『滝沢歌舞伎ZERO 2020 The Movie』、興行収入10億超えヒットの理由 “舞台でも映画でもない”新たなエンターテインメントの形
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12月4日に全国公開された『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』が大ヒットラインといわれる興行収入10億円を突破した。
初日である4日の動員が5万5889人、興行収入1億6122万円を突破すると、続く5、6日の週末で13万7000人を動員し興行収入は4億円となった。3日間の興行収入だけで7.3億円を記録し、公開2週目には10億円を突破するほどの好調ぶりだ。
本稿では『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』の魅力と共にヒットとなった理由について考察したい。
コロナ禍のストレスも吹き飛ぶダイナミックな映像と音響
昨年『滝沢歌舞伎ZERO』として滝沢秀明が演出を手掛け、Snow Manが主演を務めた舞台を、映画と融合させた全く新しいエンターテインメントとして完成させたのが『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』だ。全国公開に先駆けて行われた10月、11月の新橋演舞場、南座、御園座での特別上映は即日完売し、話題となっていた。一時は各映画館で先行発売された “ムビチケ”まで入手困難となったほか、舞台挨拶付きのライブビューイングの予約ではサイトに繋がりにくい状態が数時間も続くなど公開前から人気の高さをうかがわせていた。
オリコン調べによると作品内容に関しては97.6%が満足と回答したほか、今回初めて『滝沢歌舞伎』に触れた人の割合は80%。これはSnow Manへの注目度の高さに加え、これまで興味があっても観られなかった舞台の人気の高さが伺える結果となった。
またコロナ禍にあって、舞台やライブなどの中止、延期や無観客での配信となるケースも多く、せめて映画館の大画面と音響でジャニーズの華やかな舞台の雰囲気を味わいたいという人も多かったのではないだろうか。
目くるめく展開と臨場感溢れる演技
『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』のチケットは3,000円。一般的な映画と比べると高めの設定なのだが、実際に観ると納得の内容だ。舞台と違うのはオープニングからエンディングまで、スクリーンから目をそらす暇がないスピード感あふれる展開。これでもかと様々な演目が繰り広げられる。
2019年の『音楽の日』(TBS系)でも披露された、冒頭の「ひらりと桜」の圧巻の花吹雪も映画館のスクリーンで見ると迫力満点である。Snow Manのダンスの魅力は一糸乱れぬシンクロ率というよりは、基本的な振りは揃えつつ、個々の魅力をしっかり伝えているところにあるように思う。
そして特筆すべきはメンバー全員の殺陣をじっくり見ることができる「九剣士」。以前から殺陣に定評のある宮舘涼太のしなやかで、力強さと美しさを兼ね備えた動きは必見だ。宮館自身も「舞台とは違って“フリ”だと嘘っぽく見えてしまうので、見せ方には結構苦労した」(『anan』11月18日号)と語っているが、細部まで見える映画でならではの難しさをクリアしたからこその迫力ある殺陣を堪能できる。柔軟性と身体能力を存分に活かした佐久間大介の二刀流や普段見ることができない阿部亮平のクールな表情なども見所である。
『滝沢歌舞伎ZERO』からブラッシュアップされた演目の数々
『滝沢歌舞伎ZERO』から引き続き披露されている演目もブラッシュアップ。映画化により高性能カメラで大きくアップになっても仕掛けが分からない「変面」のクオリティの高さには驚かされた。筆者も必死にスクリーンを凝視したのだが、面が変わるタイミングを見破ることは不可能であった。
前回はラウールと佐久間が出演した「Maybe」も一部メンバーを変更し、対比のある演出が印象的な仕上がりに。映像を効果的にシンクロさせることで、よりラウールの全身全霊のパフォーマンスの魅力が増したように思う。
宮舘と渡辺翔太による「My Friend」も宮舘がフライングの新技に挑戦し、進化を遂げている。渡辺の艶のある伸びやかな美声と相まって、大人っぽいパフォーマンスに仕上がっている。
雨の中での5分間もの激しいダンスパフォーマンスが見どころの「組曲」は華やかさも取り入れた贅沢な演目。一人だけに集中することが難しく所謂“目が足りない”状態になってしまうのでついつい2度、3度と映画館に足を運んでしまう人も多いのではないだろうか。
『滝沢歌舞伎』の真骨頂である「腹筋太鼓」では“漢”Snow Manを存分に感じることができる。飛び散る汗も懸命な表情も美しい腹筋も、同時に大画面と音響で楽しめる贅沢さをシンプルに楽しんで欲しい。
また、「Make It Hot」「Crazy F-R-E-S-H Beat」「Black Gold」とライブさながらにパフォーマンスされる楽曲にも注目。岩本照が振付を手がけた「Crazy F-R-E-S-H Beat」はカメラアングルも考慮し、細かい部分にもこだわっており見ごたえがある仕上がりだ。初披露となる新曲「Black Gold」はクールな9人の姿がたまらないと映画を観たファンの間で絶賛されている。
世代を問わず楽しめる新感覚のエンターテインメント
本格的な歌舞伎の世界が繰り広げられる「五右衛門ZERO」、佐久間、阿部の艶やかな女形と男形の渡辺に加え、映画で日本舞踊初挑戦の目黒蓮が加わった「男と女の舞」など、映画化に伴い新たな演出を取り入れた日本古来の文化を継承した演目にも監督である滝沢の思い入れを感じることができる。
日光江戸村で撮影した時代劇「鼠小僧次郎吉」も必見。ファンにはおなじみの“お丸”を演じた深澤辰哉のテンポの良いセリフ回しで、コミカルに進んでいくストーリーは大人から子どもまで楽しむことができる。悪役を演じた向井康二はアップのシーンがあることを考慮し、よりリアリティを出すために歯のホワイトニングを中止して撮影に挑んだというだけあり迫力ある存在感が光っている。驚きの演技力を見せつけ、役者としての可能性を感じさせた目黒は「カメラが寄ることを考え、自分の中の表情の引き出しを探った」(『anan』12月16日号)と語っている。
『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』はチケットの入手が困難で観劇することができなかった人や、Snow Manに注目し、はじめて「滝沢歌舞伎」の世界に触れる人はもちろん、ジャニーズファン以外の人も楽しめる作品となっている。滝沢の意志を継承したSnow Manによる、“舞台でも映画でもない”新しいエンターテインメントをぜひ多くの人に体験してもらいたい。
■北村由起
ライター・エディター。出版社勤務、情報誌編集長を経てフリーに。情報誌、webマガジン、ムック等を中心に執筆。ジャニーズウオッチャー。