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大根仁監督が明かす、ドラマ『共演NG』の制作背景 “抜けの良さ”が生まれた新たな仕事に

映画

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リアルサウンド

 秋元康×中井貴一&鈴木京香×大根仁によるドラマ『共演NG』(テレビ東京系)が、先日最終回を迎え、本日12月14日に特別編が放送される。

 大物俳優の遠山英二(中井貴一)と大園瞳(鈴木京香)、元恋人同士の二人が劇中ドラマ『殺したいほど愛してる』で25年ぶりに共演。他にも様々な事情を抱えた「共演NG」の俳優たちが集結し、それぞれの問題と向き合いながら一つの作品を作り上げていく様子を描いた大人のラブコメディとして好評を博した。

 今回リアルサウンドでは、本作を手がけた大根仁監督へのインタビューが実現。ドラマ本編に関する話題を前編、劇中の音楽に関する話題を後編にてお届けする。ドラマ制作の裏側を垣間見るようなリアリティと、現実ではあり得ない設定がバランスよく混在し「虚実皮膜」な世界観が展開された今回のドラマは、どのようにして生まれたのか。また、大根監督自身の変化が本作にもたらしたものとは。(編集部)

『いだてん』への参加がドラマ全体の仕上がりに与えた影響

ーー本日特別編が放送されるドラマ『共演NG』、全編を通してかなり楽しませてもらいました。

大根:ありがとうございます(笑)。おかげさまで、そこそこ評判もいいみたいで……特に業界の方からの評判がいいみたいなんですよね。自分のまわりの人間からも「面白い!」みたいなことは結構言われていて……作品を作るときはいつも、賛否両論あってしかるべきだし、どっちの意見も面白いなと思って受け入れるんですけど、今回は否定的な意見があんまりないような気がして。何か全体的に楽しそうにやってる感じはしますでしょ?

ーー出演者をはじめ、作り手たちが嬉々としてやっている感じは、観ているこちらにも伝わってきました(笑)。そう、本作のリアクションなどを見ていると、これまでの大根監督のファンとは、また違った層にまで届いたドラマだったんじゃないかと思って……。

大根:そうですね。だから、今回は自分から発信しないようにというか、実はこういった取材も、あんまり受けないようにしていたんですよね。というのは、この企画をもともと立ち上げたのは秋元康さんだっていうのもあるし、(中井)貴一さんと(鈴木)京香さんという強力な主演の2人がいるので、そこに僕のちょっとニッチな感じというか、サブカル的なものを匂わせるのは、ちょっと違うなっていう気もしていたので。

ーーとはいえ、細かいネタはもちろん、音楽をKIRINJIの堀込高樹さんが担当しているなど、大根監督らしいこだわりは、その随所にまぶされていて……。

大根:そこは、秋元さんにも言われましたね。このドラマにKIRINJIを持ってくるのが、お前のセンスだよなって。ただまあ、ドラマの内容について言うならば、いわゆる「業界もの」というか、「編集部もの」みたいなものは、これまで結構やってきて、そういった意味では、ある種得意ジャンルではあったんですよね。でも自分の職場である映像業界の「業界もの」っていうのはやってなかった。最初はどうなんだろう? と思いましたけど、映像業界というのは、自分がメインでやってきた場所なので、散々見聞きしている風景でもあるし、撮影条件にしても、ここはこういうふうに使えばあれが撮れるなとか、セットの組み方とかにしても、テレ東内部のロケ地の使い方とか、そういったものは、そんなに苦労せずに脚本を書くことができました。だから、いつものような事前取材の必要もないし、これまでの経験談や見聞きしたことを織り交ぜながら、なおかつそれをどうフィクションとして成立させるかっていう。そういう感じで書いていきました。

ーードラマの中にもありましたけど、まさしく「虚実皮膜」というか、ホントとウソが混ざっている、ちょっとメタな感じが非常に面白かったです。

大根:まあ、基本的にはあり得ない話なんですけどね(笑)。テスト無しでいきなり本番とか、役者にもスタッフにも怒られますよ。「できるわけないだろ!」って(笑)。ただそこに、今おっしゃっていただいたような虚実を織り交ぜていくというか、台詞のリアリティだったり、局内のディテールとか、役者の私服とか、スタッフが持っている小道具、あと俳優同士のやりとりとか、そういったものにはリアリティを持たせつつ。

ーーそのバランスが絶妙でした。そう、先ほど「これまでとは違った層にも届いたのでは?」と言いましたけど、そのあたりは結構意識されていたのですか?

大根:うーん、まあ自分よりも年上の役者さんが主役っていうのは結構久々だったので……『湯けむりスナイパー』(2009年/テレビ東京系)の遠藤憲一さん以来になるのかな。で、なおかつ貴一さんと京香さんっていう実力とバリューが伴っている方が主演なので、そのへんの観る側の受け皿の大きさみたいなものは若干意識しつつ、自分もちょっと大人になろうかなっていう(笑)。あの時間帯のテレビ東京の視聴者の年齢層とかも一応は考慮したし。あと、ウディ・アレンの「業界もの」映画って、あるじゃないですか。監督が主役だったり、女優が主役だったりっていう。ああいうものはもちろんずっと好きなので……まあ、ウディ・アレンほどのウィットも品もありませんが、そこらへんは多少意識した部分はあるかもしれないですね。

ーーなるほど。

大根:あと、去年『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年/NHK総合)に参加させてもらったのは、結構大きかったのかなって思います(※大河ドラマ初の外部の演出家として起用)。それまではずっと、10数年のあいだ、深夜ドラマから映画、そしてテレビドラマをやりながら、全部が全部自分でやっているわけじゃないですけど、僕が企画の中心となって、脚本、演出に加えてキャスティングや宣伝などプロデュース的なことまでをやっていて。そのことにちょっと疲れていた時期でもあったので、一回他所の仕事というか、いち演出家として受け仕事をやろうっていうモードだったんですよね。そしたら、それが「大河ドラマ」という、非常に大きな仕事でもあって。そこで得たものが、すごく大きかったような気がします。

ーー自分の企画ではない『いだてん』に関わることによって、ちょっと風通しが良くなったというか。

大根:うん、そうですね。もちろん、新しいものを作り始めれば、いろんなストレスは出てくるし、特に脚本作りとかは、やっぱり今回も大変だったりはしたんですけど、結果的にというか、ドラマ全体の仕上がりを観て、「あ、とても抜けがいいな」って自分でもちょっと思いました。これも僕の個性のひとつだとは思うんですけど、いつもあるようなシニカルさやひねくれた目線が、このドラマにはないなと。まあ、ポイントポイントでありましたけど(笑)。

2020年というものすごく変化した年に相応しい仕事だった

ーーなるほど。一部では、昨今の「忖度」重視の流れを打ち破り、敢えて「忖度しない」ことを描いてみせたドラマだった……という見方もあるようですが、作り手としてそこは意識された部分なのでしょうか。

大根:あ、そこまでは考えてないですね(笑)。もちろん、何も考えてないわけではないですが。例えば、第3話の不倫スキャンダルの謝罪会見とか、ああいったものの芸能界における「忖度」みたいなことはちょっと意識したし、そもそも「誰に対して謝ってるんだっけ?」みたいなことは、やっぱりあるわけじゃないですか。まあ去年、自分もそれに近いようなことに直面したりはしていたので。で、まあ、そういったことの渦中にいるときは、もちろん自分もあたふたしましたけど、心のどこかで、そうやって事件が起きた時に右往左往する、自分も含めたスタッフたちの様子を客観視しながら、「なんだかドラマチックだな」って思ったりもするわけですよ。今回のドラマじゃないですけど、「ちょっと俺、上に確認してくるわ!」とか「どういうコメントを出すんだ?」とか「広報の対応を調べろ!」とか、その現場に居合わせながら、「うわー、ドラマみたい」って思ったり(笑)。

ーー(笑)。そういう現場を、実際見てきているわけですもんね。

大根:そう、伊丹十三監督の『お葬式』(1984年)っていう映画があるじゃないですか。伊丹監督があの映画を作るきっかけになったのは、宮本信子さんのお父さんが亡くなったとき、お葬式を準備する過程が、まるで一本の映画みたいだって思ったからって、伊丹さんがおっしゃっていて。今回の『共演NG』というドラマも、それに近いのかもしれないですよね。自分が実際に体験してきたテレビの現場というものを、一歩引いた目線で見たら、ドラマみたいだったっていう。そこに秋元さんらしいケレンの効いた「共演NG」っていうテーマだったりワードがあって……それが合わさって、ああいうものになったのかなっていう気はします。

ーーいずれにせよ、これから大根監督が作るものが、ますます楽しみになってくるようなドラマだったと思いますが、依然としてコロナの影響もあるわけで……映画はまだちょっと難しい感じですか?

大根:そうですね……映画は、まだしばらくないかな? ただ、これは『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)をやり始めた頃からちょっと感じていたんですけど、今の日本の映画の状況、特に邦画の実写映画を取り巻く環境が、僕にとっては今、あんまり良くない感じがしていて。ちょっと両極が過ぎるというか、個人的には、何となくやりにくいところもあるなって思っていて。テレビのほうがフレキシブルというか、やっぱり速いんですよね。映画は、企画の成り立ちから公開まで、最低でも1年とか2年、ヘタをすると4~5年とか経ってしまうので。テレビは、企画が決まってから放送まで、2、3カ月でいける。今回の『共演NG』だって、僕のところに話がきたのは、今年の4月ぐらいでしたから。

ーーあ、じゃあ、すべてが、このコロナ禍の中で生まれたという。

大根:そうですね。自粛期間中、ずっと今回の脚本を書いていて。あんまり人にも会えなかったし、打ち合わせもほとんどリモートでやったりとか。でも、それで得たものも多かったような気がするんですよね。打ち合わせって、どうしたって長くなるじゃないですか。まあ、今回もそういう打ち合わせも何度かやりましたけど、基本的にはリモートのやり取りで。リモートだと、要点だけで話が進んでいくので、会って対面で話すよりも、意外と正直に話せるみたいなところがあって。それはそれで良かったんじゃないかと思います。

ーー何となくわかります。そう、12月14日の放送は『共演NG 特別編』という形になっていますが、これはどんな内容になるのでしょう?

大根:先週ご覧になっていただいたように、第6話で物語自体は終わって……一応、ちゃんと終わらせたぞと自負しているというか、KIRINJIの堀込さんに作っていただいたタイトル曲の使い方に関しては、もう最高の使い方をさせてもらったと思っていて。「このために、この曲はあったのか!」っていう感じだったと思うんですけど(笑)。で、それはそれで終わって……そう、最初から予算とかスケジュールの関係で、全6話っていうのは決まっていたんですよね。ただ、編成の都合上、どうしても、あと1話欲しいってことだったので、一回最終回マークは出すけど、「特別編」という形で、本編では回収し切れていないものをやるのはどうかなって思って。まあ、その最たるものが、斎藤工くんが演じた市原龍というキャラクターなんですけど。

ーー謎のショーランナーですね。彼が現場に現れない理由は、最終回で明かされましたけど……。

大根:そう。ただ、ショーランナー・市原龍が、なぜこのドラマ(劇中ドラマである『殺したいほど愛してる』)を作ろうとしたのかっていうのは、まだ明らかになっていないじゃないですか。だから、その謎解きの回であると同時に、これまでのダイジェストの回でもあるっていう。あと、橋本じゅんさんが演じた芸能デスクの中川というキャラクターがものすごく良かったので、彼が市原龍をインタビューするっていう構成にして。そうすると、またちょっと別の切り取り方ができるんじゃないかなって思って……だから、そういう回になっています(笑)。あと、Paraviでやっている『共演NG』の番外編みたいなもの……『殺したいほど疲れてる!~「共演NG」のホントにNGな舞台裏~』っていうのがあるんですけど、あれはあれで結構面白いものになっていると思うので、そちらのほうも合わせてご覧になっていただけたら嬉しいですね。

ーーなるほど。こうしてお話を聞いていると、大根監督にとっても、わりといい感じのプロジェクトになったのかなと。

大根:そうですね。何かこういった特別な……というか、2020年というものすごく変化した年に、自分の中では相応しい仕事だったのかなって思ったりもするんですよね。もちろん、責任を持ってやりましたけど、どこか無責任な部分があって良いというか(笑)。そもそも秋元さんの企画なんだから、僕は内容に関してだけ責任を持てばいいやとか、劇中のドラマ『殺したいほど愛してる』も、あれは僕じゃなくて池田監督が撮っているわけですから平気でダサい演出もできる(笑)。そういうことがさっき言った「抜けの良さ」に繋がっているのかなと。受注仕事でありながら、これまでの経験が活かされて、自分の個性や得意技も発揮できるという、これまでにない新しい仕事でした。

後編に続く)

■放送情報
『共演NG』
テレビ東京系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:中井貴一、鈴木京香、山口紗弥加、猫背椿、斎藤工、リリー・フランキー、里見浩太朗、堀部圭亮、細田善彦、小澤廉、若月佑美、小野花梨、小野塚勇人、森永悠希、小島藤子、岡部たかし、迫田孝也、岩谷健司、瀧内公美、橋本じゅん
企画・原作:秋元康
監督:大根仁
脚本:大根仁、樋口卓治
プロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、合田知弘(テレビ東京)、浅野澄美(FCC)
制作:テレビ東京/FCC
製作著作:「共演NG」製作委員会
(c)「共演NG」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyouen_ng/
公式Twitter:@kyouenNG_tx