永山瑛太が語る、“永山瑛太”としての2020年 「僕にできることは、俳優の仕事」
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正月時代劇『ライジング若冲~天才 かく覚醒せり~』(NHK総合)で、天才画家・若冲(中村七之助)の覚醒に多大なる寄与をした大典顕常を演じる永山瑛太。“相国寺の僧侶にして詩人。若冲終生の最高の理解者であり、若冲に絵を描く力を与えた。”という設定で、教養高く、知性的で高潔、そして芸術に対する熱情まで、永山瑛太は見事に演じている。コロナ禍を逆手にとって弟・永山絢斗と2人芝居をしたリモートドラマ『Living』(NHK総合)もおもしろいチャレンジだった。ストイック過ぎることには照れを感じるのか、ときどき冗談を交えて、空気を撹拌する。抜群のバランス感覚の持ち主は、2020年をどう振り返るか。(木俣冬)
俳優としてのタイプは“あまのじゃく”
――『ライジング若冲~天才 かく覚醒せり~』の魅力をどこに感じましたか?
永山瑛太(以下、永山):大典顕常の眼を透して、画家・伊藤若冲の天才性を発見する物語です。大典と若冲の出会いから始まって、少しずつ親密になっていくという流れの中で、若冲が画家として、タイトルにもあるとおり“覚醒”していきます。若冲の描いた絵画はもちろんすばらしいですが、僕はこのドラマの見どころは、若冲がある高みに向かってすこしずつ変化していく姿を、緻密かつ、思いきり振り切って演じている(中村)七之助さんの演技だと思います。傍らで、七之助さん演じる若冲が変化していくさまを見ていて、そう感じました。大典は、若冲の絵を最初に観たとき心惹かれ、『一枚ゆずってもらえないか』と頼んで自分の寺に持って帰り、一人で眺めながら『なんか変なもんが見えとるな』と言うんです。この台詞に僕が、若冲のみならず大典もまた変なものが見えてる人なんだと感じました。若冲も大典も、常人には到達できない領域に行ってしまっている存在なんでしょうね。
――実際に本物の若冲の絵を観たことは?
永山:撮影前に、画集をいただいて観ました。自分でも買えるものなのかなとネットで値段を調べたら、とても買えるような値段じゃなかったです(笑)。印象的だったのは鶏を正面で捉えた絵です。鶏というとた横向きで描かれているものが多いイメージですが、若冲は違う。そのアングルに至るまで、鶏を何時間も観察していたのではないかと思いました。本作ではそのエピソードも盛り込まれています。部屋の中に鶏を二十羽ぐらい入れて、それを若冲と大典が2人で四つん這いになって観察するんです。そのときの若冲が、鶏の心模様みたいなものをちゃんとキャッチするために、あらゆる角度からものすごい時間を費やしていることを、ドラマを観て感じてほしいですね。
――若冲を演じた中村七之助さんへの印象を教えてください。
永山:七之助さんとは初共演になります。ふだんの僕は、共演者の方と、積極的にコミュニケーションをとろうとしますが、七之助さんとは、クランクイン前の本読みやお祓いでお目にかかったとき、不思議なドキドキ感が芽生えて(笑)、お声をかけることができませんでした。というのは、僕が演じる大典は、七之助さん演じる若冲に“一目惚れ”をする設定のため、すでに僕が七之助さんに惚れてしまってる部分があったのかなと(笑)。男性に対して、使っていい言葉なのかはわからないですけれど、七之助さんの、妖艶で美しい佇まいに見惚れてしまうんですよね。芝居のときもそうですし、ちょっとした待ち時間のときも。その一方で、ごはんを一緒に食べに行ったときなどは、男気みたいなものもすごく感じるときもあって、本当に魅力的な方でした。
――一緒に芝居をしてみて感じたことは?
永山:日本の伝統の歌舞伎界を背負ってる七之助さんがどんな芝居をするか楽しみでした。実際、一緒に芝居をしてみると、七之助さんは、子供の頃からずっと歌舞伎界を担ってきた方だからなのか、人として器の大きさを感じました。その安心感のおかげで、僕は七之助さんの胸に思いきり飛び込んで、自分なりの芝居をすることができました。何をやっても、七之助さんは絶対受け止めてくれるんですよ。クランクインして2日目、はじめて2人で芝居をしたとき、すでにその感覚が芽生えました。
――七之助さんが記者会見で、歌舞伎の女方は「立役の人に影響を受けて輝いていくタイプである」と話していました。永山さん自身は俳優としてどういうタイプだと思いますか?
永山:そのときによって変わります。小学校のとき、数学が好きだったこともあって、俳優の仕事も数式に例えて考えるのですが、例えば、相手役が様々な要素をかけ合わせた盛りだくさんの芝居をしていたら、僕は引き算を使います。そっちのほうが観てる人がバランスを取れるというか、プラマイゼロになるみたいな気がするんですよ。逆に、相手が引いてたらものすごいかけ算することもある。そういう感じですかね。
――そのつど、やり方を変えていくんですね。
永山:そうですね。舞台の場合、大きな表現をして、大きな声を出さなきゃいけない、というイメージがありますが、僕は、わざとちっちゃい声を出すこともあります。ときにはお客様に聞こえなくてもいいんじゃないかと思って、あえてチャレンジしてみたり……。だから、俳優としてどういうタイプかと言ったら、あまのじゃく、という感じでしょうか(笑)。それはあくまで作品のためであって、その作品がより良くなるように自分を変化させていきたい。今回の『ライジング若冲』では、大典は、主人公の伊藤若冲にいかに光を与えられるか、そこに徹しました。おでこからバーッと(笑)。
——瑛太さん、すばらしく頭のかたちがよいですよね(笑)。
永山:あれは特殊メイクではありません、実際に剃りました(笑)。作品を観てもらう前に裏話を苦労話のように語るよりも、ドラマを見て、『剃ったのかな』『いや、でもこれカツラだよね』『このカツラ、すごいよくできてるね』というように、視聴者の皆さんの想像におまかせします(笑)。裏話ってたいてい、俳優がストイックであるという話になりますよね。食事制限とか……。僕もそういう話もしますけれど(笑)。それよりも楽しんだもの勝ちじゃないかな。
「チャレンジする作業が、生きていく上で絶対的な条件」
——今回、楽しみました?
永山:そうですね。最近は、コロナ禍があっていろいろ大変な世の中じゃないですか。そんななか、京都で撮影して(撮影は9月に行われた)、京都を舞台にした作品を多く手掛け、京都が好きで、知識も豊富な源孝志監督にいろいろ教えていただきながら、京都の町、京都の自然、人、スタッフの方々とすごく心地よく過ごせました。京都も、コロナのことで大変であるというお話ももちろんたくさん聞きましたけれど、それでも、みんなで気をつけながら、日本の方々にこの作品を観ていただいて、新しい年を迎えたときに少しでも気分が良くなるような時間を過ごしていただけるような作品になるように、精進して撮影しながら……精進料理を食べてました(笑)。
——「永山瑛太」という名前にされて1年。ちょうどコロナ禍の1年と重なりましたが、振り返ってみてこの1年は俳優としていかがでしたか?
永山:いろいろ考えることはありました。そんななかで、自分のために生きることが第一とはいえ、やはり、人のためになにかしたいという想いが強くなってきて、僕にできることは、俳優の仕事を通してなんだと改めて感じました。そのきっかけは、リモートドラマ『Living』に出たことです。自粛期間中、身内だったら共演できるということで、初めて兄弟(弟の永山絢斗)で共演して、楽しかったですし、演じていないと自分の精神衛生上よくないんだな、ということを再確認したんです。だから、これからももっとがんばる、ということじゃないんですけど……。僕は、多趣味で、どれも中途半端になりがちではありますが(笑)、演じることは、その多趣味なことを活かせる場だと思うんです。自分自身ということよりも、その作品や役柄のために、どうすることがベストであるか考え、現場でチャレンジする作業が、自分にとって生きていく上で絶対的な条件であると気づくことができました。
——その思いに、今回のドラマはかなりフィットしたと考えてよろしいでしょうか。
永山:そうですね。時代劇に参加する場合、現代劇以上に気合い入れないといけないんです。だから、時代劇をやる前はいつも『また大変な時間が来るぞ……』と覚悟するのですが、『ライジング若冲』をやって時代劇のおもしろさにさらに気づくことができました。『闇の歯車』(時代劇専門チャンネル)に出たとき、皆さんが大河ドラマにハマるのは、やはり日本の文化というか過去にさかのぼっていったものをもう一回観てみたい想いがあるのだろうなあと強く感じたんです。『ライジング若冲』でも同様のことを感じました。つまり、歴史上の人物を演じていると、その時代の人が感じた気持ちを体感し、日本のすばらしさを実感できるんです。視聴者の皆さんにも、僕が感じた、歴史上の人物の日本への想いが伝わるとうれしいです。
——男性同士の友情とも愛情ともつかない部分を演じてみていかがでしたか?
永山:大典と若冲には性別の垣根がなくなってしまっているんですよね。大典は若冲と出会って「この人を絶対につかんで離したくない」と思うわけですが、「この人を世に送り出したい」という強い気持ちを表すとき、心のなかで静かに強く思っているだけでもいいし、肉体が激しく動いていってもいい。だったら、視聴者の方から見て、俗に言うBLなんじゃないかと思っていただいてもおもしろいと考え、台本のト書きには「手を強く握る」しか書いてなかったのですが、押し倒してしまうんじゃないか? ぐらいの勢いで間合いを詰めてみたこともあります。あえてものすごく顔を近づけて、くちびるとくちびるがくっつくんじゃないか? みたいな距離感にしたら、監督が「やりすぎかな」と言って撮り直しになりましたが(笑)。実際、2人がそういうことをしたか、というのは史実ではもちろんわからないですが、視聴者の皆さんがドキドキするような芝居のプランをチャレンジできる限りしました。これまで、心の中で通じ合ってる、というような設定は演じたことありますが、男性の俳優と、ここまで身体的に触れ合う役を演じることは初めてで、正直、女優さんと共演するときよりも手汗がすごかったです。七之助さんに悪いな、と気になるくらい、手のひらがビッショビショになってました(笑)。緊張はしてないんですけど、七之助さんの手を握ったとき、そのなめらかさに、すごいな……みたいな(笑)。
■放送情報
正月時代劇『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』
NHK総合/BS4Kにて、2021年1月2日(土)放送
後日、BSプレミアムでも特別編放送予定
作・演出:源孝志
音楽:阿部海太郎
出演:中村七之助、永山瑛太、中川大志、大東駿介、門脇麦、渡辺大、市川猿弥、木村祐一、加藤虎ノ介、永島敏行、石橋蓮司
写真提供=NHK