「唐突なお別れはダメだと宏樹さんから学んだ(笑)」、中村憲剛×伊藤宏樹・スペシャル対談【後編】
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(写真左より)中村憲剛、伊藤宏樹 撮影:佐野美樹
本日1月27日に発売された『FOOTBALL PEOPLE 川崎フロンターレ 中村憲剛特集号』では、中村憲剛氏とつながりが深い方々にインタビュー。誌面の都合で泣く泣くカットせざるを得なかった盟友・伊藤宏樹氏(現・川崎フロンターレ強化部)との対談の未公開部分を昨日に続き掲載。後編は長年、兄と弟のような関係で切磋琢磨してきたふたりが、印象に残っている試合やゴールについて語り合う。
――印象に残っているゴールを教えてください。
中村憲剛(以下、中村)「俺は2007年のナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)で、宏樹さんがアウトサイドに(巻いて)かけて、サイドネットに突き刺さったゴール。あれは、宏樹さんのゴールのなかでもすごく覚えてる」
伊藤宏樹(以下、伊藤)「あれ? その試合に憲剛いたんだっけ?」
中村「いましたよ」
伊藤「いたか」
中村「あれはいました(笑)」
伊藤「憲剛はいつもカップ戦にあると、代表でいないイメージだったから」
中村「あのときはいたんですよ、なぜか」
伊藤「(チョン・)テセのゴール、アシストした?」
中村「した、した。俺、意外と宏樹さんの生涯ゴールの半分ぐらいはアシストしていると思う。セットプレーも含めて」
伊藤「少ないからな(笑)」
中村「たぶん5点、6点くらいでしょ? そのうち3点ぐらいは俺がアシストしているよ」
伊藤「もうちょっと(点は)多いわ!」
――宏樹さんは憲剛さんのゴールで印象深いものはありますか?
伊藤「ゴールでいうと、プロ1年目のアウグストからのボレー。まだ憲剛が26番のとき。引退セレモニーの『ThanksVTR』のなかでも流れていたけど」
中村「あれね」
伊藤「あとは、アシストは熊谷での大宮アルディージャ戦。ジュニーニョに出したロングスルーパス、かな」
中村「それもう、だいたい世に出ているやつじゃないですか。……別のやつもらってもいいですか?(笑)」
伊藤「じゃあ、やめようか?(笑)」
中村「大丈夫、大丈夫、それでいい(笑)」
伊藤「まだ、いっぱいあるけど、憲剛とジュニーニョの“翼くん・岬くんゴールデンコンビ”みたいに決めたやつも好きだけどね。あれはFC東京戦だっけ」
中村「FC東京戦のやつね。あれもすごかった」
伊藤「あれは本当にすごかった」
中村「宏樹さん、ほとんど俺のゴールを後ろから見ているからね。確か、宏樹さんが俺と一番試合に出ていたんだよね? この間、誰かとその話をした覚えがある」
伊藤「この間、タニ(谷口博之)が言っていたな」

――ふたりのなかで一番印象深い試合は?
伊藤「ふたりのなかでか。俺が悲しかったのは、2004年に昇格して、2005年にいざ念願のJ1開幕戦を迎えた柏レイソル戦。憲剛が前日に熱を出して、いないという。あれは悲しかった」
中村「それを挙げるのは、よくないなあ(苦笑)」
伊藤「本当、そこを楽しみにめっちゃ(練習して)きていたのね。そしたら、前日のホテルで知らされて」
中村「俺もそうだよ。飯を食って、部屋に戻ったらもう急に寒気がしちゃって」
伊藤「39℃くらいあったよね?」
中村「ああーってなった」
伊藤「『何してんだよ!』と思った。あれが本当に残念だった」
中村「現役最初のJ1の試合と最後のJ1の試合が柏戦で、両方とも行っていないという……(苦笑)」
――なるほど。
中村「実は2005年にJ1に昇格したときの試合日程が柏、続いて浦和レッズだったんです」
伊藤「ああ」
中村「しかもアウェイ柏、ホーム浦和で。それで、自分の現役最後のリーグ戦は、ホーム浦和、アウェイ柏!」
伊藤「すごい偶然だね」
中村「2020年のスケジュールが出たときにもう、ゾゾゾってなったよ。それで始まって、それで終わるの? という日程だったので。だからその2試合は絶対に出なきゃいけないって思ってた」
伊藤「でも、最後、出ていないからちょうど良かったのかもしれないね(笑)」
中村「というか、(伊藤が挙げた)一番悔しかった試合、印象に残っている試合に、俺がいないことが問題です(笑)」
伊藤「印象に残っている試合……他は……」
中村「何ですかね。もう、あり過ぎて…」
伊藤「個人的にはあれかもしれない。俺の引退試合になった(2013年の)横浜F・マリノス戦。あの試合は憲剛がめっちゃめちゃパフォーマンスが良かったから。あれにはびっくりしましたよ」
中村「俺ね、最初で最後だと思う。人のために頑張ったの」
伊藤「結構、神がかっていた」
中村「神がかっていましたね。『宏樹さんの等々力ラストゲームを負けて見送るわけには、絶対にダメだ』と思っていた」
伊藤「しかも、相手は優勝のかかっていた大きな試合。大舞台ですよ」
中村「あの試合は、もう本当に心震えましたね。それにこの人、引退すると言ったのが、その週の初めなんですよ。F・マリノス戦の週のオフの日に、電話がかかってきて、あり得ないよ、本当に」
伊藤「(笑)」
中村「それもあったから、俺は2カ月前に言ったんです。だって、さみしい。1週間前に言われて、気持ちの整理がつかないじゃないですか。だから自分は、引退するときは絶対に先に言いたいと思っていたんです。そうしたら、たまたまチームの調子も良くて言いやすかった。やっぱり、唐突なお別れになっちゃうのはダメだなというのは、宏樹さんから学びました(笑)」
伊藤「あはは(笑)」
中村「残される方はさみしいからね。俺、今回は去っていくほうの気持ちが初めてわかったけど、意外と去っていくほうは、さっぱりいけるんですよ」
伊藤「うん」
中村「ただ残された方は、キツいから」
伊藤「俺の場合は、フロンターレだけで、憲剛の場合は背負っているものが違うから。俺はあれで良かったんだよ」
中村「いやいや、そんなことないでしょ」
伊藤「でも、改めて、憲剛のこの終わり方は本当にすごいよね。リーグ優勝を決めたことを考えても、最後に天皇杯決勝の舞台まで整ったことも含めて。普通のスポーツ選手では、なかなかできないことだと思います」
取材・文:林遼平 撮影:佐野美樹

FOOTBALL PEOPLE 川崎フロンターレ 中村憲剛特集号
川崎フロンターレとサッカー人生を歩んできた中村憲剛のバンディエラの矜持に迫ります。
1万文字にもおよぶ本人のロングインタビューはもちろん、ピッチの外から見届けた天皇杯決勝のラストゲームにも密着。小林悠、家長昭博、大島僚太、谷口彰悟、登里亨平らチームメイト、恩師、クラブスタッフにもインタビュー。サッカー漫画『GIANT KILLING』の漫画家・ツジトモによる中村憲剛の描き下ろしイラストやスキマスイッチ・常田真太郎からのメッセージ、よき理解者である伊藤宏樹との対談も掲載。
タイトル:FOOTBALL PEOPLE 川崎フロンターレ 中村憲剛特集号
発行:ぴあ株式会社
発売:2021年1月27日
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