ゴールデンボンバーら配信ライブの工夫、ジグザグの飛躍、lynch.ライブハウス支援企画……2020年V系シーントピックス振り返る
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2020年、他ジャンル同様にコロナ禍の影響を受けたV系シーン。その中でも配信ライブの工夫やライブハウス支援企画など、各アーティストが様々な施策にチャレンジしていた。そんな2020年のシーンについて振り返るべく、ライターの藤谷千明とオザキケイトによる対談を行った。前編ではゴールデンボンバーやアルルカンらの配信ライブ、-真天地開闢集団-ジグザグの飛躍、lynch.のライブハウス支援企画などのトピックを取り上げる。なお、後日動画も公開予定だ。(編集部)
各バンドが配信ならではの見せ方を模索
ーー2020年のV系シーンについての率直な印象を教えてください。
藤谷:一昨年の段階で2020年がどうなるのか、みたいな予想をするじゃないですか、たとえば「オリンピックの影響でライブはどうなる?」みたいな。まさかオリンピックもライブもできなくなるとは思いませんでしたよね。2月の下旬くらいからアーティストライブも延期や中止が相次いで、その後はV系に限らず配信ライブが増えていったように思います。
オザキ:まさかこんなに長い期間ライブができなくなるとは思いませんでしたね。
藤谷:ライブはできない、対面でのスタジオレコーディングも通常通りにはいかない、世の中のアーティストにとってはすごく困難な年だったと思うんです。その中でも配信ライブで新しい試みに挑戦するアーティストもいて。例えば、ゴールデンボンバーは、『ゴールデンボンバー全国縦断無観客ライブ「エアーツアー」3days』と銘打って、「気持ちは北海道」「気持ちは大阪」と各地方のご当地ネタを織り交ぜ、その街でのライブを行っているというコンセプトの配信を行いました。また、アルルカンは『シネマティックサーカス』と称して、一般的なライブとあわせて海や山で収録したものを配信していた。つまり、これは生配信ではないわけですが、ひとつの長いMVのような見せ方は新鮮でした。
オザキ:lynch.の配信ライブも過去のライブ映像とシンクロするような形をとっていました。現在進行形を見せるやり方もありましたが、そういう生の現場では見せられない演出も際立っていたなと。
藤谷:配信ならではの見せ方を各バンドが模索していたように思いますけど、ひとつ気になるところとしてはある程度の規模感を持ったバンドでなければできないチャレンジではあるんですね。そりゃあアイデアを出すこと自体は無料かもしれませんが、凝ったセットや映像演出となると、そこにリソースをさくことが難しい人たち、とくに若手は割を食ってしまうのではないかと。これは私の勉強不足かもしれないですが、2020年に新しく知ったバンドってほとんどいないんです。これまでは人気バンドのオープニングアクトだったり、なんとなく足を運んだライブハウスから偶発的に知ることはあったけど、そういう面も基本的にワンマン公演の多い配信ライブにはあまりないと感じましたね。
オザキ:そもそもイベントを配信しないですからね。基本はワンマンライブがメインなので。そういう面では、一度に二度美味しいみたいな配信ライブは少なかったですね。
藤谷:イベント配信もないわけではないですが、ただよほど良いメンツじゃないとチケットを買うハードルが高くなるなとはユーザーとして感じました。バンドの垣根を越えたコラボレーションという点では、ゲーム実況配信なども盛んに行われていた印象です。
オザキ:たしかに。MUCC 逹瑯、lynch.葉月、Plastic Tree 有村竜太朗、ナイトメア 柩、NoGoD団長、DEZERT SORAというV系オールスターみたいなメンツでゲーム実況していましたね。
藤谷:これを対バンで見てみたいと思いましたね。個々でチャレンジしている中でも、特に目立っていたのがNoGoDの団長さん。もともと、歌はもちろんのこと、バンドが出ないのに司会でライブイベントに登場するくらい話芸が達者という方ではあるんですけど、今年は配信スキルの上達具合もすごかったですね。自分のソロ作のコーラスに他のバンドの方を呼ぶみたいな企画をやっていたんですけど、それを見ていると、どんどん動画編集が上手くなっているんです。他にも先述のゲーム実況や、配信でのMCをやっていたりと様々な場所で活躍されていて、V系シーンに団長さんがいて本当によかった。
オザキ:あと、アルバムをリリースするために、サブスクリプションサービスで単曲を先行配信するアーティストも増えていた印象です。フルで作るためのレコーディング体制や期間を整えること自体が難しかったことも多少影響はあったのではないかと。
藤谷:サブスク配信によって聴かれるバンドも増えるようになったらいいなと思う反面、単純に配信しただけでは知る機会につながらないところもありますよね。そんな中で、すごく注目を集めていたのが-真天地開闢集団-ジグザグでしたね。もともとメイド喫茶に行く歌(「メイドカフェに行きたくて」)のような個性的なテーマの楽曲をリリースしていたバンドではありますが。こう……言葉は難しいですが……「思いも寄らない理由」で注目されるようになりましたよね(遠くを見ながら)。
オザキ:地上波のバラエティ番組にも出ていましたね。
藤谷:そういった追い風もあり、昨年12月に出た『Cure』の表紙がジグザグなんですけど、なんと発売前増刷という景気の良いニュースもありました。いろんな注目のされ方があって、何が注目のきっかけになるかわからない。そこは我々シーンを追っかける側としても気を抜かずに行きたいなと思うのと、やっぱり面白いことをやっていると、結果がついてくるというのは、希望だなという風には思いました。
“良いものはシェアして、一緒に頑張っていく”方向性へ?
ーー新型コロナウイルスでネガティブな状況ではありますが、様々なアクションを起こしていたバンドもいました。
オザキ:新型コロナウイルスの影響は、音楽業界全体、ひいてはライブハウスには大きな打撃を与えたと思うんですけど、そんな中、V系シーンの中でいち早く動いたのがlynch.だったと思うんです。2020年3月にアルバム『ULTIMA』を出したばかりなのに、4月に『OVERCOME THE VIRUS』をリリースして、その収益を過去出演したことのあるライブハウスに分配する、ライブハウス支援企画を行いました。結果的に1000万円超えの収益を分配したのですが、いち早くlynch.がアクションを起こしたことはヴィジュアル系のファンとしても誇らしかったです。あと、同じくらいのタイミングにDもサブスクで得た収益をライブハウスに還元する企画を行っていましたね。
藤谷:これは憶測ですが、(Dに関しては)アーティストがマネジメント事務所の社長をやっているからこそ、フットワークを軽くできたのかなとも思います。
オザキ:lynch.の葉月さんがインタビューで、収益としては成功したけど、それでライブハウスを救えるとは思っていない、自分たちの行動を見て他のバンドにも真似してもらいたかったと話していましたね。
藤谷:ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんも、今年の一連の配信ライブで生まれたアイデアを真似してほしいと言っていました。バンドの性質的にも、一般的なバンドとは違った規格外なことができるからこそ、良いと思ったものは真似してほしいと。
オザキ:ここまで深刻な状況になると、音楽業界全体で良いものはシェアして、一緒に頑張っていこうという方向性にした方が健全だと思いますね。
藤谷:そういう意味では、sleepyheadの取り組みも面白くて。コロナ以前からやっていたと思うんですけど、「ぼくのじゃないはきみのもの」という曲を権利フリーにして、「#ぼくのじゃないはきみのもの」プロジェクトとして、トラックデータを公開し誰でもカバーしていいとアナウンスしたんです。その上、それを46人のアーティストにカバーしてもらうという試みもやっていましたね。これはチャレンジングなことだと思いました。
オザキ:YouTubeには歌ってみた文化がありますし、そこを起点に曲やアーティストが広がっていくことも増えていますよね。権利で削除されることももちろんありますが、そこをあえてフリーにすることは新しさを感じますね。
藤谷:そこから、GOMESSさんと(sic)boy(シックボーイ)さんとで「WHY NOT」っていう曲で共演したり、逆にGOMESSさんのアルバムにsleepyheadが参加してたりとか、新しい人の交流ができることもある。
オザキ:ソロアーティストならではのフットワークの軽さを活かして、誰とでもコラボできるっていう良さはありますね。
ーー現状、先々がまだ見えない状況ではあるので、2021年以降の予想は難しそうです。
藤谷:2021年に関しては現時点で何も予想できないですね。ただ、すでに発表されているところとしては、the Raid.がメジャーデビューします。12月26日には国立代々木競技場第二体育館でインディーズラストワンマンを開催しましたが、明るいニュースかなと思います。the Raid.は、もともとボーカルの星七さんは人気ホストだったんですよね。夜の街をテーマにした曲、例えば「歌舞伎町レイニー」っていう曲がYouTubeで100万再生超えているのですが、それは最近は歌舞伎町にいる若い女の子のファッションやカルチャーが注目されているところに関連しているのかなと。そうやって様々な文化が交わることで広がっていくバンドも出てきていることは面白いなと思います。
オザキ:2月3日に予定されていたlynch.の武道館ワンマンはバンドにとってもファンにとっても念願だったと思うのですが、この度の緊急事態宣言を受けて残念ながら中止となってしました。ただ、日比谷野音で武道館公演の告知を聞いて、このコロナ禍においてファンの人たちの希望になるならキャパを絞ってでもやろうと決断したあの時の気持ちはファンにとってこの時代を生き抜くための救いになったことは間違いないですし、いつになるかわかりませんがlynch.が武道館に立つ日が必ず来ると思うので、それまでしっかり感染対策をして、生きて約束の場所で会えるのを楽しみにしたいですね。
<後半へ続く>