Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『共演NG』の中井貴一を魅力的だと認めずにはいられない 優柔不断を突き詰めた包容力

『共演NG』の中井貴一を魅力的だと認めずにはいられない 優柔不断を突き詰めた包容力

映画

ニュース

リアルサウンド

 秋元康×大根仁×中井貴一×鈴木京香によるドラマ『共演NG』(テレビ東京系)が、12月7日に最終回を迎える。

 過去に付き合っていた実力派大物俳優・遠山英二(中井貴一)と、人気女優・大園瞳(鈴木京香)が、テレビ東洋の新ドラマ『殺したいほど愛してる』で25年ぶりの共演を果たすところから始まった同ドラマ。様々な「共演NGアベンジャーズ」が集結、当初はギスギスしていた現場が、斎藤工扮するショーランナー・市原の企みなどにより、様々な困難を乗り越え、いつしか良いチームとなっていった。

 タブーとされる「業界あるある」が多数散りばめられた意欲作だが、途中からはそうした小ネタよりも真ん中で太く描かれる「恋愛」や「人間ドラマ」に普通に見入ってしまった。

 その吸引力は、なんといっても、事なかれ主義で優柔不断で頼りなく見え、肝心なところでは正義感や頼もしさを時折見せる中井貴一の魅力にあるだろう。

 見た瞬間に「キャー! 中井貴一、かっこいい!」と思う人は正直、そう多くないだろう。観るたびに「なんだよ、ミキプルーンのくせに」と思うし、優柔不断で、臆病でちょっとズルく見えるし、ちょっとマヌケな感じもあるし、マイナス要素は多いはずなのに。にもかかわらず、どんな作品・どんな役でも、出てくるとなんだか引っかかり、じわじわと気になって仕方なくなる。いったい何なのか。

 思えば、彼が一躍人気者になった作品『ふぞろいの林檎たち』(1983年、TBS系)の頃から、引っかかってはいた。ただし、当時10歳だった自分にとっては「なんでこの人、人気なの?」というのが最大の疑問で、父親の受け売りで「お父さんの佐田啓二は絶世の美男子だったのに」などと言ってみたりした(ロクに作品も知らなかったくせに。ああ、恥ずかしい……)。

 そうした感想は小学生時代からかなり長いこと続くのだが、自分の中で急に大きく印象を変えたのが小泉今日子との『最後から二番目の恋』(2012年、フジテレビ系)からだった。

 職場では姉御肌でありつつ、友人の前では毒舌、恋愛に関しては寂しがり屋で甘え下手で素直になれない、負けず嫌いのヤンキー体質の千明(小泉今日子)。それに対して、中井貴一が演じたのは、職場では真面目で誠実、家族には説教臭く、その実、悲観主義者でコンプレックスの塊でムッツリスケベのロマンチスト・和平だ。

 もう一度言う。「ムッツリスケベのロマンチスト」だ。それだけですでに中井貴一の魅力が十分に伝わるのではないか。

 顔を合わせるたびに口喧嘩になる二人のやりとりは、互いに心底楽しそうで、まさにベストパートナーに見えた。人前では他人行儀なのに、口論になると「あなたね」と感情的になるところも、器が小さく、こまごましたことを気にするところも、なんだかちょっとオバサンくさいところも、結局まるごと魅力のような気がしてきてしまったのだ。

 さらに、作品も役柄も最高結果の一つだと思うのが、『記憶』(2018年、フジテレビNEXTライブ・プレミアム)である。

 これは、中井貴一演じる若年性アルツハイマーを患った敏腕弁護士が、徐々に失われていく「記憶」というタイムリミットと戦いつつも、事故で息子を失った過去の未解決事件に、弁護士人生のすべてをかけて挑むストーリーだ。

 病状が進行し、焦り苦しむ一方で、主人公はこれまで見逃してきた「仕事への誇り」や「家族への愛」など、小さな幸せを再発見していく。病状が進行していき、まるで迷子になった子どものような不安げな表情を見せる中井貴一は、切なく、愛おしかった。

 特に中井貴一でなければ出せない味わいだと思ったのは、息子の死を決して忘れるまいとして、過去に縛られ続ける元妻のもとに、ある夜、唐突に稲荷寿司を持って訪れるシーン。すでに別の家庭を持ちながらも、病状が進行しているために、「現在」の記憶が一時的に抜け落ち、まるでタイムスリップしたように、別れた妻のもとに普通に「帰宅」してしまう。しかも、息子の死の記憶もない時点に戻っているだけに、息子の好物の稲荷を食べさせたいあまり「せっかくだから、起こしちゃおうか」と嬉しそうに笑うのだ。

 ここには、アルツハイマーになる前の仕事人間とも違う、息子を失い、家族が崩壊する前の、優しいパパの顔があった。そんな時代もあったのか……と、中井貴一の笑顔にただただ泣かされる。さらに、息子を轢き殺した犯人に近づくにつれ、自身の病状も進行し、焦る姿はもう、なんだか可哀想で本当に見ていられなかった。

 その頃からじわじわと、「もしかして中井貴一が好きなんじゃないか」と思うときがあり、その度に「いや、でも、ミキプルーンだよ?(※ミキプルーンが悪いわけでは決してない。むしろ良い商品です)」と打ち消してきた。

 しかし、『共演NG』を観て、改めてやっぱり中井貴一は魅力的だと認めずにはいられなくなった。

 本作の中で中井貴一は、元カノの鈴木京香に「なんかバーッと言いたくなる昭和顔」「耕運機みたいな顔」「うんこ野郎!」と散々罵られる。悪口を言っているときの鈴木京香は実にイキイキしていて、美しい。最高のガス抜き相手になっているのだろう。

 こうした中井貴一の「なんかバーッと言いたくなる」感じは、視聴者も共感するところだろう。気分が悪いときや、八つ当たりしたくなるようなときでも、なんだかんだ困り顔や呆れ顔をして「あなたねえ」なんて言いつつ、結局受け止めてくれる。どんな荒れ球でもキャッチしてくれる優柔不断を突き詰めた包容力が、中井貴一にはある気がするのだ。

 ちなみに、小学生の頃にピンと来なかった『ふぞろいの林檎たち』の仲手川良雄も、今改めて観ると、やっぱりとても魅力的だ。「三流の大学生」の仲手川が様々なことに巻き込まれまくる姿、うろたえぶりは、ちょっとほろ苦く、可哀想だが可愛くもあり、それでいて根底にはどこか諦念とともに根本的な呑気さ・たくましさのようなものが見えた。

 小さなことでムキになったり、ピリピリしたり、巻き込まれてはうろたえたりする小物感・人間臭さがありつつも、最終的にはどこまでも受け止め、許容してくれそうな呑気なたくましさがある中井貴一。それってつまり、生命力なんじゃないか。

 子どもの頃や若い頃にはわからなかった中井貴一の魅力は、まるで酒が飲めるようになってわかる、たまらなく欲しくなるほろ苦い珍味のようでもある。まだ魅力的に見えない人は、そこに到達していないか、逆に「私は若い頃からわかってたよ!」という人は、おそらく早熟な人なんだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『共演NG』
テレビ東京系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:中井貴一、鈴木京香、山口紗弥加、猫背椿、斎藤工、リリー・フランキー、里見浩太朗、堀部圭亮、細田善彦、小澤廉、若月佑美、小野花梨、小野塚勇人、森永悠希、小島藤子、岡部たかし、迫田孝也、岩谷健司、瀧内公美、橋本じゅん
企画・原作:秋元康
監督:大根仁
脚本:大根仁、樋口卓治
プロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、合田知弘(テレビ東京)、浅野澄美(FCC)
制作:テレビ東京/FCC
製作著作:「共演NG」製作委員会
(c)「共演NG」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyouen_ng/
公式Twitter:@kyouenNG_tx