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『夢中さ、きみに。』『女の園の星』和山やまの作家性とは? ”間”から生まれるスローテンポな笑い

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 笑いは、“間(ま)”にこそ生まれるものなのだと思う。漫画家・和山やま氏のデビュー作『夢中さ、きみに。』、初連載作品の『女の園の星』第1巻を読んで、そう感じた。

 老若男女問わず読者の心を掴んでいる気鋭の漫画家、和山やま氏。「このマンガがすごい!2020」オンナ編で第2位に輝き、ドラマ化も決定した『夢中さ、きみに。』に続き、連載作品の『女の園の星』は「このマンガがすごい!2021」オンナ編にて第1位になった。「『女の園の星』の2巻を早く読みたい」といった声が、性別や環境問わずSNSで埋め尽くされている。

 和山氏は、和山友彦名義で投稿した『優等生の問題』が2015年前期・第67回ちばてつや賞一般部門に入選したことをきっかけに漫画家としてのキャリアをスタート。連載『ファミレス行こ。』や読み切りを描き続け、『夢中さ、きみに。』で単行本デビューを果たした。

 一般的なギャグ漫画と異なるのは、物語のテンポ感だ。いわゆるギャグ漫画というと、アップテンポに進められ、まるで「ズコーッ」という効果音が聞こえてきそうな内容をイメージしてしまいがちだが、和山氏の手掛ける作品は静かに、ゆっくりと進行してゆく。

 今年9月に行われた「リアルサウンドブック」のインタビューで和山氏は、「(かつて)テンションが高くてバカっぽいキャラがいないとギャグ漫画にならないと思っていた」と話し、野中英次の漫画『魁!!クロマティ高校』(集英社)に影響を受け、自分なりにギャグ漫画を描き始めたことを明かしているが、『夢中さ、きみに。』『女の園の星』には、そのこだわりが垣間見えた。

 『女の園の星』第1巻では、突然犬・セツコが学校のベランダに落ちたり、星先生の観察日記をつける生徒が現れたりするが、シュールな出来事ばかり起こるわけでもない。エピソードのなかには思わず「あるある!」「ありそう!」とうなずけるセリフが盛り込まれていたり、「こんな人いたなあ」と学生生活を懐かしめる場面もあったりと、読者を置いてけぼりにしない距離感が絶妙だ。

 「常に人間のユーモアを描きたいとは思っています」と語る和山氏。星先生や小林先生、登場シーンは少ないけれど気になってしまう存在の中村先生をはじめ、生徒一人ひとりや、犬・セツコにまで親しみやすさを感じられるのは、そんな想いが込められているからなのだろう。日常に起こる笑いを拾い集めながら、感情の波に目を向けられる余白も残す。笑ったり、少し切なくなったりと、読者の心をしっかりと掴んだまま進んでいく物語が印象的だった。

 デビュー作の『夢中さ、きみに。』にも、そのこだわりは感じられる。「うしろの二階堂」のからはじまる二階堂シリーズでは、不気味なオーラをまとう男子高校生・二階堂明の前の席になってしまった目高優一との交流が描かれているが、そこにもユーモアは散りばめられている。「伊藤潤二の漫画に出てたよね?」という目高のセリフや、二階堂が入学式でブレザーをズボンにいれる場面など、クスッと笑いながらもキャラクターへ愛着が湧く工夫に、和山氏のキャラクターへの愛情を感じられるのだ。

 また、『女の園の星』の星先生の使用しているマグカップがクマのイラストだったり、小林先生の着ているポロシャツにエイリアンのマークがついていたりと、細部にキャラクターの個性を表現しているのも特徴だ。キャラクターのこだわりが細部に垣間見えることで、一人ひとりの個性がより際立つ。

 そうやって、読者との距離を近づけるからこそ、キャラクターの持つ“間”や、表情の変化を楽しめるのが和山氏の作品の特徴だ。息遣いが聞こえてくる、と喩えたらいいのだろうか。『女の園の星』第1巻の3時間目(第3話)では、漫画家を目指す生徒の作品を、星先生と小林先生が読むシーンがあるが、セリフがないシーンであっても何を考えているかが感じられる。表情が大きく変わるわけではないが、ちょっとした心境の変化を手に取るようにわかってしまうのは、読者との信頼関係を築く工夫をしているからなのだと思う。

 『女の園の星』で描くのは、女子高を舞台に繰り広げられる日常だ。第2巻以降では、第1巻で描ききれなかった交流関係やキャラクターの魅力を知ることができると思うと、今から発売日が待ち遠しい。

■高城つかさ
1998年、神奈川県出身。【言葉と人生】をキーワードに主にエンタメ、暮らしを切り口に人生について考えている。好きな場所は劇場と本屋。
Twitter:https://twitter.com/tonkotsumai
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