佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 1回目 前編 作詞家・児玉雨子とアイドルソングの歌詞を考える
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「聴くなら聞かねば!」ビジュアル
佐々木敦と南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」がスタート。この連載では「アイドルソングを聴くなら、この人に話を聞かねば!」というテーマのもと毎回ゲストを招き、2人が活動や制作の背景にディープに迫っていく。記念すべき初回は、ハロー!プロジェクトを中心にさまざまなアーティストの作品を手がける作詞家・児玉雨子に登場してもらい、作家デビューまでの経緯やコロナ禍以降のクリエイションについて語ってもらった。2020年の幕開けと共に突如ハロプロの魅力に開眼した佐々木は児玉が語る制作秘話の数々に興味津々。また対談の序盤では、南波と児玉の出会いにまつわる興味深いエピソードも。大いに盛り上がったトークの模様を計3回にわたってお届けする。
構成 / 望月哲 撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG
10代の頃は鉄の鎧をがっちり着こんでました
南波一海 今日は佐々木さん、児玉さんに聞きたいことがいっぱいあるんですよね。
児玉雨子 え! なんですか!?
佐々木敦 いや、児玉さんの書く歌詞があまりにも素晴らしくて……今、その昔、つんく♂さんにインタビューしたときよりも緊張してます。
児玉 いや、それは盛りすぎですよ!(笑)
佐々木 この発言を対談の冒頭に使ってもらいたいなと(笑)。
一同 あははは(笑)。
佐々木 それはともかく(笑)、今日は連載1回目のゲストに出ていただいて、ありがとうございます。はじめまして。
児玉 あっ、はじめまして(笑)。こちらこそありがとうございます。「ことばと」でもお世話になりました(佐々木が編集長を務める文学ムック「ことばと」vol.2の 企画「本がなければ生きていけない」に児玉がコラム「等身大九龍城」を寄稿)。
佐々木 南波くんに連絡先を聞いておそるおそる執筆を依頼したんですけど、まさか受けていただけるとは。すごくお忙しいと思うので。原稿も素晴らしかったです。
児玉 本棚を見せるという企画で。書けてうれしかったです。
佐々木 今日のために少し予習しまして、過去のインタビュー記事なんかで、雨子さんの歌詞のベースに文学が影響していることとか読んできたんですけど、なにぶんまだ、にわかの状態で……。
児玉・南波 にわか(笑)。
佐々木 南波くんは以前から昵懇だと思うけど、僕は今日が初対面なので。「ことばと」の件でメールでのやりとりはあったものの、距離感をどう取ればいいのかがわからないみたいな、そういう感じで今、すでに始まってるんですけど(笑)。
児玉 はい(笑)。
佐々木 で、これは児玉雨子ファン、南波一海ファンには周知の事実かと思いますが、雨子さんが作詞家として活動していくにあたって、南波くんが大きな役割を担っていたという。
児玉 そうなんですよ。雑誌に載るようなインタビューを最初にしてくださったのも南波さんですし、アップフロントの橋本(慎 / ディレクター)さんを紹介されたときも、南波さんが一緒にいらっしゃいましたし。めっちゃ恩人。
南波 やめてください(笑)。そんなに大したことをしたわけではないので。
佐々木 なんちゃんはどういうきっかけで雨子さんの存在を知ったの?
南波 そもそもは雨子さんが手がけたコピンク(静岡朝日テレビで放送されていた情報番組「コピンクス!」に登場するキャラクター。さる12月10日をもってJuice=Juiceを卒業した宮本佳林がキャラクターボイスとオープニングテーマ「カリーナ ノッテ」の歌唱を担当していた)の歌詞が、めちゃめちゃ変わってるなってところから興味を持って。
佐々木 それは曲を聴いてすぐに?
南波 そうです。それまでのポップソングで見たことのないような言葉遣いだったので。しかも歌詞を書いてるのが二十歳くらいの大学生だと聞いて、「この人はどういう人なんだろう?」って。その後どこかで挨拶したのかな。
児玉 佳林ちゃんが初めてコピンクとしてライブをしたときですね。
南波 そうだ、静岡で。
児玉 あの日は南波さんと、吉田豪さんもいらしてて、「業界人がいる!」みたいな(笑)。
南波 で、その後、取材させてもらったんですけど、あの頃の雨子さんは相当……。
児玉 鉄の鎧を着てましたね(笑)。当時18、19歳とかだったんで、今とは比べ物にならないくらい世界に対する疑問や不満を持っていて。あの頃が一番がっちり着込んでました。
南波 誌面に載らないような毒もバンバン吐くし、めちゃくちゃ面白かったです。
1年で歌詞が採用されるとか運がいいほうだなって
佐々木 じゃあ最初の出会いからインパクトが強かったんだ。
南波 そうなんです。その後、自分がハロプロ関連のイベントを渋谷のタワレコでやらせてもらったときに雨子さんが観に来てくれて。
児玉 あの日、知り合いの放送作家さんと渋谷を歩いてたら、その方がTwitterを見て「タワレコでスマイレージのイベントをやってるみたいだよ」って。その作家さんは以前、橋本さんとお仕事されていたそうで、「スマイレージって知ってる?」って聞かれたから、「デビュー曲は聴いたことあるかも」って答えて(笑)。それで会場に行ったら橋本さんを紹介されたんですけど、もう見た目がわかりやすいぐらい業界人で!(笑)
佐々木・南波 あははは(笑)。
児玉 「絶対この人、危ないじゃん!」と思ってたら、一番健全な人だった(笑)。悪い業界人のイメージってあるじゃないですか。女の子に手を出して、セクハラしてパワハラして、「俺たち徹夜で仕事やってるぜ!」みたいな(笑)。橋本さんも一見そういう感じなんですけど、実はコンプライアンスをバチ守りしてるっていう(笑)。
南波 当時つんく♂さんが体調を崩されていたこともあって、スタッフさんが新しい作家を探してた時期だったんですよね。
児玉 はい。それがきっかけでハロプロのお仕事をさせていただけるようになって。ただ、しばらくボツ時代が続いて、歌詞が正式に採用されるようになったのは1年後ぐらいでしたね。若いときの1年って長いから、ちょっとしんどかったりしたんですけど、でも1年で歌詞が採用されるとか、自分でも運がいいほうだなって思います。
南波 とはいえ、当時は二十歳そこそこだったわけですよね。
児玉 そうですね。
佐々木 以前も南波くんとの対談でそのことについて話したんだけど、新たなプロダクション体制を作るにあたって、ハロプロが児玉さんや星部ショウさんのような若い作家の方々にチャンスを与えたことが僕はすごく興味深いなと思ったんです。いろんな考え方があると思うけど、つんく♂さんと同じくらいとは言わないまでも、ある程度、知名度のある作家さんに仕事をお願いすることだってできたわけですよね。そのほうがある意味で安パイというか。
児玉 本当におっしゃる通りで、ハロプロが攻めの姿勢に転じてくれたのが私にとっても、すごくありがたいことでした。いいタイミングで声をかけてもらえるようになって。
「この寒波で生き残ったらこっちのもんや!」と思ってます
佐々木 僕はアイドル業界の外部にいる人間なので、どういうふうに楽曲が採用されているのかはわからないんですけど、端から見てもハロプロが攻めてる感じが伝わってきたんですよね。アイドルの曲って、レーベルなり事務所なりと付き合いの深い作家が書いてる印象があったんで。
児玉 確かに大手の事務所やレーベルだと、所属してる作家が曲を提供することが多いですよね。職業音楽作家の世界ってすごく村社会だし、基本はコンペ制で、私たち作家側は行き詰まると「リスナーが求める詞曲」ではなく「コンペに通る詞曲」を目指すほうに陥ってしまいがちなんです。アップフロントに関して言うと、作家の独自性を認めてくれるからうれしいですけどね。今、コロナ禍で音楽業界がヤバいみたいな雰囲気あるじゃないですか。実はそのマイナス面のツケを払ってる感があるなと思っています。
佐々木 既得権益的な。
児玉 そう、コロナの影響で既得権益的になっていたシステムが瓦解して。私、「ハロプロの歌詞を多く書いている」って紹介されることが多いんですけど、曲の数はアニソンとハロプロの楽曲が同じくらいなんですよ。
南波 ここ数年はハロプロ以外の仕事も幅広くやっていますもんね。
児玉 はい。アニソンとかキャラソンとか。
佐々木 最近だと雑誌「BRUTUS」の恋愛特集でも原稿を書いていましたよね。
児玉 はい。しかも「BRUTUS」では“エス(少女と少女の恋)”という、アイドルとは全然関係のないことを書いていて(笑)。このお仕事を始めたときから、特定の組織に依存しないでいようとは意識してたんです。依存するとお互い不健全な関係になるなと思って、常に“外部”の人でいようと。
佐々木 特定の組織に依存するというのは、いわゆる、お抱え作家みたいなことですよね。
児玉 あと、自分が書いた曲が売れることで、変に勘違いして承認欲求のパースがおかしくなっちゃう作家もいて。曲や歌詞のよさはあるとして、その曲がヒットした背景にはメンバーの努力だったり、レーベルの力もあるわけじゃないですか。それなのに、コンペに通った人が「あの曲書いたの俺 / 私だけど?」みたいな態度を取っちゃったり。
佐々木 そういうマウンティングの世界があるんですね。
児玉 そういう人たちを見て、ずっとモヤモヤしていました。「こいつら全員、足の小指タンスにぶつけろ!」とか(笑)。一方で、自分が「ハロプロの歌詞書いてますけど、何か?」みたいに、イキってないかも怖い。「持ちつ持たれつ」とは違う、そういった依存的な感覚が“普通”だったので。でも、“普通”という名の綻びがやっとなくなるんじゃないかと最近は思っていて。
佐々木 コロナ禍によって、アイドルのみならず音楽業界全体の護送船団方式みたいなシステムの形骸化が浮き彫りになったわけですよね。
児玉 どこか消耗戦みたいになってたじゃないですか。今はそれが健全になるタイミングなんじゃないかと思っていて。私、南波さんがアイドルレーベル(PENGUIN DISC)を作られたときのコンセプトがすごく好きです。「いつかアイドルシーンに冬の時代が来るから」っていう。
南波 そうそう。だからレーベルロゴでペンギンが身を寄せて抱き合っているっていう。
児玉 冬どころか大寒波が来ちゃったんですけど(笑)、でも私は勝手に「この寒波で生き残ったらこっちのもんや!」と思ってますよ。全部壊されたから、もう1回作り直せるんじゃないかなって。
知らない誰かが言ってることを拾って体裁を整えて歌詞にしている
佐々木 雨子さんは高校時代に小説を書いて新人賞にエントリーされたりと、昔から言葉にすごく関心を持っていたわけですよね。それが、ある種、偶然の神の采配によって作詞家というお仕事に就くことになった。小説や詩とは違う、歌詞でしか表現できない特別さって、どういうところにあると思いますか?
児玉 歌詞の特別さ……なんですかね。
佐々木 1つは必ずそれを歌う人がいるってことですよね。
児玉 あ、それはありますね。自分が歌うものではないから、個人的な思想はあまり反映されていなくて。けど自分の中にまったくないものを書ききれるかっていうと、それはちょっと難しいかなと思います。歌詞として書けるのは、少なくとも自分が共感できる範囲のことになりますね。表現が難しいんですけど、知らない誰かが言ってることを拾って、体裁を整えて歌詞にしているという感覚です。うーん、なんて言えばいいんだろう。
佐々木 サンプリングしてる?
児玉 はい、サンプリングしてます(笑)。電車の中で誰かがしゃべってる会話を聞いて、「ああ、そういうことに悩むんだ」っていうのを拾ってきたり。取材はしてるんですよね。
佐々木 自分以外の人が思ってることを、その人になった気持ちで書くというか。とはいえ、やっぱり自分も出てきちゃいますよね?
児玉 ちょっとは出てくるとは思います。自分のフィルターを通しているので。
メンバーにグループを背負わせすぎないように
佐々木 日本の音楽産業における職業作詞家の存在って、ある意味ですごく特殊だと思うんですよ。このアイドルが歌いますとか、このぐらいの時期にリリースされますとか、何かしらの条件があるうえで仕事がスタートする。そういうオーダーに応えながらも自分なりのオリジナリティを出して、しかもリスナーが言葉のレベルでも魅力を感じて、いい曲だな、いい歌詞だな、何回も聴きたいなって思うことが求められるわけじゃないですか。
児玉 そうですね。
佐々木 職人的な部分と、それだけではない要素の両方が必要というか。歌謡曲が栄華を極めていた80年代くらいまでだったら作詞家も職人として、うまいだけでやっていけたかもしれないけど、今は職人的なだけではダメだと思うんです。ターゲットとなるリスナー層やマスに向けてなんとなく上手に言葉を連ねるよりも、もっと個性とか差異化が求められるというか。作詞家は、アーティストの部分と職人の部分を兼ねそろえていなきゃいけない。僕がアイドルに興味を持って、いろいろ曲を聴くようになったときに、雨子さんの歌詞は、さっきなんちゃんが言ったように「ほかの作詞家とは違うな」と、すぐ思ったんですよね。
児玉 恐れ多いです!
佐々木 聴いてて「うわ、なんだこの歌詞!」って思ったとき、クレジットを見ると、だいたい雨子さんだったので。歌詞を依頼されるにあたっては、クライアントから多かれ少なかれコンセプトみたいなものが提示されるわけですか?
児玉 だいたいはそうですね。ただ、それもディレクターさんによるんですけど。びっしり箇条書きで、レポートみたいにして出してくる方もいますし、反対に「リリース時期はこれくらい。じゃ、ヨロシク!」みたいなこともあります(笑)。
佐々木 何も縛りがないと逆に難しくないですか?
児玉 私は何も縛りがないほうが楽しいときがありますね。
佐々木・南波 へえー。
児玉 あまりにもびっしりコンセプトが書かれてると、「これ、私じゃなくてよくないですか?」ってここ(喉元)まで出ちゃうんですよ(笑)。ただ、発注シートを書きながら頭の中を整理するタイプのディレクターさんもいるから、そのときは「結局こういうことですか?」って一緒にコンセプトを考えることもあります。なので、どちらじゃなきゃ嫌だ、というのはないです。それぞれのやり方。
佐々木 アイドルグループに歌詞を書くとき一番に心がけているのは、どういうところですか?
児玉 メンバーにグループを背負わせすぎないようには意識しています。それは性差年齢問わず、です。それぞれのグループに歴史はあるにせよ、それとメンバー個人は別じゃないですか。
佐々木 確かに。
児玉 最近はどんどん個人がグループに飲み込まれているような気がするんです。アイドルが替えの利く存在になってしまっているというか。グループのためにとか思わなくていいし、今はそれぞれが自分らしくやったほうが面白いよと思っていて。
佐々木 グループの歴史は確かに重要なんだけど、その一方でグループを構成しているメンバーが個々で存在しているわけですからね。1人ひとりに人生が、それぞれの内面があるから、日々いろんなことを思っているし、ときには傷付くこともあるだろうし。
児玉 便宜上、グループの経歴を第●期とか区切ることはあっていいと思うんですけど、途中から入ったメンバーにとっては、自分が加入したタイミングが第1期なので。そういうことを運営サイドが当たり前に看過するような傾向が最近増えてるように思うんです。事実は事実としてあるのに、どんどん因果関係を脚色していくというか。たまにいるじゃないですか、歴史小説を歴史そのものだと思っている人って。それと同じことがアイドルの世界でも起こり始めてるんじゃないかなって危惧しているんです。物語はあくまで後付けだと私は思いますよ。
南波 すごい。これが運営からのオーダーに応えて歌詞を書く職業作家の考え方なのかっていう(笑)。
佐々木 哲学がありますよね。
児玉 いやいや、応えられてないですよ(笑)。たぶん、運営からの要望にちゃんと応えられる人がこの世界で長く続けていけるんだろうなって思うんです(笑)。「え?」って思うようなことを言われても、オーダーに従って書けるのがプロの作詞家なんだろうなって。私は引かないことが今までけっこうあったので(笑)。
佐々木 でも、そういうこだわりが随所に出てるからこそ、雨子さんの歌詞って聞き手の心に刺さってくるんでしょうね。そこがやっぱり個性だと思う。
「雨子さん、つまんなくなったね」って言われると思ってました(笑)
南波 レーベル的な視点で話すと、歌詞をアーティストに頼むときと職業作家に頼むときって、けっこう違うんですよね。で、アーティストに頼むときって言い方は悪いですけど、コントロールできないことも多いんです。「こういう感じでお願いします」って言っても、なかなかそうはならない。ただ、むしろこちらもそれを望んでいるところも若干あって。職業作家は要望にきちんと応えてくれるんだけど、こちらの想像を超えるミラクルっていうのはアーティストのほうが起きやすいのかなっていう。そういう意味で言うと、雨子さんはアーティスティックな面もあるじゃないですか。ひさびさに会ったけど、全然丸くなってなかった(笑)。
児玉 えっ! 嘘ですよね? 私、ひさしぶりに南波さんにお会いして「雨子さん、つまんなくなったね」って言われると思ってました(笑)。
佐々木・南波 あははは(笑)。
児玉 「時間が経って、世間に尖ったところ全部丸められたね」って。
南波 いやいや、丸くなってないでしょ。
児玉 そうですか(笑)。けど最近は真剣に、もうちょっと他人の話を聞いたほうがいいんじゃないかと思うようになって。20代前半は本当にイキりすぎてたんで。「私のこと女流作家って呼ばないでください」みたいな(笑)。あとは「若い女性ならではの感性」とか言われるのもすごいイヤで。「じゃあ『若い男性ならではの感性』なんて誰が言ってるの?」とか、ずっと言ってて(笑)。
佐々木 安易なカテゴライズというか。
児玉 そうです。でもほかの人が「私たちは若い世代の女性なんで」みたいなことを堂々と言ってるのを見て、「私もあれくらいになんないとダメなんじゃないか」って揺れてる時期もあって。手札は配られたら即座に使い切らないといけないんじゃないか、みたいな(笑)。
南波 いやー、でもめちゃめちゃ雨子さんですね。作品どうこう以前に、人として面白すぎる。
児玉 私すごいブレてますよ、ずっと。一本筋が通ってる、って褒めてもらうことが多かったのですが、その間でものすごく振動してます(笑)。いつも小刻みに揺れてて。
佐々木 例えばある曲の歌詞を提出したとき、ディレクターから「ここの部分を変えてもらえませんか?」みたいな話をされるときもあるわけじゃないですか。そこで譲れる場合と譲れない場合が当然あると思うんですけど、そういうときってどうするんですか?
児玉 最近は一旦全部譲るようにしてます。
佐々木 へえ!
児玉 別の歌詞を書いてみて、「どっちがいいですかね?」みたいな感じでやるようにしました。もう、流されて。
南波 流されて(笑)。
児玉 自分の心を一旦殺してみるっていう。でもそこから何かが生まれるときもあるので。
南波 ちなみにヒャダインさんは、ももクロの「行くぜっ!怪盗少女」の歌詞を書き直してほしいといわれて、絶対変えたくなかったから、めちゃくちゃフザけた歌詞を再提出したというエピソードがありますよね(笑)。すごい意志の強さだし、そんなテクニックがあるんだって。
児玉 そういうときもなきにしもあらずですね。「絶対こっちは選ばないよね!?」みたいな感じで書き直すときもあります(笑)。でも私はヒャダインさんほどテクニカルなことができないから、とりあえず1回マジで考えます。ヒャダインさんの歌詞は、やっぱりうまいですよね。世間話ですら頭いいなと思いますし。でもヒャダインさんに対してはけっこうタメ口でしゃべっちゃうんですよ。「バカだねー!」とか言って。ひと回り以上、年上なんですけど。
佐々木・南波 あははは(笑)。
児玉 「すみません! 大先輩でした!」みたいな(笑)。
<次回に続く>
児玉雨子
1993年12月21生まれの作家、作詞家。モーニング娘。'20、℃-ute、アンジュルム、Juice=Juice、近田春夫、フィロソフィーのダンス、CUBERS、私立恵比寿中学、中島愛といった数多くのアーティストに歌詞を提供する。アニメソングの作詞も多数行っている。「月刊Newtype」で小説「模像系彼女しーちゃんとX人の彼」を連載中。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月には78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。