再評価高まる“日本かぶれのナビ”ピエール・ボナール。東京では37年ぶりとなる大回顧展が開幕
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国立新美術館にて9月26日(水)よりスタートした『オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展』。オルセー美術館から来日した約100点におよぶコレクションとともに、国内外からの作品を加えた総数136点を一堂に集め、これまで単独で紹介される機会の少なかったボナールの創作の全貌に迫る。
19世紀後半から20世紀にかけて活躍したフランスの画家、ピエール・ボナール。伝統的な絵画に代わる新たな表現を追求した“ナビ派”の一員として活動をスタートし、日本美術や印象派に影響を受けながらも、独自のスタイルを貫き鮮烈な色彩の絵画を多数生み出した。
日本ではなじみの薄い画家かもしれないが、本国フランスではナビ派の再評価で近年注目が高まり、2015年にオルセー美術館で開催された『ピエール・ボナール展』では51万人を動員、前年のゴッホ展に次ぐ入場者数を記録したという。
同展は、そんなボナールの初期から晩年までの作品を、油彩だけでなくデッサンや写真も含めた136点で紹介。第1章「日本かぶれのナビ」から第7章の「終わりなき夏」まで、年代順から成る7章立てで、その創作の全貌を明らかにする。
第1章の「日本かぶれのナビ」とは、当時の美術批評家が日本美術に傾倒したボナールに対して付けた異名からとったもの。同展を監修するオルセー美術館学芸員のイザベル・カーン氏は次のように説明する。「ボナールの生きた時代は、日本とフランスの文化が交差しながら、ハイブリッドな新文化を作り上げてきました。ボナールに、新しい美術の表現方法、新しい世界の見方を可能にさせたのが、日本の美術だったのです」。
この章の作品からは、従来の遠近法から離れ、奥行きを無化する試みや、装飾的な画面構成、余白をいかした構図、縦長の作品など、彼が日本美術に大きな影響を受け、様式化したフォルムや装飾的な絵に関心を寄せていたことが見て取れる。
続く第2章では、ロートレックにも大きなインスピレーションを与えたポスターをはじめとするリトグラフ作品を、第3章では日常をユニークな構図で捉え、絵画作品の糧になっていたであろう写真作品を紹介。第4章ではボナールの代名詞《浴室の裸婦》をはじめとする裸婦像が、第5章ではボナールの家族や動物たちが集う親密な室内の情景、肖像画、静物が展示されている。
そして、これまでの室内空間から一転、第6章から最終章となる第7章にかけては、光あふれる風景画や、鮮烈な色彩の大型装飾画が登場する。ボナールは、目にした光景の印象をいかに絵画化するかという「視神経の冒険」に身を投じた。特に南仏に移住して描いた色鮮やかな作品の数々からは、風景画を刷新しようとする熱意が感じられ、まさに印象派を引き継ぐ画家だと言えるだろう。
「第1章から第7章まで見ていただくと、ボナールの作品には命を謳歌する喜びがずっと続いているのが分かります」(イザベル・カーン氏)。いかなる流派にも属さず、独自の美学を追求した作品に、生への静かな歓びをたたえるボナール作品。その魅力をこの貴重な機会に再発見したい。
【関連リンク】 『オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展』
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