吉田鋼太郎×柿澤勇人、ふたりの男が命懸けで騙し合う『スルース』は「泣ける芝居」
ステージ
インタビュー
吉田鋼太郎(左) 柿澤勇人(右) 撮影:渡部孝弘
妻を“寝取られた男”アンドリュー・ワイクと、“寝取った男”マイロ・ティンドルとの手に汗握る復讐の応酬を描く、アントニー・シェーファーの傑作ミステリー『スルース(探偵)』。これまで国内外、舞台・映像を問わず、数々の名優が演じてきた芝居に、柿澤勇人(マイロ役)と吉田鋼太郎(アンドリュー役/演出)が挑む。『デスノート THE MUSICAL』『アテネのタイモン』に続く共演となるふたりが、「稽古してみて初めて分かった」と口を揃える、本作の真の面白さとは――。
「コロナ禍の今、やる意味が見えてきた」(吉田)
──ほぼふたり芝居で、一方は演出も務めるという異例の座組です。お稽古はどのように進んでいるのでしょうか。
吉田 歌舞伎のお稽古みたいだね。御大がいて若手がいて、「ここはもうちょっと美しく見せたほうがいいんじゃない?」とかって進めるようなやり方です。僕が一方的に決めるんじゃなくて、ふたりで色んな可能性を探りながらやってるから、すごく楽しいですよ。
柿澤 僕もめっちゃ楽しいです。もちろん大変ではあるんですけど、鋼太郎さんが僕には想像もつかないようなことを言ってくれるから、発見と勉強の毎日ですね。
吉田 俺、ふたり芝居をやるのが初めてで。セリフの量が膨大だし、ずっと出てるし、逃げ場がないってことで、最初はビビってたんですよ(笑)。でも意外とね、やってみると「あの人のシーンまだ稽古してない」とかって気を遣う必要がないから楽しくて。やろうと思えば1日10時間くらいずーっとできるなってくらい、芝居好きには堪らない稽古。
柿澤 ……10時間はキツいっすけどね(笑)。僕はキャストふたりでのミュージカルは、『スリル・ミー』で経験してはいるんですけど、全く別物という感じ。あの時は栗山(民也)さんという演出家がいましたし、栗山さんと鋼太郎さんでは作り方も全然違いますから。また新たな挑戦というか、挑戦でしかないという気持ちで毎日稽古しています。
──そんなお稽古の中で見えてきている、この作品の面白さとは?
吉田 初めてホンを読んだ時は、よく出来た復讐劇だってことは分かったんだけど、面白さがどこにあるかって言われると、ちょっとモヤがかかってたんですよ。この苦い芝居を、しかもコロナ禍でやる意味がどこにあるのか、ひょっとしたらお客さんにイヤな思いをさせてしまうんじゃないかみたいな気持ちがどこかにあった(笑)。ところがどっこい、やってみたらものっすごい芝居でしたね! 要するにこれは、お互いを騙すことだけに、命を懸けてる男たちの話なんですよ。そのパワーがものすごいから、それがお客さんの生きるエネルギーに繋がるし、大の大人がなんでこんなバカなことを一生懸命やってんだっていう面白さもある(笑)。哀れにも滑稽にも、情熱的にも虚無的にも見える、本っ当に色んなものが入った芝居です。
柿澤 面白いですよね。ふたりの男がお互いの腹を探り合いながら、言葉とは真逆のことを考えたりしながら、心理戦をバチバチ繰り広げる。僕は、鋼太郎さんによる台詞の言い回しや工夫によって、その面白さがより伝わりやすくなってるなと思います。こんなにホン読みに時間をかけた稽古は僕、初めてかもしれないです。
吉田 翻訳劇につきまとう“翻訳調”を、今回はできるたけ避けたくてね。1970年代って舞台設定を現代風に変えてることもあって、今の日本人の日常会話の言葉を目指したから。
柿澤 多分お客さんも、全部のセリフがちゃんと分かるからこそ、僕らの細かい動きとか反応と重ね合わせて「言葉ではこう言ってるけど本心は?」って、それこそ“探偵”気分で探りながら観られますよね。1回目はアンドリュー中心、2回目はマイロ中心みたいに、何回観ても面白い芝居になるような気がしてます。
吉田 あ、そうだね! 結末を知った上で観るのもまた面白いと思います。
柿澤勇人は狂犬? それとも従順な子犬? もしくは・・・?
──改めて、吉田さんから見た役者・柿澤さんの印象は?
吉田 カッキーは割とね、突然エンジンがかかるんですよ(笑)。えっ、今? ここで? みたいな。
柿澤 ……そうっすか?(笑)
吉田 そうそう。今までの経験から来るものだと思うんだけども、自分から仕掛けるより、演出家のオーダーをきっちりこなそうとするところがあって。舞台上のカッキーを知ってる俺には、それが「もっと生き生きしてるはずなのに、今日は何だ、二日酔いか?」みたいに映るんだけども(笑)、そうこうしてるうちに突然エンジンがかかる。ま、よく分かんない人ですよ(笑)。
柿澤 ははははは!
吉田 自分の腑に落ちるまでは、アクセルを踏まないんでしょうね。俺は“狂犬柿澤”と思ってるんだけど、それはすべてのシーンが腑に落ちた本番で初めて現れるものであって、稽古の時は意外と大人しい、従順な子犬なんだなと(笑)。今は少しずつ、シーンによっては狂犬の片りんが見えてきてるところですね。
柿澤 確かに稽古の間は、何が正解かを常に考えながら、ギリギリまで探りながらやってます。でも僕、『アテネのタイモン』の時もそうじゃなかったですか?
吉田 言われてみればそうだったな。俺の中では本番の記憶が強烈だから、稽古の時のことを少し忘れているのかもしれない。
柿澤 腑に落ちるまで時間がかかるんですよ。やっと「こんな感じかな」って思えるようになってきた頃が、鋼太郎さんには「エンジンがかかった」「狂犬の片りんが見えてきた」って見えるのかなと思います。でも僕、そういう時でも自分が狂犬だとは全く思ってないですよ! 僕はいつだって従順な、ゴールデンレトリバーみたいな俳優です(笑)。
──では、柿澤さんから見た演出家・役者としての吉田さんの印象は?
柿澤 いやもう、本っ当にとんでもない方ですよ! 演出家としては、台本を演者にもお客さんにも分かりやすくしてくれて、役としてちゃんと会話ができるようにあらゆる手を使って導いてくれて。役者としては、まだアクセルベタ踏みではないと思うんですけど、それでもやっぱり対峙した時に圧倒されるものがある。背もそんな変わらないのにすげーでっかく感じるというか、こんなに威圧感とか重圧を感じる相手は初めてですね。
吉田 ま、アンドリューは威圧する役だから。
柿澤 そういうことじゃなくて(笑)。演出家として色々考えながら、僕へのダメ出しもしながらでこれだから、100パーセント役者モードになるのが怖いし楽しみだし、っていう感じです。こんな方と2時間芝居できる日が2か月もあるなんて、めちゃくちゃ貴重だなと思いますね。
吉田 ……。
柿澤 あれ鋼太郎さん、寝てました?
吉田 寝てない寝てない(笑)、聞いてるよ。楽しみだね!
──吉田さん照れくさそうなので次の質問に(笑)。コロナ禍の影響で、吉田さんはほぼ1年ぶり、柿澤さんもいくつかの公演の中止を経ての舞台になりますね。
吉田 実は稽古に入る前は、「2時間喋り続けるなんて俺にできるのかな」って、本当にちょっと心配で。今は感覚が戻って、なんとかできるだろうって感じにはなってるけど、舞台の仕事ってそうなんです。それでもやっぱり、初日は俺、嬉しいと思うな~。目の前にお客さんがいて、笑い声が聞こえたりシーンとなったりっていうのはやっぱり、映像での仕事では得られない舞台の醍醐味。ひょっとしたらもう、出てひと言しゃべっただけで泣いちゃうかもしれない。
柿澤 うそ~(笑)。
吉田 「すいません、もう1回やります!」みたいな(笑)。そんな気がするよね、本当に。
柿澤 僕も『ハルシオン・デイズ2020』で久しぶりにお客さんの前で芝居をした時は、本当に嬉しかったし楽しかったです。ただやっぱり、色々と気を付けなきゃいけないこともあったから、元通りというわけにはいかなくて。この作品をやる頃、どんな状況になってるかまだ分からないですけど、早く純粋に芝居の喜びが感じられる日が戻ってきてほしいですね。
「僕の役者人生最大の壁になる」(柿澤)
──本当にそうですね。2021年中には元通りになることを願いつつ、最後におふたりから、そんな来年の抱負などお聞かせいただければと思います。
吉田 今年、色んな芝居が中止になった時期があったことで、お客さんの中にも「あるのが当たり前じゃないから大事に観なきゃ」という気持ちが生まれたと思うんですよ。そんなお客様に対して、こちらも誠心誠意、大事に演じなきゃいけないなと。今まではどうしても、来たものをやって、「あー終わった、じゃあ次」っていうところがなきにしもあらずだったけど、改めて初心に戻って、丁寧に届けることを心掛ける年にしたいですね。
柿澤 いい話のあとで申し訳ないんですけど(笑)。僕は本当、この『スルース』をとにかく成功させないと!ってことしか考えてないですね。僕の中で、2021年はいきなりとんでもない壁がある感覚なので、それを越えてからじゃないとちょっと、次のことは考えられない(笑)。
吉田 マイロって、やればやるほどすっごい良い役だもんな。虐げられて生きてきた男が成り上がって、上流階級の男になんとかひと泡吹かせようと奮闘する姿は何と言うか……ヒーローみたいなところがある。俺も稽古してて初めて気付いたけどこれ、泣ける芝居なんだよ。そしてお客様の涙を誘えるかどうかはすべて、カッキーの肩にかかってるという。
柿澤 やめてください(笑)。
吉田 かかってる!
柿澤 ……2021年どころか、僕の役者人生で最大の壁になるような気がしてきました(笑)。でもなんとか乗り越えて、いい2021年にしたいです!
取材・文:町田麻子 撮影:渡部孝弘
『スルース~探偵~』
作:アントニー・シェーファー
翻訳:常田景子
演出:吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人 吉田鋼太郎 ほか
【東京公演】
2021年1月8日(金)~1月24日(日)
新国立劇場 小劇場
★東京公演アフタートーク開催!
※登壇者は公演公式サイト https://horipro-stage.jp/stage/sleuth2021/ にて発表
1月13日(水)14:00開演
17日(日)13:00開演
19日(火)14:00開演
21日(木)14:00開演
22日(金)14:00開演
【大阪公演】
2021年2月4日(木)~7日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
【新潟公演】
2021年2月10日(水)・11日(木)
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
【仙台公演】
2021年2月13日(土)・14日(日)
会場:電力ホール
【名古屋公演】
2021年2月19日(金)~21日(日)
会場:ウインクあいち大ホール