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『岸辺露伴は動かない』脚本・小林靖子が大事にした荒木飛呂彦イズム 「台詞に“ッ”を入れちゃう」

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 「『岸辺露伴は動かない』実写化決定、主演は高橋一生、脚本は小林靖子」。本情報が発表されたとき、多くの“ジョジョファン”が期待に胸を膨らませた。なぜなら、以前からジョジョ好きであることを公言していた高橋が露伴を演じること、そして原作を見事に昇華したアニメシリーズを手掛けた小林靖子が脚本を担当するからだ。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの中でも屈指の人気キャラ・岸辺露伴を実写として、いかに構築したのか。小林靖子にその脚本術を聞いた(編集部)。

“実写に落とし込める”描写にするために

ーーまずは実写化が決まった時の感想を教えてください。

小林靖子(以下、小林):最初に話をいただいたときは、実写、しかもNHKさんでということでびっくりしました。結果として、短編で短期の放送に向いているお話でとてもよかったんじゃないかなと思います。

ーーNHKでの放送ということで、脚本化するに当たって意識された部分はありましたか?

小林:脚本を執筆する上で、NHKさんだから、という制約は特になかったです。公共放送で漫画原作をやるということで、なぜかすごく意外な感じがしたんですが、考えればアニメ『進撃の巨人』も放送していますし、特に不思議ではないですよね。NHKさんだからこそ年末の浅い時間(22時〜)でも放送できるのかなと。普通の民放で考えたら深夜ドラマになってしまう気がしました。

ーー『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメではシリーズ構成を担当されていましたが、シリーズ構成と脚本の違いを教えてもらえますか?

小林:アニメの方でもシリーズ構成をやりつつ、脚本もやっていたんです。原作を一つのホールケーキに例えたとして、それを12等分して、均等に切ると「これにはイチゴが3つ乗ってて、これにはイチゴが一個もない」ってなっちゃうんですよ。それをイチゴが均等に乗るように形を揃えて分量を揃えて、脚本のライターさんに「一枚の皿に乗り切らない分を切ってください、足らなければ足して下さい」と発注するのがシリーズ構成。脚本はお願いされた長さに一本のドラマとして仕上げることをイメージしていただければいいでしょうか。

ーーなるほど。改めて、脚本を担当されていかがでしたか?

小林:今回は自分で脚本を書くので、逆に楽なんですよね。ほかのライターさんに発注しなくていいので。人に発注するとどうしても人の脚本を読まないといけないですし、修正があった場合はやり取りする手間は増えます。今回は両方できて、気持ち的には楽でした。

ーー小林さんにとって、『ジョジョの奇妙な冒険』はどういった作品ですか?

小林:荒木飛呂彦先生にとってライフワークになっているので、スタッフ全員にとってもそれに近いものにしていかないといけないという覚悟はありました。先生と同じように“ライフワーク”って自分で言ってしまうとすごくおこがましいので、すごく大きなもの、大変なものにみんなで関わらせていただいているなっていうのは常にありました。

ーー今回の実写では原作からどのように脚色していくのかを決めたのでしょうか?

小林:いくつもある原作の短編の中から、どれをピックアップするかから始まりました。実写に落とし込める作品を漫画(『岸辺露伴は動かない』)から2本、小説(『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』)から1本をピックアップしまして。短編なので、49分に伸ばすにはどれもちょっと短いのもあって、オリジナルエピソードをくっつけて、膨らませて、3本の中で“縦軸”を作っていきました。今回は『ジョジョの奇妙な冒険』を知らない方、「岸辺露伴」を知らない方に観ていただくということもあるので、まずは岸辺露伴が何者であるかを説明しないといけません。その部分はオリジナル要素を付け足した感じです。あとは実写に落とし込める描写にするということで、スタンドの描写も難しいので、そういうところも考えつつでした。

ーー「実写に落とし込める」というのは?

小林:漫画をアニメにしようが実写にしようが、とにかく映像として動くのは同じなんですが、実写になると今度は一画面にものすごい情報量が多くなるんですね。それこそ、ロケとセットでは、すでに空中に浮遊している見えない埃さえ空気感として映って、原作の『ジョジョの奇妙な冒険』の世界とは違ってしまう。最近はテレビ画面も大きいので、実写でやると漫画的な口元アップが気持ち悪く感じてしまうこともあります。“物が生で映る”のが問題ないのか、それとも違和感があるのか、それを考えていく作業ですね。

『ジョジョの奇妙な冒険』の根幹にある“おかしみ”

ーー荒木先生とも連絡を取り合いながら?

小林:荒木先生にも、たくさんご協力いただきました。改編についてのOKや、先生の方からもこういう感じでとお話をいただきました。

ーーそれはどのような?

小林:『岸辺露伴は動かない』は、どちらかと言えばホラー、シリアス路線の感じで考えていたんです。けれど、先生からのフィードバックを重ねているうちに、『ジョジョ』っていうのは“奇妙”がついているだけあって、単に怖いではなく“おかしみ”が重要なんだと。8年もアニメをやっていたのに、それを忘れがちになっているところが途中あったんです。そんなときに、先生から「面白くしたいんだ」という言葉にハッとさせられて。今回、『ジョジョの奇妙な冒険』の根幹にある“おかしみ”を先生に改めて教えていただいた感じです。

ーーその“おかしみ”について詳しく聞きたいです。

小林:具体例になりますが、「女の子の逆さ言葉」(第3話「D.N.A」より)は、実写でやったらギャグになっちゃうんじゃないかとどうしても思っていたんですが、先生はそこにこだわられていたりするんです。言われてみると「そうだよね。『ジョジョ』ってこういうことだよね」と。“ジョジョ立ち”や「だが断る」(岸辺露伴の名台詞)も、ちょっとギャグみたいに捉えて面白がっているファンも多いじゃないですか。そういったセリフ回し、シチュエーションが、実写でも妙なおかしみになって印象に残るんです。

ーー撮影には足を運ばれたのですか?

小林:撮影は行けなかったんですけど、高橋一生さんやほかのキャストの方の写真を先に見せていただいたんです。皆さん“実写風”に落とし込んでくださっていて、一生さんは『ジョジョ』の大ファンでらっしゃるということもお聞きして、すごく期待値が上がりました。

ーー“実写風”というのは?

小林:原作の色使いを、そのままやってしまうと厳しいものがあると思うんですけど、露伴の髪型、衣装、形、それら全てがシックな感じに落とし込まれていたんです。普通に街を歩けるかと言われれば、微妙なラインですけど……(笑)。

ーー脚本を作る上で荒木飛呂彦イズムを残した部分はありますか?

小林:脚本上で言うと、セリフ回しでしょうか。アニメの時もそうだったんですが、観ている方には文字は見えないのに、どうしても台詞に「ッ」を入れちゃうみたいな(笑)。「じゃあないッ!」はアニメでは厳密に再現したんですが、今回の実写では、生の俳優さんがやって、それを知らない人が観て、どう捉えてもらえるのか計算ができませんでした。台本上はアニメよりは控えめにして、あとは現場にお願いしました。ファンの方もいろいろで、ライトな方もいれば、セリフの一語一句まで覚えているような方もいる。今回は、台詞を全部覚えているような方は意識せずに、ライトな方に向けて「岸辺露伴はこうだったよね」という風にやらせてもらいました。原作(『岸辺露伴は動かない』)は『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の露伴とは少し違うんですよね。年齢もちょっと違いますし、生きているのもスマホがある時代だったりするので、そういう意味でも今回のチョイスがいいなと思いました。

ーーあまり詳しくない方に向けての作品でもあると。

小林:自分の願いも含めてなんですけど、詳しくない方も荒木作品に映像として触れることで面白いと思ってくれるとうれしいです。本作を通して荒木作品の片鱗に触れていただければと思います。

ーー小林さんが思う「岸辺露伴」の魅力を教えてください。

小林:露伴は自身の作品のために蜘蛛を食べることもある(味覚でも蜘蛛を知って作画に活かすため)、とにかくエキセントリックなキャラとして描かれています。先生もこんなに息の長いキャラだとは思ってらっしゃらなかったんじゃないでしょうか。そのエキセントリックさに加え、俺様キャラなんですが、意外と不幸に巻き込まれるキャラでもある。ちょっと可哀想な面が出るのが露伴の愛される魅力なのかなと。どんな人の評価にも揺らがない姿勢かと思えば、繊細な部分もあったり。天才キャラでありながら非常に人間的でもある多面性が岸辺露伴がこれだけ確立したキャラとして読者に愛される理由だと思います。スタンド(特殊能力)の「ヘブンズ・ドアー」は考えようによっては無敵ですし。そんなところも支持を集める理由ではないでしょうか。

「(高橋)一生さんの露伴が一つの在り方として確立する」

ーー今回放送となる3作品の見どころをそれぞれお願いします。

小林:第1話の「富豪村」はキャラ紹介の回ですので、一生さんの露伴と飯豊まりえさんの泉京香、中村倫也さんの平井太郎に注目していただければと思います。キャラに寄りつつ、第1話目から世界を繰り広げられました。本作の中では「スタンド」という言葉は使用しておりません。能力を持っているのは露伴だけになっていて、敵はスタンド使いではないんです。彼のいる世界をぜひ観ていただきたいです。第2話の「くしゃがら」は『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』を基にしています。(アニメを含めても)小説が映像になるのは初めてなんですが、ノベライズの設定がとにかく面白いんですよね。言葉のインパクトがありますし、一生さんの露伴と森山未來さんの志士十五の一騎打ちになります。そこを是非楽しみにしていただければ。原作の小説も丁丁発止で、映像的にもワンシチュエーションで生まれる、まるで舞台みたいになるんですけど、そこが面白い。第3話の「D.N.A」は、原作は女性誌(『別冊マーガレット』)に掲載されたものです。“彼女(片平真央)”の不思議現象が実写では表現しづらいところが多かったんですが、3本の締めとして、年末の締めくくりにいい気分で観られるような優しいお話になっています。

ーー飯豊まりえさんが演じる泉京香が第1話から第3話まで登場するのも、原作とは大きく違う点ですね。

小林:明確には言葉にはしづらいのですが、京香の出番が増えたのは“ドラマの勘”というか、感覚的なものなんです。京香がいることによって物語が上手く流れてくれるのではないかなと。監督やプロデューサー、集英社さんの方でOKならばOK、変える必要があれば変えるという風に構築していきました。

ーー中村倫也さん演じる平井太郎は、原作では一コマ以下とも言える登場の仕方でしたが(笑)。

小林:短編を原作にしている分、約1時間のお話を作ろうと思うと原作の要素だけではどうしても短くなってしまうんです。だからと言って原作にあるものをただ増やせばいいわけではありません。例えば、「富豪村」では、クライマックスとなるトウモロコシのシーンも、そこだけいくら引き伸ばしても、観てる人は退屈になってしまう。テレビドラマはカット割りもありますし、さまざまなシーンを挟んだ方が面白いと思ったので、登場人物を増やす必要もありました。

ーー第1話の「富豪村」では露伴の名言である「だが断る」も追加されています。

小林:有名な言葉ですし、演出の渡辺さんも絶対に入れたいと(笑)。

ーー事前に台本を読ませていただきましたが、「敬意を払うとしたら読者のみだ」というような、原作にはないですが、露伴が実際に言ってそうなセリフにはシビれました。

小林:そんな風に思っていただけたら最高です。露伴の場合はキャラがはっきりしていますので、台詞もイメージがしやすかったです。

ーー「このビチグソがぁ!」と地上波では厳しいと思える台詞もありました(笑)。

小林:いけるみたいです(笑)。差別用語じゃないからじゃないですか。

ーーアニメシリーズでは、第5部で原作にはないレオーネ・アバッキオの過去を描かれていました。小林さんがオリジナルエピソードを入れる上で気をつけていることはありますか?

小林:不要なものにはしない。必要だから入れたっていうものにならないといけない。監督を含めて、ジョジョ愛が強いスタッフがいっぱいいるんです。アバッキオの過去も、監督とかほかのライターさんも『ジョジョ』が大好きなので、私一人がオリジナルを作ったわけじゃなく、いろんな方のアイデアから構築していきました。それを集英社さんと荒木先生がチェックをしていくんです。先生は意外とOKを出してくださるんですが、理由も「覚えてないからいいよ」という時もあって(笑)。柔軟に対応していただけるのでやりがいはありますね。

ーー『岸辺露伴は動かない』にはまだまだエピソードがありますが、小林さんが実写化してみたい話は?

小林:「六壁坂」。あれは不気味で映像で観てもすごそうだなって。でも、ちょっと年末には向かないですね(笑)。

ーー最後に本作の魅力を教えてください。

小林:岸辺露伴のキャラクターに尽きます。少しはマイルドかもしれないですけど、ほかにはないキャラですので、一生さんの露伴が一つの在り方として確立するんじゃないかと思っています。

■放送情報
『岸辺露伴は動かない』
NHK総合、NHK BS4Kにて、12月28日(月)、29日(火)、30日(水)22:00~22:49放送 (3夜連続)
出演:高橋一生、飯豊まりえ
第1話ゲスト:柴崎楓雅
第2話ゲスト:森山未來
第3話ゲスト:瀧内公美、中村倫也
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
小説:北國ばらっど『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』所収「くしゃがら」
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
演出:渡辺一貴
撮影:山本周平
照明:鳥内宏二
録音:高木創
美術:磯貝さやか
編集:鈴木翔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
制作統括:鈴木貴靖、土橋圭介、平賀大介
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
(c)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
(c)NHK・PICS