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ベイダー卿ら『スター・ウォーズ』関係者複数 2020年コロナで亡くなった映画業界人を振り返る

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リアルサウンド

 2020年を振り返ると映画界には色々なことが起きました。新型コロナウイルスは興行収入面に影響を与えたのみならず、歴史に名を刻んだ撮影監督や言語コーチなど業界の一線で活躍していた人々の命までも奪ってしまった。日本でも、『キネマの神様』で主演を務める予定だった志村けんが他界し、多くの国民が悲しみに包まれました。つい先日、かのダース・ベイダー卿を演じていた俳優デヴィッド・プラウズの訃報が届いたことを受け、今一度今年コロナによってこの世を去ってしまった映画人たちと、彼らの功績を振り返りたいと思います。

アレン・ダヴィオー(シネマフォトグラファー/77歳没)

 前期スティーヴン・スピルバーグの名作には必ずこの人あり。アレン・ダヴィオーは『E.T.』をはじめ、『カラーパープル』『太陽の帝国』などの作品で過去にアカデミー賞ノミネート歴が5回もある敏腕シネマフォトグラファーです。映画やTVドラマに夢中だった彼は映画学校に通わず、いくつものスタジオに顔を出して、当時の尊敬する撮影監督らの仕事を目で見て覚えました。こういう飛び込みで現場の空気を学ぶ姿勢は、スタジオツアーを抜け出してその場で人脈を作ったスピルバーグと同じですね。

 この2人は1968年、スピルバーグが監督した短編映画『AMBLIN』(後の制作会社名の由来)で初めてタッグを組み、それから長い付き合いに。ダヴィオーは「光のマスター」として知られており、『E.T.』ではそんな彼の実力が存分に生かされています。特に、後にスピルバーグが自身の作品に多用するガラス越しの撮影や、E.T.の隠れるクローゼットに差し込む光など、彼が撮影監督として後世に残した表現方法は挙げだしたらキリがありません。

 『ヴァン・ヘルシング』(2004年)まで精力的に活動し、2010年に引退。近年彼はモーションピクチャー&テレビジョン基金(MPTF)が設立した介護施設で生活を送っていましたが、施設内でアウトブレイクが起き、院内感染。その後が合併症により、77歳で息を引き取りました。

アン・サリヴァン(アニメーター/91歳没)

 実はMPTFの介護施設における院内感染で亡くなった映画人はアレン・ダヴィオーだけではありありません。かつてウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに所属し、アニメーターとして活躍したアン・サリヴァンもその1人。

 彼女はパサデナのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン卒業後、ディズニー・スタジオのペイント部門に入社し、『ピーター・パン』(1953年)から参加。その後、出産と養育のために一時的に『原始家族フリントストーン』や『スクービードゥー』などを手がけたハンナ・バーベラ・プロダクションに移籍。1987年にディズニーに戻り、『リトル・マーメイド』や『ライオン・キング』『ターザン』をはじめとする数々のヒット作の制作に携わりました。

 MPTF介護施設内のアウトブレイクに巻き込まれ、合併症を起こして亡くなってしまったサリヴァン。ダヴィオーと彼女に加え、『ビバリーヒルズ・コップ2』などに出演した俳優のアレン・ガーフィールドもコロナ感染し、この世を去りました。

アンドリュー・ジャック(言語コーチ・俳優/76歳没)

 映画を撮影する上で欠かせないのが、俳優の演技。そこにとても重要に関わってくるのが言語の発音です。アンドリュー・ジャックは『スター・ウォーズ』シリーズの『フォースの覚醒』と『最後のジェダイ』に登場したイーマット将軍としても知られているイギリス人俳優。しかし何を隠そう、彼は本業である言語コーチとしてこれまで200名以上にものぼる俳優・女優に指導してきた凄い人なのです。

 アメリカ人俳優であるロバート・ダウニー・Jr.がチャップリンやシャーロック・ホームズを演じた時も、ジャックが彼の側につきっきりでイギリスアクセントを指導。その他にも、007時代のピアース・ブロスナンやケイト・ブランシェット、ヴィゴ・モーテンセンが彼のお世話になりました。

 また、彼は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの言語スーパーバイザーでもあり、作品内に登場するエルフ語や暗黒語といった中つ国オリジナル言語のアクセントを創り(!)、俳優人に教えていました。あのブラッド・ピット主演作『トロイ』に登場するギリシャ人やトロイ人のアクセントもデザインした人でもあり、彼が映画史に与えた功績は数えきれないほど。

 残念ながら、コロナ感染2日後に他界。生前最後に取り掛かっていた仕事は、ロバート・パティンソン主演の『ザ・バットマン』でした。

ジェイ・ベネディクト(俳優/68歳没)

 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の端役に出演するもリリース版ではカットされてしまい、『エイリアン2』ではニュートの父であり、最初のフェイス・ハガー寄生者として同惑星の住民を全滅させた張本人ラス・ジョーダンを演じるも完全版にしか登場しない。日本ではあまり知名度がないかもしれませんが、ジェイ・ベネディクトはイギリスではとても知られ人々に愛された俳優でした。

 キャリアが始まったばかりの20代の頃は、キングス・ロードでやっていた『ザ・ロッキー・ホラー・ショー』やハロルド・ピンター『青春の甘き小鳥』といった劇に出演。その後、イギリスの国民的ドラマ『Emmerdale(原題)』の出演で広く知られ、テレビと映画の両方で活躍しました。決して大きく目立ったわけではありませんが、声優としての実績もあり、まさになんでもできるバイプレイヤー的存在だったのです。

 ベネディクトは4月4日、ロンドンでパンデミックが広がる最中に69歳の誕生日を目前に息を引き取りました。

マッテオ・デ・コスモ(アートディレクター/52歳没)

 過去に輝かしい栄光を築いた著名人だけでなく、今が働き盛りだった業界人も残念ながらこの世を去ってしまいました。52歳という若さで亡くなったマッテオ・デ・コスモはまさに、その内の1人です。

 イタリア出身の彼は90年代後期から主『サウスパーク』で知られるケーブルテレビチャンネル、コメディ・セントラルのドラマでアートディレクターとして活躍。その後、第82回アカデミー賞で数部門受賞した『プレシャス』をきっかけに、ロブ・ライナー監督作『最高の人生のつくり方』やチャドウィック・ボーズマン主演作『21ブリッジ』など、映画作品にも携わっていきました。

 近年の活躍はめざましく、日本でも話題になったヒットドラマ『マダム・セクレタリー』やマーベル作品『ルーク・ケイジ』に『パニッシャー』の美術も担当。最近ではABC局の新作ドラマ『Emergence(原題)』を手掛け、ちょうどコロナが蔓延し始めた頃に制作が開始された同局の料理番組『Harlem’s Kitchen(原題)』のアートディレクターも務める予定でした。

デヴィッド・プラウズ(俳優/85歳没)

 シスの暗黒卿、ダース・ベイダーを旧三部作通してスーツアクターとして演じきったデヴィッド・プラウズ。もともとボディビルダーやウェイトリフティング選手として活躍していた彼は、その筋肉質な巨体(198cm!)を生かしてフランケンシュタイン役やマッチョ男役として60年代後半から映画に出演し始めます。そして1971年、スタンリー・キューブリック監督作『時計じかけのオレンジ』で主人公アレックスが再び作家の家に訪れた時に彼を捕まえた用心棒、ジュリアンを演じたことでジョージ・ルーカスの目に留まりました。また、彼は同年から“グリーンクロスマン”という、子供達の道路交通安全を見守るスーパーヒーローとしても個人で活動を始めており、90年まで続いたことで2000年に大英帝国勲章を授与されています。

 ダース・ベイダーが彼の名を世界に知らしめた大きな役柄であったにも関わらず、彼は声を別人に吹き替えられたり、ラストの素顔も別俳優に変えられたりと不満を抱いていました。それに加え、とあるリーク事件をきっかけにジョージ・ルーカスと仲違いに。リークの犯人と決めつけられたプラウズは、のちに記事を出した記者が彼の身の潔白を表明するも確執は続き、2010年にはルーカス・フィルム関連の公式イベントへの出禁を言い渡されてしまいます。そんな彼についてのドキュメンタリー『I AM YOUR FATHER』が2015年に公開。

 プラウズはその後、2017年まで活動をしていましたがアルツハイマーに。11月にコロナウイルウスに感染後、2週間の闘病を経てこの世を去りました。

キム・ギドク(監督/59歳没)

 韓国の巨匠キム・ギドクも、12月11日にラトビアにて死去。20歳から5年間、海兵隊に所属していたギドクは1990年に渡仏し、そこで映画の魅力に触れました。レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』などの作品に触発され、1996年に『鰐〜ワニ〜』で監督デビュー。その後、『春夏秋冬そして春』をはじめ『サマリア』で第54回ベルリン国際映画祭で銀熊賞、『うつせみ』で第61回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を獲得しました。

 2012年には第69回ヴェネチア国際映画祭にて最高賞を『嘆きのピエタ』で受賞し、作品としては高い評価を得ていたギドクですが、2017年に『メビウス』に出演予定だった女優から暴力を受けたことを告訴され、翌年には#MeToo運動においてセクハラや性的暴行を女性キャストに繰り返し行ってきたことが告発されました。

 性暴力のスキャンダルが明かされてから、実質韓国の映画界から追放状態になり、国外で活動をしていたギドク。移住予定地だったラトビアで12月5日から連絡が途絶え、現地の病院にて11日に息を引き取りました。

他にもたくさんいる、コロナウイルスが原因で亡くなった映画人たち

 これまで取り上げた人物らはごく一部でしかなく、以下に2020年12月10日時点でわかっている、コロナウイルスによって亡くなった映画業界人を一覧で紹介します。

ルチア・ボゼー(女優/イタリア)
テレンス・マクナリー(映画脚本家、劇作家/アメリカ)
マーク・ブラム(俳優/アメリカ)
メンギー・コバルビアス(俳優/フィリピン)
ハミッシュ・ウィルソン(俳優/イギリス)
ウィリアム・ウルフ(映画・演劇評論家/イギリス)
ヒラリー・ドワイヤー(女優/イギリス)
ジュリー・ベネット(女優・声優/アメリカ)
トゥルハン・カヤ(俳優/イスタンブール)
パトリシア・ボスワース(女優、作家/アメリカ)
フォレスト・コンプトン(俳優/アメリカ)
オーラン・モントゴメリー(俳優、画家/アメリカ)
リー・フィエロ(女優/アメリカ)
ジョゼップ・マリア・ベネット・イ・ジョルネ(劇作家、映画脚本家/スペイン)
アレン・ガーフィールド(俳優/アメリカ)
ジスラン・トランブレイ(俳優、コメディアン/カナダ)
エレーヌ・シャトラン(女優、映画監督/フランス)
ウィン・ハンドマン(アートディレクター/イギリス)
モーリス・バリエール(俳優、歌手/フランス)
ジョエル・M・リード(映画製作者、脚本家/アメリカ)
サラ・マルドロール(映画製作者/フランス)
ミレナ・ジェリネック(脚本家/チェコ)
マルティーヌ・クレフクール(女優/オランダ)
ジャック・ロニー(俳優/フランス)
フィリップ・ナオン(俳優/フランス)
岡江久美子(女優/日本)
和田周(俳優、声優/日本)
ダニエル・コーシー(俳優、映画プロデューサー/フランス)
ジェズス・シェジアッキ(俳優、映画監督、プロデューサー/ブラジル)
ルネ・クロード(女優、歌手/カナダ)
ピラール・ペリサー(女優/メキシコ)
サムベル・ガスパロフ(映画監督/ロシア)
ダン・ヴァン・ハッセン(俳優/イギリス)
クリス・トロウスデール(俳優/アメリカ)
ダルシー・ヌネス(女優、歌手/ブラジル)
ブランディス・ケンプ(女優/アメリカ)
ラガー・アル・ゲッダウィ(女優/エジプト)
ニック・コーデロ(ブロードウェイ俳優/カナダ)
ライムンド・カペティージョ(俳優/メキシコ)
セルジオ・リカルド(映画監督、作曲家/ブラジル)
トリニ・ロペス(歌手、俳優、ギタリスト/アメリカ)
フェルナンド・E・ソラナス(映画監督、脚本家/フランス)
チャールズ・グレゴリー(ヘアスタイリスト/アメリカ)

 映画業界に限らず、今後も世界中の人々とが一刻も早く安心・安全な暮らしが送れるよう願うばかりです。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。最近のマイブームは『この恋あたためますか』のマコッちゃん。InstagramTwitter