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『鎌倉殿の13人』異例のキャスト発表はいかにして生まれた? プロデューサーに裏側を聞く

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リアルサウンド

 11月16日から20日の5日間にかけて2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(以下、『鎌倉殿』)の出演者の発表が行われた。大泉洋や菅田将暉といった錚々たるキャスト陣が話題となったが、何よりユニークだったのは、その発表方法である。

 公式Twitterを中心に発表されたアナウンスは、1日4~5人ずつ時間をおいて発表。しかも脚本の三谷幸喜が一人ずつ名前を読み上げる動画が公開され、それ自体が優れた映像コンテンツとして注目を集めた。

 すでに今年の1月18日に、三谷幸喜は制作発表の会見を行っている。鎌倉時代という馴染みのない時代と各登場人物の関係性をおもしろおかしく説明する会見には、教育バラエティ番組を観ているような面白さがあったのだが、今回のキャスト発表がテレビドラマのPRとして斬新だったのは、SNSと公式サイトの動画、そしてネットニュースを中心に展開されたこと。

 出演俳優や脚本に対する期待はもちろんのこと『鎌倉殿の13人』というコンテンツ自体が大きなイベントとしてこれから盛り上がっていくであろうという手応えを視聴者に強く印象づけることに成功したと言えるだろう。

 今回、リアルサウンド映画部では『鎌倉殿の13人』プロデューサーの長谷知記、川口俊介にキャスト発表の裏側について話を伺った。この異例のキャスト発表はなぜ行われたのか? なぜ脚本家の三谷幸喜が会見を行うことになったのか? そして今後のテレビドラマの宣伝の在り方とは? そこにはコロナ禍の現在だからこそできることをやりたいという、作り手の志が強く刻み込まれていた。

WEBだからこそできること

――今回のキャスト発表はとてもおもしろかったです。『鎌倉殿の13人』が2022年スタートだと考えると、例年よりも早い発表に感じたのですが。

川口俊介(以下、川口):基本的に例年の予定どおりの発表なんですよ。大河ドラマは例年であれば1月スタートですが、前の作品が終わる11月末頃から翌々年の作品の発表をすることは珍しいことではありません。ですが、今回はコロナ禍の影響で『麒麟がくる』の最終回が来年2月7日となり、『青天を衝け』が2月14日からの放送となりました。つまり、コロナ禍というイレギュラーな出来事の影響によって、大河ドラマの放送時期がズレてしまったので、例年よりも早いという印象が強いのだと思います。

――今回のキャスト発表はWebを中心にした異例のものでしたね。

長谷知記(以下、長谷):コロナ禍の現在、例年どおりに、記者さんを集めて大々的に発表すると、どうしても密が生まれてしまう。それはあまりよろしくないですし、役者さんに対する配慮もあってのことです。記者会見ならひとりひとり登壇していく、それを密の空間を作らないネットのSNS上で再現できないかと考えました。

――キャストの発表を小出しにするというのはWebだからこそできたことですね。

長谷:1日1人ずつ発表しよう、1カ月ぐらいやろうという話や、逆に1日で全員発表しようという話もありましたが、最終的には今回の形になりました。説明過多にならないようにして、発表を知った人が想像をめぐらす時間を作っていただきたいと第一に考えました。

――とても記事にしやすい発表で、ドラマのニュース記事を扱うサイトの立場からすると、すごく美味しい企画でした(笑)。演じる役柄のプロフィールと演じる役者の意気込みがちゃんと書かれていて、とても読み応えのあるものでした。

川口:最近はコロナ禍の影響で、製作発表会見などの情報が紙でリリースされるケースが増えているのですが、媒体さんにはそれだけでは熱量が伝わりづらいと思うんですよね。僕らはただ発表をすればいいのではなくて、役者さんの意気込みをきちんと届けないといけない。結果としてそれが今回の形になりました。いつも以上に役者さんの熱量が伝わるものを各媒体さんにも書いていただけたと思います。

――脚本の三谷幸喜さんが配役を発表されたことにも驚きました。1月に行われた制作会見もそうでしたが、脚本家ご本人が登壇して作品の説明をするなんて他では考えられないことですよね。しかもそれがメチャクチャおもしろい。

長谷:2004年の『新選組!』、2016年の『真田丸』と、大河ドラマを2作手掛けたことで三谷大河というブランドイメージが定着していることが大きかったです。ご本人も舞台や映画で演出をされていることもありますので、我々がこういう意図があって動画を撮らせて欲しいとお願いしましたら、快諾いただき、あの演出を思いついて下さいました。

――発表会見を行うことに対して、三谷さんは何かおっしゃっていましたか? 

長谷:三谷さんから「ただ名前を言うだけでなく、所属事務所とか言っちゃダメですか?」とアイディアが出ました。さすがにNHKで企業名を言う訳にもいかないので、あの形になりました。プロ野球のドラフト会議や閣僚の発表のイメージですね。出身県については「~部屋」、「~県出身」という相撲の呼び出しをイメージしました。

――三谷さんが役者の名前を読み上げる映像も、細かい芝居が面白くて、独立した映像作品として楽しめました。

長谷:間のタイミングなどは、こちらからもアイデアは出しましたが、基本的に三谷さんの自己演出です。役者さんによって間を大きく取ったり、逆に間を空けずにさらっと読み上げるといった采配も絶妙ですよね。

――気になったことが2点ありまして。ひとつは大河ドラマに出演した回数を言うこと、もうひとつは俳優さんの出身県を言うところ。あのあたりは、どのような経緯で決まったのですか?

長谷:プロ野球のドラフト会議や閣僚の発表のイメージですね。出身県については「~部屋」、「~県出身」という相撲の呼び出しをイメージしました。

――冷静に考えると「出身県を言われてもなぁ」と思うのですが(笑)、でもすごく引っかかるんですよね。

長谷:情報としてはそこまでマストな情報ではないのですが、リズムで考えるとあれが意外と気持ち良いんですよね。

――番組関係者が内幕を喋るコメンタリー的なものはたくさんあると思うのですが、三谷さんの場合は隅々まで作り込まれていて、あの会見自体が優れた作品というか、イベントとしての面白さがあって「何か新しいことが始まった」と感じました。

長谷:記者会見ができない状況を逆手にとって、今までとは違うイベントができないかと我々も考えていたので、そう読み取っていただけるとうれしいです。

――今までのテレビドラマの宣伝って「テレビを中心に宣伝をやらなければいけない」という思い込みが強すぎたと思うんですよね。番宣となるとテレビ局のバラエティ番組に出演俳優がゲスト出演したり、特集番組を作るといった方向しかなかったわけですけど、本来、もっといろんな可能性を試してもよかったと思うんです。だから今回、ネットのWebニュースやPR動画をうまく活用するとこんなに広げられるんだというのは発見でした。

長谷:我々にとっても実験的な試みでしたが、新しい発見が非常に多かったです。

川口:長い間やってきたことが通用しなくなった時にどうすれば、熱量のこもった情報を伝えられるだろうかと、ずっと考えていました。コロナ禍になってからリリース情報の出し方が変わってきたと思うんですよ。リアルな体験ができない中でリリースが飽和状態になっている中で、リリースの発表自体をもっと受け取る側のみなさんに楽しんでいただくにはどうすればいいのかと考えていたのですが、それを今回『鎌倉殿の13人』チームで形にできたと思います。

“知らない時代”の入り口に

――『鎌倉殿の13人』の舞台や登場人物は、戦国時代や幕末にくらべると、あまり馴染みのある題材ではないわけですよね。今後「鎌倉時代にどう興味を持ってもらうか」という課題もあるかと思うのですが、その入口を作りたいという狙いもあったのですか?

長谷:「そのようになっていけばいいな」と考えています。たとえば、幕末が舞台の大河ドラマでしたら、坂本龍馬を誰が演じるのか? といった引っ掛かりがあるのですが、鎌倉時代はメジャーな時代ではないので引っかかりが少ない。だったら自分の好きな役者さんが演じる役はどういう人物だったのかを調べてみようというような入り口を用意したいという気持ちはありますね。

――大河ドラマって特殊なジャンルのドラマで、『麒麟がくる』を筆頭に、みんなが知っている歴史上の出来事をドラマ化するわけです。『鎌倉殿の13人』のように前提となる知識が共有されていない時代を「みんなが知っている」という段階に持っていくことは、とても難しいですよね。

長谷:おっしゃるとおりでして、その「知らない」ということを、三谷さんも我々も前提としています。もちろん詳しい人も多くて、三谷さんも大河ドラマが好きで『鎌倉殿の13人』と同じ時代を描いた1979年に放送された大河『草燃える』をリアルタイムで観ていて好きだったそうで、とても詳しい。でも僕も川口もそんなに詳しいわけではない。我々のようにあまり詳しくない人が、どうやったら楽しめるのかということを考えていきたいんですよね。「情報」として伝わることと「感情」として伝わることは、違うと思うんです。今回、僕らも三谷さんも意識しているのは、観ている中での知識がなくても面白いものは面白いはずなので、知識がないからこそ感情として楽しめるドラマを目指しています。

――制作発表会見で三谷さんが『鎌倉殿の13人』の人物相関図をホワイトボードに書いて『サザエさん』や『ゴッドファーザー』を例に説明する場面がとても面白かったです。教育番組ではありませんが、作者が歴史的背景を説明するところから入っていくというのは、果敢な挑戦だなと思うんですよね。

川口:僕自身も歴史には疎いので、最初の会見の時の三谷さんの説明は、非常に参考になりました。一方で、今回の『鎌倉殿の13人』の情報を伝える時にも、細かい工夫をたくさん行っています。たとえば、今回の会見で用いた人物相関図は色分けとカテゴライズだけにしています。キャラクターの情報もキャッチの一文だけです。役柄の情報は出演者のみなさんが役に対して感じた言葉を介して発表した方が、配役のことがより深く伝わるかと思いまして。

――ニュース記事を配信する立場としては、「演じる役はこういう人物です」と、建前上書かないといけないので、資料文献などで調べて「史実では~となる」と補足したのですが、確かに相関図は書いてなかったんですね。

長谷:人物相関図も時間の経過とともに変わっていく時代なんですよね。友好関係にあったはずの人たちが敵対したり、逆に敵が味方になったりと、関係性がどんどん変わっていくことが見所なので、そこはあえてフラットに書きました。というよりは、我々も書こうとしたのですが、どの時点の関係性を書けばいいのかと悩んだんですよね(笑)。だったらいっそ書かない方が楽しんでもらえるのかなと思いました。

――鎌倉時代って始まりと終わりはなんとなくわかるのですが、真ん中ぐらいの時期に何が起きていたのかはよくわからないですね。参考文献もわからないですし。

長谷:私も、なんで鎌倉時代の将軍が途中から「源」じゃなくなるのかぐらいのところから調べはじめたので、なるほど、そういうことか、と思いましたね。

――わからない時代を書くということは、やはり難しいのでしょうか?

長谷:脚本家の領域なので、そのあたりは三谷さんに伺わないとわからないのですが、昔の時代になるほど、残っている資料が少ないんですよね。ただ、今回でいうと『吾妻鏡』という鎌倉時代後期に書かれた幕府公式の歴史書がありますので、「~年~月~日」に何が起きたかという、「点」としての出来事は、わかるんですよね。その間にあったであろうことを物語として描くというのがこのドラマの醍醐味だなと、三谷さんが書かれる脚本を読んでいて思いますね。

コロナ禍がもたらしたもの

――今回の会見は素晴らしかったのですが、これが三谷さんにしかできないことだとすると、今後同じことをやりたい大河ドラマ関係者は苦労するだろうなぁと思いました(笑)。そこは悩ましいところですね。

長谷:そこは、それぞれのチームで最良の方法を考えるしかないですね。我々も今回、三谷さんが脚本でなければ、全く違う形になっていたと思いますし、コロナ禍でなければ今まで通りの会見を開いたと思います。全部が苦しい状況だから知恵を絞って生まれたものですね。

――やはり、コロナ禍の影響が大きかったんですね。

長谷:“朝ドラ”も大河ドラマもテレビ番組全体の収録が止まるなんてことは想像してなかったですよね。夏頃はまだ今後の方向性を模索している状態で、落ち着いたら例年どおり記者会見をしようという話もありました。そこから知恵を絞って、今のやり方に代わりました。

――今後、追加キャストもあると思うのですが、どのように情報を出していこうとお考えですか?

長谷:どのような形になるかはまだ決まってないです。その後、来年の夏には撮影をはじめたいと考えてますので、その準備をしています。折を見てみなさんに作品のビジュアルですとかをお見せできるのではないかと思います。今回はたまたま、あのような会見となったわけですが、まずはドラマを作るための準備を、粛々とやっていきたいと思います。

川口:テレビの可能性は同時体験だと思うのですが、観た人が同じタイミングで情報を共有して楽しむというのが理想ですよね。今回も発表の後、様々な意見がSNSで盛り上がりましたが、そういった楽しみ方も番組の一つなのだと思います。ですので、今後も、タイミングをうまく考えて新たな情報を発表していきたいです。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、2022年放送
主演:小栗旬
出演:小池栄子、片岡愛之助、宮澤エマ、坂東彌十郎、宮沢りえ、南沙良、杉本哲太、金子大地、新納慎也、迫田孝也、菅田将暉、大泉洋、松平健、小泉孝太郎、佐藤二朗、中川大志、野添義弘、山本耕史、横田栄司、辻萬長、阿南健治、中村獅童、栗原英雄、小林隆
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK