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『HUNTER×HUNTER』屈指の名バトル「ヒソカ対クロロ戦」を徹底考察 ふたりの勝敗を分けたのは?

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リアルサウンド

 『HUNTER×HUNTER』の連載再開を心待ちにしていた2020年であるが、その夢は叶わなかった。そこで2021年の連載再開の祈願の意を込めて、コミックスを読み直していると、ふと気になることがあった。それは第34巻に収録された天空闘技場でのヒソカ対クロロ戦だ。

 ヒソカとクロロという作品内でも屈指の強者二人による、どちらかが死ぬまで続く真剣勝負。複数の念能力による戦術と心理戦が複雑に入り乱れ、一読しただけでは理解不能とまで言われるこの戦いは、2016年の連載当時からファンの間でシリーズ随一の名勝負と称され、話題になった。

 その一方で、この戦いはいまなおある議論を呼んでいる。それはこの戦いは実はヒソカとクロロの一対一ではなく、クロロ側に幻影旅団のメンバーが加勢していたのではないか、という議論。それについて作者の冨樫義博および編集部から公式な見解は出されていない。

 これから先は、あくまでいち『HUNTER×HUNTER』ファンの推測と妄想である。ご理解いただいたうえ、読み進めていただくと幸いだ。

※本稿はJUMP COMICS『HUNTER×HUNTER』34巻を既読であることを前提として、各能力の詳細な説明などは省く。本文中に出るページ番号も同単行本に準じる。

 さて、まずはこの一戦の鍵となるクロロの念能力の条件と戦いの流れを整理したい。

 クロロは戦いを始めるにあたり、本来の能力【盗賊の極意】とそれに付属する【栞のテーマ】を含めて、以下の7つを使うとヒソカに宣言する。

 【盗賊の極意(スキルハンター)】

 他人の念能力を盗み、自分の能力として使うことができる能力。使用の際には右手で盗んだ能力を収めた本を開き、ページを開いておく必要がある。

【栞のテーマ(ダブルフェイス)】

【盗賊の極意】に付属する能力で、本を閉じても栞をはさんだページの能力を維持できる。栞の枚数は一枚。

【携帯する他人の運命(ブラックボイス)】

アンテナを刺した相手を、携帯電話で命令通り動かせる能力。

【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】

左手で触った物体のコピーが右手から出てくる能力。ただし生き物や念能力で作られた物はコピーできない。

【番いの破壊者(サンアンドムーン)】 

左手で太陽の刻印を、右手で月の刻印を相手につけることができる。太陽と月の刻印が触れると爆発する。この能力は死後強まる念の性質をもち、一度刻印すると爆発するまで刻印が消えない。

【人間の証明(オーダースタンプ)】

スタンプを押した“人形”を操作することができる。

【転校生(コンバートハンズ)】

右手で触れると相手が自分の姿になり、左手で触ると自分が相手の姿になる。両手で触れれば、自分と相手の姿が入れ替わる。

【栞のテーマ】は【盗賊の極意】に付属する能力で、盗んだ能力には含まれない。これにより、これまで左手と盗んだ能力1つ(【盗賊の極意】の本で開かれているページの能力)しか使えなかったクロロは、

・両手と、盗んだ能力1つ(【栞】が挟まれているページ)が使える

・左手と、盗んだ能力2つ(右手で【盗賊の極意】の開いているページの能力と【栞】が挟まれているページの能力)が使える

という2つの状態が選べるようになった。ヒソカに、ここまで自分の手の内をあかす理由を問われたクロロは「ただの殺し合いだからこそ闘い方は大事だろう?」(P22)と答える。しかし実はその一方で情報を恣意的に明かすことで、ヒソカに能力を誤解させるという目論見もあったようだ。特に【番いの破壊者】の説明の太字の部分は、戦いを左右する重要な要素だが、クロロによる事前の能力の説明では、言い回しを変えていたため、ヒソカは当初気が付かなかった。

 次に大雑把ではあるが、戦いの流れをまとめてみたい。

①クロロが審判を使用して、自分がこの戦いで使用する能力を説明。(※P11-P40)

②クロロが【携帯する他人の運命】で観客を操作してヒソカに攻撃。(※P41-P45)その間、観客席に隠れる。

③クロロが【神の左手悪魔の右手】【番いの破壊者】【人間の証明】で作った人形たちでヒソカを攻撃。(※P47-52)

④人形たちに紛れて、クロロ自らもヒソカに打撃を加える。(※P53-62)

⑤ヒソカ、人形の首を【伸縮自在の愛】で鎖玉状の武器として利用。人形たちを倒していく。クロロは再び観客席に隠れる。(※P63-72)

⑥クロロ、【転校生】と【携帯する他人の運命】で作った偽クロロでヒソカを翻弄。(※P73-85)

⑦クロロの【神の左手悪魔の右手】【番いの破壊者】【人間の証明】で作った200体を超える人形たちがヒソカを襲う。(※P87-103)

⑧クロロ、【番いの破壊者】と【携帯する他人の運命】を使い、ヒソカが鎖玉として使っていた人形の首の【番いの破壊者】を爆破させる。ヒソカ、左手負傷。(※P104-107)

⑨ヒソカ、【伸縮自在の愛】で新たに鎖玉状の人形の首を作成して応戦。二階に逃げようとしていたところを【神の左手悪魔の右手】【番いの破壊者】【人間の証明】で作られた人形が自爆特攻して阻止。(※P108-120)

⑩ヒソカ、【伸縮自在の愛】で天井に逃げようとしたところに、クロロが人形を投擲。(※P121-124)

⑪床に落ちたヒソカに【神の左手悪魔の右手】【番いの破壊者】【人間の証明】で作られた人形が群がり圧迫&爆発。(※P125)

 この一戦は基本的にヒソカの視点で描かれているので、クロロの行動は推測の部分が多いが、大まかにはこういった流れになるだろう。改めて振り返ると、ほぼ全編でクロロが戦いの主導権を握り、ヒソカはクロロが放つ策にその都度対処していた、つまりクロロの計画通りにことが進んだことがわかる。

 ①で能力について説明している最中、クロロはヒソカに「オレはそれに加えて自分に必要な能力を増やす事が出来る」「そして確実に勝てる条件が揃うまで」「待つ…」(※P28)と語っているので、ヒソカを死に追いやった【神の左手悪魔の右手】によるコピー人形の作成→【番いの破壊者】による爆弾人形化→【人間の証明】による人海戦術という戦術は、当初から決め手として考えていたのだろう。

 対決の場所に、ヒソカを知っている人間が大量にいる天空闘技場を選んだのも【神の左手悪魔の右手】と【人間の証明】の使用を前提にしていたことがうかがえる。

 これに対してクロロと幻影旅団が共闘していた説を支持する人たち(以下、共闘説派)が、以下のような描写をその根拠に挙げることが多いようだ。

・クロロが【盗賊の極意】で、シャルナークの【携帯する他人の運命】(※P13)とコルトピの【神の左手悪魔の右手】(※P30)を使っていたこと。

・戦いが終わった後、シャルナークとコルトピとマチが、現地でヒソカの死亡を確認していた(※P129)こと。

 マチに関しては【携帯する他人の運命】のアンテナが消えたことについて、ヒソカが「釣り糸でも結んでおいて引き寄せたか…」と推測する(※P47)ことから、マチの念糸を連想した人も多いようだ。

 また本格的な戦いが始まる前にクロロが能力者の工夫としてヒソカに語った台詞「能力を極力隠したり」「戦う場所や相手を慎重に選んだりチームで戦ったり」(※P28)や、死後復活したヒソカにマチが語った「これに懲りたら今度からは」「戦う相手や場所はちゃんと選ぶ事だね」という台詞(※P137)も共闘を連想させる。

 そして何より強い理由として挙げられるのが、⑦でヒソカを襲ったコピー人形の数が不自然に多すぎること。確かにヒソカは⑥の時点で残りのコピー人形の数を20~30体と予想したが、実際にはその6~10倍にあたる200を超える数が押し寄せた。これらの人形を作るには【神の左手悪魔の右手】→【番いの破壊者】→【人間の証明】と3段階と3つの能力が必要だ。ヒソカと戦っている間、クロロにそんな時間はなかった。

 だからクロロは客席にいたコルトピに【神の左手悪魔の右手】の能力を返して、対決中に、どんどんコピー人形を増やしていってもらったのではないかというのが、共闘説派たちの推測となっている。確かにそれなら簡単に説明がつくが、本当にクロロ単独で、これだけの数を作ることは不可能なのだろうか?

 もしヒソカの予想通りコピー人形が20~30体残っていれば、クロロが作るのは180~170体。クロロがこうした人形を作る時間をヒソカは一体あたり「1~2秒」(※P89)と推測しているから、かかる時間は3分から6分ほど。⑥でクロロが【携帯する他人の運命】を解除して(P85)コピー人形が200体以上とアナウンスされる(P100)まで、ヒソカが推理&観客席の様子見をしている間(P85-92)が7ページ、襲いかかってきた人形とヒソカが戦っている間(P93-99)が7ページの時間がある。

 漫画というメディアの性質上読み手によって体感時間は異なるが、個人的にはこの間に3分くらいの時間は流れていても不自然ではないように感じる。またヒソカが「介抱者かクロロかの見分けもつかない」(P89)と言っているように、P85以降、観客席には動けない負傷者が大勢いる、クロロがコピー人形を作り紛らせるには適した状況であったであろうことも推測される。

 こうして【番いの破壊者】(太陽の刻印のみ)のコピーを1~2秒で大量に作り、ヒソカと戦わせて時間稼ぎをしているうちに、止めの【番いの破壊者】の太陽と月両方の刻印を両手に施した爆発力MAXのコピー人形(こちらは1体あたり5秒以上の制作時間が必要)を仕込んでいったのだろう。

 以上のことから筆者はヒソカ対クロロのタイマン説を取るが、もちろん共闘説を否定する意図はない。むしろひとつの対決をめぐり、これだけ様々な解釈が可能なこと自体が『HUNTER×HUNTER』の奥深さであり、それを楽しむことができるファンの豊かさの証左であると思う。

 実は、本稿を書いている途中で自分も、クロロとマチのみの共闘説が思い浮かんでしまったのである。最初、200体のコピー人形を作る時間はいつかと考えていた時、④のヒソカに肉弾戦を挑んだクロロも偽物で、その体術からマチが偽の【盗賊の極意】を持って演じていたのではないかと。それならば能力を貸していなかったマチが現場にいたこと、後に④でヒソカが攻撃を受けていた首回りを診て「首回りの痛みがやっぱり激しいね」と考えていた(P131)ことの説明がつく。もっとも⑧でヒソカが武器として使っていた首を爆発させるには、この時点で元の胴体に再度【番いの破壊者】で太陽の刻印をつけないといけないので、結局不可能なわけであるが。

 軽い気持ちで考え始めたヒソカ対クロロ戦の検証だが、正直まだまだ奥が深そうだ。年末年始、時間に余裕ができるこのタイミングで、『HUNTER×HUNTER』屈指の名勝負、ヒソカ対クロロ戦の考察に取り組んでみてはいかがだろうか。

■倉田雅弘
フリーのライター兼編集者。web・紙媒体を問わず漫画・アニメ・映画関係の作品紹介や取材記事執筆と編集を中心に、活動している。Twitter(@KURATAMasahiro