“汚れキャラ”ミニオンという発明 今だからこそ学びたい『怪盗グルーのミニオン危機一発』のメッセージ
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『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)に、心あったまるファミリームービーが登場する。センセーショナルを巻き起こした『怪盗グルーの月泥棒』の続編、『怪盗グルーのミニオン危機一発』だ。
『怪盗グルーの月泥棒』で成り行きで3人の少女を養女に迎えたグルーは、本作では娘を愛するファミリーパパへと変貌していた。しかも完全に悪事から足を洗い、超極秘組織「反悪党同盟」に加入。自慢の地下実験施設はゼリー工場にリニューアルし、耳の遠いマッドサイエンティストのネファリオ博士とミニオンはゼリー開発に勤しむ日々を送っていた。しかし、真面目な生活は割りに合わないとネファリオ博士はグルーのもとを去り、ミニオンは陰謀に巻き込まれ、反悪党同盟のパートナーだったルーシーは誘拐されてしまう。グルーたちは大切なミニオンを救い出し、ルーシーを救い出すことができるのか……。
非の打ちどころのない汚れ役「ミニオン」
本作の見どころは、ミニオンの使い方だろう。
ミニオンは『怪盗グルーの月泥棒』で登場した架空のキャラクターだ。身長は成人男性の約半分から1/3程度。行動は幼児を彷彿させるも、外見は子どもとは似つかないモンスターだ。独自の言語は、各国の言葉を絶妙に組み合わせて作ったミニオン語であり、どの民族とも関連づけることができない。そのため、どんなギャグでも、どんな下らない行動でも取らせることができる。コンプライアンスがうるさい昨今のハリウッドにおいて、非の打ちどころのない「汚れキャラ」、それがミニオンなのだ。
本作『怪盗グルーのミニオン危機一発』には、そんなミニオンを作った際どい描写が登場する。例えば、グルーの元を去るネファリオ博士をオナラ砲21発で見送るが、オナラやお尻で笑いを取るというのは、コメディ作品を作る上で非常に安直で投げやりな行為だ。人間のキャラクターにやらせるとなると、そのキャラクターだけでなく、そのキャラクターが属するペルソナの品位を損ねることになりかねない。ところが、ミニオンという特異なキャラクターにやらせると、たちまち大人も笑えるギャグになる。
ミニオンに劇薬を注入して生物兵器化させるという展開も、一歩間違えれば人権問題に発展したのではないだろうか。その昔、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』にジャー・ジャー・ビンクスというキャラクターが登場した。彼はグンガン族の言葉を話し、特有の動きをした。子どもに人気が出ることを期待してデザインされたキャラクターだった。
ところが制作側の意図とは裏腹に、ジャー・ジャーは大バッシングにあう。黒人を連想させ、馬鹿にしているという声が各地からあがったのだ。
では、話をミニオンに戻そう。ミニオンは劇薬を注入されて凶暴化する。この設定をミニオンではなく実在の人物や種族に関連づけやすいキャラクターで行った場合、やはりバッシングがおこっただろう。そうなると、作品には常にネガティブな印象がつきまとい、娯楽としての価値を落としてしまう。
そう考えると、ミニオンというキャラクターの計算し尽くされた設定と、そのポテンシャルを遺憾無く発揮したギャグやストーリーには唸らされる。
今だから学びたいメッセージ
本作が注目されるべきなのは、ミニオンの設定だけではない。その底抜けのポジティブさと、様々な問題を受け入れるべきだというメッセージも評価されるべきだ。
例えば、冒頭では誕生日パーティにプリンセス役のイベント俳優がこないという問題が勃発するが、その状況を受け入れ、グルーが女装して結果的に家族の絆が強まる。
ルーシーがオーストラリア行きの飛行機から堂々と飛び降りる際も、乗客と客室乗務員は笑顔で送り出し、酸素マスクが降りてくる。ミニオンが生物兵器になって戻ってきても、冷静に解毒剤を作って問題解決にあたり、最後はハッピーエンドになる。
つまり、問題が起こっても受け取り方によってマイナスをプラスにすることは可能であり、対応策もあるというポジティブなメッセージが散りばめられているのだ。
思い返せば、これは『怪盗グルー』シリーズに共通する設定かつメッセージである。前作の『怪盗グルーの月泥棒』では、得体のしれないミニオンを受け入れ、娘3人を受け入れ、悪党になりきれない自分を受け入れる。娘3人も皮肉屋のグルーを家族として受け入れ、ミニオンを受け入れる。まるで抵抗することを知らないかのように、様々なことを受け入れ、彼らは本当の家族となり幸せを掴む。
第3作の『怪盗グルーとミニオン大脱走』だってそうだ。お金がないことを受け入れ、金策のためにフリーマーケットを開く。双子の兄弟の存在をすんなりと受け入れ、家族の絆を深める。『大脱走』に至っては、現状を受け入れられずに過去の栄光に縋り付くしかないヴィランを登場させてまで、現状を受け入れることの大切さをダメ押ししている。
抗うな、受け入れろ、前に進め、悲観するな、打開策はある……。このメッセージを繰り返し伝えているのだ。
そして、この「受け入れる」というメッセージは、新型コロナウイルスが大流行し、訪れた変化をどう受け止めれば良いのかで悩む私たちの心に深く届くだろう。
変化は止められない。過去を羨んでも、過去には戻れない。ならば、できるだけポジティブに、時には長いものに巻かれつつ変化を受け入れる。打開策はある、その先には幸せがつながっている。
綺麗事を並べてしまった。しかし、『怪盗グルーのミニオン危機一発』は必死にその重要性を説き、私たちに幸せへの近道を道標してくれているのだ。オナラ砲の見送りと共に。
■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter
■放送情報
『怪盗グルーのミニオン危機一発』
日本テレビ系にて、12月18日(金)21:00〜22:54放送(※本編ノーカット放送)
監督:ピエール・コフィン、クリス・ルノー
声の出演:笑福亭鶴瓶、芦田愛菜、中島美嘉、山寺宏一、宮野真守、中井貴一
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