた気がしています。偉そうにするのがちょっと苦手なもので、みんなと垣根なくやりたいなと思っていました。そもそも主人公たちの年齢が今の僕らと同じ年齢ということもありましたし。スタッフも含めて同年代が多かったから共通の話題で盛り上がったり、とっかかりとしてはやりやすかった人もいるのかなと思います。

藤原季節(以下、藤原):でも、同年代だからこそ距離感が崩れそうになる部分と、適切である部分と、そこの塩梅が難しいなと感じることもありましたね。だから内山監督と本当の友達になれたのは撮影が終わってからでした。

ーー撮影中と後で関係性が変わったんですね。

藤原:最近やっと肩の荷をちょっと下ろせたような気がしています。でも、僕にとって“佐々木”は、撮影が終わってからもやはり特別な存在なので、演じた(細川)岳とはいまだに緊張感がありますね。だから、一度温泉にでも行ってゆっくり喋りたいねと話してます。内山監督も岳も僕も、3人とも「俺たちまだまだ本当の友達になるには時間がかかりそうだけど、それもゆっくりやっていこうな」って話していました。

ーー近年は数々の名作MVを手掛けている内山監督、映画や舞台、そして現在放送中の『監察医 朝顔』(フジテレビ系)にも出演中の藤原さんですが、今回一緒に作品を作ってみて、お互いにどんな人だなと感じましたか?

内山監督:季節はとても不器用だけど、それを偽って器用に見せようとはしない、正直な人だなと思いました。僕は役者さんとコミュニケーションをとることが多いタイプだと思っているんですが、「僕はこう思うんだけど、どう思う?」と聞いたり、「僕も分からないからとりあえずあっちの対岸まで一緒に歩いてみよう」という言い方をしたり。一緒に考えることを絶対止めないってことだけは自分の監督人生として決めていて。僕が「どう思う?」って聞くと、人によっては「分からないです」「分かりました」で終わる人も多いかなとは思うんです。でも季節は、分からないときは「分からない」って言うけど、理解できるように頑張る姿を見せてくれる。僕は嘘を撮るのが好きではなくて、努力しようとする姿を見せないで、成果だけをカメラのレンズに見せないでほしいと思っていたので、季節はその不器用なりを一生懸命演じることが、主人公として正解だと思ってやってくれたんだと思います。そういう姿を主人公に投影したかったので、ありのままを見せようとしてくれたのが、嬉しかったです。

ーー藤原さんにとって、内山監督はどんな印象ですか?

藤原:内山監督に対してまず思うのは…、ちゃんと長生きしてほしいなってことです。こんなに全身全霊で1個の作品を作る人に出会ったことがないんですよ。全身全霊ってすごい言葉ですよね。本当に1つの作品、『佐々木、イン、マイマイン』に魂全部乗っけちゃうので。

内山:(笑)。1日24時間のうち起きてるのが16時間だったら、15時間ぐらい映画のことを考えてました。やっぱりお酒の席でも頭の中から映画のことはなくならなくて。映画に全て持ってかれちゃってるので。

藤原:ひと言で言うと、誠実な監督ですね。映画以外の場面でも、対人間関係においても。僕の悠二という役が内山監督の投影でもあるので、演じているときは監督の気持ちが分かるようになったことがあって。例えば内山監督がどんな人を好きになって、どんな恋愛をするのか、恋愛をしたらどういう感じになるのか、ちょっと想像つくようになったり。僕の脳内では誠実な男だと思ったし、誠実って裏を返すと不器用ということになると思うんです。誠実がゆえにそのことに向き合いすぎて、苦しいことがたくさんついてきて。この向き合い方をちょっと軽くすればいろんな問題が解決するんですけど、それができない。とにかく1個の問題に対して全ての魂をかけて臨んでしまう男なんですよ。

ーー藤原さんが内山さんの気持ちが分かった部分は合ってましたか?

内山:悠二のことを僕だからとはっきり言ったことはないんですけど、中盤くらいからは何も言わなくても僕がこうやってほしいなとか、こうやるだろうなっていう動作や言い方を季節がやっていて。聞くと、「勝手になっちゃうんだよね」とか「意識してない」っていう答えが多かったので、確かに乗り移ってくれているんだなと、僕の分身ぐらいに思ったときはありました。でも、僕の恋愛に対して乗り移っているから分かる、ということはちょっとわからないです(笑)。

藤原「この映画を観るのが怖かった」

ーー出来上がった作品を観たとき、どんな思いでしたか?

藤原:僕はこの映画を観るのが怖かったです。撮影中に僕が感じていたリアルなものが、言葉でまとめられない、複雑なもので、自分に大きくのしかかっていたものだったので、それが一つの映画として完成するということは、ある意味答えを出す、まとめることになると思っていて。この映画を観てしまうと、僕の言葉にならなかった感情が、まとめられちゃうんじゃないかと思って怖かったんです。だけど実際に映画を観たら、良い意味で何もまとめられていなかったんですよ。「あ、人の感情ってまとめられないよな」っていうのを確かめることができました。

ーー観るのが怖いという感情は、初めてだったんでしょうか?

藤原:少なからずありますけど、ここまではないですね。『佐々木、イン、マイマイン』に関しては楽しみという気持ちはぼなく、不安が大きかったです。とにかく人の手に渡ってほしくないという気持ちがありました。「『佐々木、イン、マイマイン』は僕だけの心の中にあるものだから、外に出したくない」というか……そういう感情、変ですかね? 分かります?

内山監督:分かるよ。その話ずっとしてるもんね。それでいつも取り止めもなく終わる。

藤原:映画を観て一番ホッとしたのは、ラストのエンドロールが流れているときです。「あ、僕の中にある『佐々木、イン、マイマイン』は何も傷つけられることなく世に出るんだな」って。まとめられないものをまとめないまま出してくれることの優しさを受け取りました。

ーー監督にとってはどんな作品になりましたか?

内山監督:僕は自信を持って、自分の代表作にするって決めてやっていたので、岳が不安そうなときとかに「お前のためにやってるんじゃない、俺が作りたい映画を撮るし、俺とお前の代表作にする」と話しました。それは季節にとっても代表作であってほしいと思うし、関わってくれた人たちにとっての1個のきっかけとなる作品にしたいなと思っていて。「三振かホームランしか狙っていない」という話を撮影中に季節としたんです。もしかしたら大コケするかもしれないし、超つまらなくて見せられないものになるかもしれない。けど、それでもいいから思い切って振りかぶって投げられたボールに対して、渾身のフルスイングをしようっていうことをやって撮ったので、そういう意味の作品が出来たと思います。

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■公開情報
『佐々木、イン、マイマイン』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
監督・脚本:内山拓也
出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾、村上虹郎
制作:槇原啓右
プロデューサー:汐田海平
配給:パルコ
(c)「佐々木、イン、マイマイン」

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