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繊細な悪役に定評あり 『ファンタビ』新グリンデルバルド役マッツ・ミケルセンの魅力を徹底解剖

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リアルサウンド

 マッツ・ミケルセンと聞いて思い浮かぶのは、彼のキャッチコピー「北欧の至宝」。いや、“至宝”と呼ばれすぎにも程があるのではないだろうか。いい加減何か他のキャッチコピーを考えてあげたい。

 人々に至宝と呼ばれ続けられるこのデンマーク出身の俳優は、つい最近『ファンタスティック・ビースト』第3作のグリンデルバルド役に抜擢されたことで話題となった。もともと、ジョニー・デップが同役を1作目のラストから演じていたが、先日イギリス誌ザ ・サンに対して起こした名誉毀損を巡る裁判に敗訴したことを受けて降板となってしまった。

 イギリスではデップの出演するCMを流したテレビ会社が訴えられるなど、訴訟の結果は波紋を呼び続けているが、彼の後任がマッツ・ミケルセンというニュースに世界中が良い意味でざわめいている。

 デヴィッド・イェーツ監督が真っ先にラブコールをした彼が、どうしてグリンデルバルドにふさわしい俳優であるのか。これまでの活躍や、彼自身の持つ抗えない魅力について徹底解剖していこう。

狂気の原点? 同郷の気鋭監督との出会い

 マッツがスクリーンデビューを果たしたのは1996年のこと。『プッシャー』(1996年)という麻薬密売人の男を描いたサスペンス映画に売人役として出演。スキンヘッドでコカインを豪快に吸う、無骨で危ないキャラクターのトニーをマッツはシリーズ2作にわたって演じ切った。この時の彼は後に演じた小綺麗なスーツを着た精神科医の男ハンニバル・レクターには程遠い。しかしこの相反する登場人物には狂気と暴力性、そしてそこに潜む官能さという共通項がある。いや、マッツの演じるキャラクターには必ずこれが見え隠れする。

 彼の狂気の原点とも言えるのは、『プッシャー』を監督した同じデンマーク出身であるあの、ニコラス・ウィンディング・レフンとの出会い。レフンにとってもこれがデビュー作であり、その後『ブロンソン』(2008年)、『ドライヴ』(2011年)に『オンリー・ゴッド』(2013年)、『ネオン・デーモン』(2016年)と、暴力性の高い作風を自身の持ち味としている。そんなレフンと、『ブリーダー』(1999年)、『プッシャー2』(2004年)、『ヴァルハラ・ライジング』(2009年)まで深い交流を深め俳優として成長してきたマッツ。幅広い役柄を演じるようになっても、バイオレンス畑出身の風格と切れ味がキープされるのにも納得だ。

 『悪党に粛清を』(2014年)や『ポーラー 狙われた暗殺者』(2019年)のような復讐劇も、そういう意味で本当よく似合う。静かに、しかし強烈な暴力を以ってして次々と相手を仕留めていく姿はまさにポスト、リーアム・ニーソンだ。

壊れた蛇口のように止めどなく溢れ出てくるフェロモンの正体

 マッツから流れてくるものは、狂気だけではない。エロスだ。当てられた全人類の心拍数を心配してしまう、警戒度最高レベルのフェロモン。薄い唇、少しシワのある繊細な目元、鼻筋の通った端正な顔立ちをしているマッツだけど、このフェロモンは顔以外の部分、特に肉体から発せられているように思う。

 もともと体操選手になろうとしていた彼は、後にスウェーデンのヨーテボリにあるバレエアカデミーに所属。デンマークに戻り、オーフス演劇学校に所属し俳優としての道を歩み始めるまで、彼は約10年間もの間プロのダンサーとして活躍していた。そんなキャリアがあるからこそ、彼の姿勢や動作は常に美しく無駄がない。それに単純な筋トレとは違い、バレエの場合は全身のありとあらゆる細かい筋肉を使うことが求められ、とくにインナーマッスルが重要になってくる。そういう体作りをしているからこそ、アクションをする時も早い動きと力強さが出せるのだ。

『POLAR/ポーラー 狙われた暗殺者』予告編

 現在も50代半ばとは思えない、胴の太いがっしりした筋肉質の体型を保つ彼は日常的に身体を動かすのが好きで、そのため私服がほぼ全部ジャージという茶目っ気もある(お気に入りはアディダス)。子供の頃はブルース・リーになることを夢見ていたマッツの凶器的な肉体美を拝むのであれば、『ポーラー』を是非お勧めしたい。くれぐれも、お父さんお母さんとは一緒に観ないように。

悪役をやらせたらピカイチ

 狂気と上品さ、エロスを兼ね備えた男が悪者を演じたら、それはもう最強だ! ダニエル・クレイグ版ボンド映画の1作目『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)では犯罪組織の会計責任者ル・シッフルを好演。色素の薄い瞳をした片目から、血の涙が止めどなく流れてしまうヘモラクリアという体質の悪役で、その神経質な雰囲気と血も涙もない拷問をするサディスト具合はマッツだからこそ出せたもの。

 彼の演じた悪役でもう一人印象的だったのは、『ドクター・ストレンジ』(2016年)のカエシリウス。エンシェント・ワンの一番弟子だったのに、暗黒次元を支配する邪悪な存在ドルマムゥの持つ力に魅せられ、離反する。しかし彼は単純に自分が最強の魔術師になるために、闇の力を求めたのではない。その背景には、亡くなってしまった妻と子供を蘇らせたいという、悲しい動機があるのだ。家族を失ってから永遠の命を求めてワンに弟子入りしたのに、彼女がそれを可能とする闇の魔術を禁じていたので、背いた。

 ル・シッフルにも、彼がヘモクラリアになったと思われる過酷な過去があるはずだ。組織からのプレッシャーも凄まじい。緊張によって顔が強張っていたり、吸入器を頻繁に吸引したりと、繊細さを感じる。どちらかというと、傷を負った獣の凶暴さというか。そういう一筋縄ではいかない、深みのある悪役を演じることにマッツは長けているのだ。

グリンデルバルドとマッツ・ミケルセン

 グリンデルバルドもまた、ヴォルデモートに比べてより深みのあるヴィランである。彼は魔法族が人間に迫害され、その正体を隠して身を縮こませて生きなければならない点に疑問を持った。彼にとって、全ては魔法族が自分のアイデンティティに自信を持ち、誰からも「化物」と後ろ指をさされないためのよりよい世界作りなのだ。そしてその背景には、ダンブルドアとの過去、決裂に至るまでの悲劇などがある。マッツはこれまでそういった、悲しい過去を背負う一筋縄ではいかない悪役に、彼なりの繊細さと冷酷さを与えてきた。特にル・シッフルは拳ではなく頭脳を使って他人を操り、汚れ仕事をさせるキャラということで、グリンデルバルドに通ずるものがある。そういう意味でマッツは、デップの後任に最適なのだ。

 グリンデルバルド役を演じることになった心境を、彼はEntertainment Weeklyにてこう語っている。

「ジョニーの功績と私の演じるグリンデルバルドをしっかり繋がなければいけないから、複雑だし未だどんな風にするか考えている最中です。しかし、同時に私は役を自分の物にする必要がある。前作のグリンデルバルドとの繋がりを持たせ、橋渡しをしなければ」(参照:Mads Mikkelsen breaks silence on Fantastic Beasts 3 casting|Entertainment Weekly

 すでに役作りを始めているというマッツは、デップの騒動を抜きに考えればグリンデルバルドを演じること自体とても楽しみにしていると明かしている。私たちもこの決定を受け止め、新たなグリンデルバルドに期待したい。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter