必要な存在の浅香航大、功績残した須藤蓮、“新世代”藤原季節&細川岳 2021年も期待の4人の俳優
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「俳優」を生業とする者たちから、つねに大きな驚きや喜びを与えられている。そのような身としては、数多くの彼らに対する“期待感”というものが絶えないのだが、ここでは2020年における活動以上に、2021年の活躍が楽しみでしょうがない4人の俳優の名を挙げたい。浅香航大、須藤蓮、藤原季節、細川岳の4人である。
浅香航大といえば、とうに知れた存在である。このなかで俳優歴はもっとも長い。映画でいえば『桐島、部活やめるってよ』(2012年)に登場して以来つねに気になっていた存在であったし、『悪の教典』(2012年)をはじめとるする代表作もすでにある。それでいて、なんとなく“いい俳優”という抽象的なイメージで固まってしまっていた。しかし実際に彼の活動を振り返ってみれば、テレビに映画に、そしてコメディからシリアスな作品に至るまで、一つのイメージにとどまらずやってのけてきた。そのキャリアに裏打ちされたものにハッとさせられ、気がつけば涙していたのが、映画『滑走路』である。本作の浅香は、過去のトラウマに苦しみ、それでも前へ進もうとする青年を好演。本作で彼が残した悲痛な表情は忘れられない。浅香は残り続けていく俳優だと思う。そう願う。彼がいなければならない。
デビューから間もなく、出演作もまだ少ない須藤蓮も、語り継ぐべき功績をこの2020年に残した。主演を務めた『ワンダーウォール 劇場版』である。同作で彼は、守りたいものがあるものの、争いごとを避けてしまいがちな“宙ぶらりん”な青年を好演。これは2019年の二兎社による舞台『私たちは何も知らない』で演じた人物とも、どこか重なる。彼にはこの“宙ぶらりん”な状態にある若者像がよく似合う。“何を考えているのかいまいち掴めない”という点においては、客観的に見ると『よこがお』(2019年)での青年役とも通ずるものを感じざるを得ない。これは彼固有の特性だろう。しかし、演じる本人はまた違う。内に秘めたる熱い思いや高い志を、行動に移しつつあるのだ。『ワンダーウォール 劇場版』の脚本家である渡辺あやとともに共同で脚本を手がけ、須藤自身が映画を撮るのだという。そこには何が映し出されるのか。いま須藤が見ている景色なのか、はたまた別のものなのか。その歩みを見つめていきたい。
藤原季節と細川岳も素晴らしかった。彼らのことは“コンビ”として触れたい。コンビといえば分かるだろう。そう、『佐々木、イン、マイマイン』である。同作にて藤原は主演を務め、細川は企画の立ち上げや脚本にも携わっている。そもそも本作の原案を生み出したのは細川で、彼は藤原演じる悠二にとって、憧れににも似たようなタイトルロール・“佐々木”を演じた。本作や、二人に対する賛辞の声は方々から聞こえてくる。それは映画業界はもちろんのこと、あらゆる場でだ。彼ら“新世代”が世間に与えた影響は大きいものだと思う。筆者自身もその影響下にある一人だ。
2020年の藤原は、宮沢氷魚とともに切ない恋愛模様の“その先”を垣間見せてくれた『his』があり、細川は『君が世界のはじまり』や『ソワレ』、出番は少ないながらも個人的に重要な役どころだと感じた『泣く子はいねぇが』があった。そして両者とも、『佐々木、イン、マイマイン』というそれぞれにとって名刺代わりとなる作品を得たのだ。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)への出演も期待され、積み上げてきた力を広く知られつつある藤原と、表現の場を自ら作り出した細川岳という怪物の登場。これからの動向に注目である。
2020年に、おのおののポジションを掴んだかのように思える彼ら。それぞれのフォームで、2021年をも駆けていくのだろう。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『滑走路』
全国公開中
出演:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、坂井真紀
監督:大庭功睦
脚本:桑村さや香
原作:萩原慎一郎『歌集 滑走路』(角川文化振興財団/KADOKAWA刊)
主題歌:Sano ibuki「紙飛行機」(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
配給:KADOKAWA
(c)2020「滑走路」製作委員会