ISSA、SKY-HI、倖田來未らが『Paradox Live』にもたらした化学反応 各チームカラー打ち出す“Exhibition Show”を聴き解く
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漫画やアニメなどの2次元コンテンツの世界をリアル(3次元)の俳優が再現する「2.5次元舞台」や、CGやイラストといったアバターの姿で活動する「バーチャルYouTuber(VTuber)」など、2次元・3次元の境界を越えたコンテンツが注目を集める昨今。音楽畑においても、声優がキャラクターとして楽曲を歌うキャラクターソングという文化が古くから存在しているが、それをさらに一歩推し進めた「キャラクターとリアルアーティストによるコラボ」が登場して、話題を呼んでいる。それが“HIPHOPメディアミックスプロジェクト”の『Paradox Live』より、11月26日にリリースされた新作『Paradox Live Exhibition Show』だ。
『Paradox Live』は、エイベックスとジークレストの共同によるヒップホップを題材としたメディアミックスプロジェクト。近未来を舞台に14人のキャラクターたちから成る4つのチームがラップで競い合うもので、ストーリーはCDに収録のドラマトラックを中心に展開。それぞれ様々な背景を抱えたキャラクターたちの関係性や過去が少しずつ明らかになっていく面白さに加え、ステージバトルの勝敗はファンの投票によって決まり、その結果を受けて物語に変化が生まれるインタラクティブな要素が人気の一因になっている。
そしてもちろん、本コンテンツの中核となる楽曲もハイクオリティ。数々のメジャーアーティストを手がけるクリエイター集団、D.O.C. -Division of Creators-が音楽プロデュースに携わっており、現行の海外の音楽シーンと比べても遜色ないレベルのサウンドを志向しているのが特色だ。チームごとの楽曲カラーもしっかりと分けられており、国籍もセクシュアリティも多様な3人組ユニット・BAEはいわゆるK-POP風、孤高の実力派4人組ユニットのThe Cat’s Whiskersはジャジーヒップホップ、スラム出身の双子によるユニット・cozmezはトラップ、ギャング5人組ユニットの悪漢奴等はレゲトンやギャングスタ系の重厚なトラックと、ラップミュージックという大枠のなかで多様なジャンルを楽しむことができる。
このたびリリースされた『Paradox Live Exhibition Show』は、ステージバトルからは一旦離れ、各チームの新曲と最終戦を控える彼らのボイスドラマを収めた、文字通りエキシビジョンな企画盤。そのためか、各チームとリアルアーティストとのコラボ曲も、闘志をたぎらす普段の彼らとはまた違った表情や魅力が味わえる楽曲に仕上がっている。
まず、BAEがコラボレーションしたのは、DA PUMPのボーカリストとして20年以上に渡りJ-POPの第一線で活躍するISSA。その楽曲「P△R△DISE」は、ザ・チェインスモーカーズ「Closer」などにも通じるレイドバックしたムードのシンセサウンドが気持ちいいダンスポップチューンで、いつも以上にメロディアスなフロウを聴かせるBAEの3人はもちろん、フックを担うISSAの清涼感ある歌声が極上の聴き心地をもたらしている。また、歌詞も休日モードさながらの内容で、日本語・英語・韓国語を織り交ぜたBAE独自のスタイルを踏襲しつつ、〈世界中 Going Crazy〉〈ウィルスも蔓延遊べない Days〉〈ならOK Just Press The プレイボタン〉といったフレーズに、コロナ禍の現実に向けたポジティブなメッセージを忍ばせているところもグッとくる。また、BAEメンバーの歌に合わせてISSAが〈(Feelin’Good)〉と追っかけるパートがあるのは、おそらくDA PUMPのデビュー曲「Feelin’ Good -It’s PARADISE-」へのオマージュに違いない。
クールな世界観を志向してきたThe Cat’s Whiskersが、日米ハーフによるボーイズグループ・INTERSECTIONのミッチェル和馬をゲストに迎えて新たな方向性を打ち出したのが、彼ら(というか『Paradox Live』)にとって初のラブソング「My Sweetest Love」。メンバー4人がそれぞれ女性にアプローチしているのだが、渋いバリトンボイスでダンディに迫る西門直明(CV:竹内良太)から、一生懸命背伸びしている感じが母性本能をくすぐりそうな闇堂四季(CV:寺島惇太)まで、各キャラクターの特徴が色濃く出た三者三様のラップになっているのが面白い。そこにミッチェル和馬のジェントルな歌声が加わることで、甘くロマンチックな雰囲気が一層強まっており、ホーンやベースの生演奏を交えたジャジーな要素という軸はそのままに、いつもよりキラキラ感を増したサウンドも新鮮だ。メンズノンノ専属モデルで、恋愛リアリティーショー『オオカミちゃんには騙されない』(ABEMA)にも出演するミッチェル和馬とのコラボだからこそ成立した楽曲と言えるだろう。
ダウナー系双子ユニットのcozmezのエキシビジョン曲「Good Time」に参加したのが、スキルフルなラップとボーダーレスな感性で幅広く活動を展開するラッパー・SKY-HI。矢戸乃上珂波汰(CV:小林裕介)と那由汰(CV:豊永利行)兄弟の、メロディアスにもタイトにも柔軟に変化するラップに刺激を受けたのか、SKY-HIも得意の高速ラップでギアをトップに入れたかと思いきや、そこからテンポを落として遊びの利いたリリックとフロウで流石の実力を見せつける。いつもは危うい部分さえ感じさせるcozmezのハングリーさも、ここではポジティブな上昇志向の意味合いが強くなっており、SKY-HIと一緒に音楽を自由に楽しんでいるような心地良さがある。むしろ3人の相性が抜群すぎて、まるで元々この3人でユニットだったかのような自然ささえあるのが驚きだ。なお、本楽曲のトラックを手がけたSHIMI(BUZZER BEATS)は、SKY-HIとはSOURCEKEY名義で一緒にトラックメイカーとして活動している間柄。だからこそ、ここまでスムースな化学反応が起こったのかも知れない。
そして今年デビュー20周年を迎えた倖田來未がフィーチャリング参加した楽曲が、悪漢奴等の「EMPEROR – WE ON FIRE!! -」。低音のがっつり効いたレゲトン系のビートに合わせ、アグレッシブにラップを交わしていく悪漢奴等の血気盛んなマイク捌きもかっこいいが、やはりすごいのは倖田來未の存在感。色香というよりも妖艶さの漂う声で“全てを焼き尽くせ”と歌う彼女の存在感はまさに「女帝」といった趣きで、その姉御に付き従う5人の舎弟=悪漢奴等という構図が浮かんでくるような組み合わせだ。後半の倖田がソロで歌うパートで、各フレーズごとに悪漢奴等のメンバーが追っかけで歌うところは、特にその関係性を想像できる箇所だろう。
「キャラクターとリアルアーティストによるコラボ」が実現した今回の4曲に共通しているのは、『Paradox Live』の世界観と各参加アーティストの持ち味がちゃんとハモったうえで、誰もが楽しめるラップミュージックに昇華されていること。それはMICRO、SIMON、GASHIMA、WAYZの心之助とMt’ら実際に日本のヒップホップシーンで活躍しているラッパーたちがリリックを手がけ、サウンド面でもグローバルな音楽性を追求していることが大きいのだと思う。その意味では、これらのコラボ曲は『Paradox Live』の世界に入門する入り口として最適だろうし、キャラクターコンテンツのファンがヒップホップに興味を持つきっかけ、あるいはその逆としても機能するのではないだろうか。ぜひ一度、耳を傾けてほしい。
■流星さとる
流浪の人。アニメ・声優・アニソン関連のライター仕事、よろず承ります。お問い合わせは【ryuseisatoru@gmail.com】までどうぞ。