東方神起 ユンホ、「Thank U」MVで表現した“ノワール”の世界 「Eeny Meeny」では異なる表情も
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東方神起のユンホ(ユノ)が2ndミニアルバム『NOIR』をリリース。そのタイトル曲である「Thank U」のMVが話題を呼んでいる。
アルバムタイトルの“Noir(ノワール)”という言葉はフランス語であるが、映画のジャンルとして耳にすることが多いのではないだろうか。ブラックと同じような意味を持ち、「黒」だけでなく「不正」「裏社会」「犯罪者」といった意味でも使われる。映画としては裏社会の話を描いた作品が多く、近年では「韓国ノワール」というワードが誕生したように韓国映画界でも再び注目を集めているジャンルだ。
今回公開されたユンホの「Thank U」のMVも、そんな“ノワール”の世界を表現したものに仕上がっている。ミュージックビデオ、の一言で片付けてしまうのには勿体無いほどのフィルムのような感覚。歌が始まるまでの約2分間、自分が誰かの音楽を聴こうとしてそれをクリックしたこと忘れてしまうだろう。
ユンホが口を開いた瞬間、それまでいた世界から歌のテンポに一気に連れ去られる。ポップな曲に耳が誘われてもなお、映像の世界はブレることなく“ノワール”を表現し続ける。そのなんとも言えない視覚と聴覚のちぐはぐさが、耳が曲に慣れるとだんだん混ざり合い、MVとして認識できるようになるのが不思議な感覚だ。
このクオリティの高いMVには、いくつかの映画がやはりオマージュとして使用されているという。『キル・ビル』『Mishima: A Life In Four Chapters』『新しき世界』『オールド・ボーイ』など有名どころのノワール映画を彷彿とさせるシーンや色彩、空気感が詰め込まれている。
そして、今回このMVに出演しているのは前述の韓国ノワール映画『新しき世界』の俳優としても知られるファン・ジョンミン。ユンホの本気の演技もさることながら、ファン・ジョンミンの迫力ある演技によりMVの完成度はさらに高くなっている。
ユンホの力強いアクション、ノワール映画に欠かせない食事シーンなどの見どころを入れながら7分間でしっかりと楽曲とともにストーリーを展開していく構成は圧巻である。
また、三島由紀夫の生涯と彼の作品を描いた映画作品である『Mishima』がオマージュされているのは日本のファンにとっては特に嬉しいことだったのではないだろうか。この映画は『第38回カンヌ国際映画祭』の芸術貢献賞受賞作でもあり世界的に評価された作品であるが、日本では様々な事情により公開には至らなかった。こうして日本人にとって幻の映画となった作品が、ユンホの作品の世界に登場して間接的にその世界観を少し感じることができるというのもなんだか不思議な感覚である。
とは言え、「Thank U」は暗い曲ではない。リズムは軽快で、ダークとポップを織り交ぜたような感覚の曲だ。それによりただ単に暗くじめじめしたノワール映画、というイメージは持たない。それがこの映像がMVとして存在する意味なのではないだろうか。
ノワールの世界に、ユンホの息を吹き込む。そうすることで独自のイメージを構築し、ユンホだけのノワールを確立しているように感じられる。
ここまでアルバムのタイトル『NOIR』の世界観を表現した曲が、なぜ「Thank U」というタイトルなのか。この曲で“thank you”というフレーズが登場するのはサビの部分。〈Thank you for diss〉〈Thank you for diss like me〉と、感謝というより皮肉っぽい歌詞だ。なかなか結びつかない「ノワール」と「Thank U」だが、歌詞の意味を知ればお礼のフレーズがどこかダークな意味を持つことに気づくことができる。一見リンクしない世界観だが、歌詞を踏まえて見てみるとうまく歌詞の世界観がMVで表現されていることに気付かされるのである。
今まで白い衣装を着れば“王子”のような印象だったユンホ。その白も今回のMVではいつもと違った印象になる。相手に復讐した、その血を見せつけるためかのようなハッキリとした白。それはまるで、世の中のヘイトですら味方につけてしまうスーパースターかのよう。
自己を確立した強いユンホの姿、心意気、そして彼の意気込みや決意を楽曲からMVまで全てを駆使して表現しているのかもしれない。
続く形で1月25日に公開された「Eeny Meeny」のMVでは、「Thank U」とはまた違ったユンホの表情を見ることができる。Red Velvetのスルギが参加したことでも注目を集めている。こちらは映画のワンシーンのような鮮やかな映像と、ユンホのダンスシーン、「Thank U」では見られなかったやわらかい笑顔が魅力的だ。
一つのアルバムに収録されている、全く違った表情のMV。しかしどちらからも同じ、ユンホの本気度が伝わってくる。今作を通じて、ファンたちは彼の新たな魅力を見出したはずだ。
■フルヤトモコ
1999年生まれの大学生。韓国のカルチャーと洋楽、本、映画など。
東京藝術大学 音楽環境創造科在籍。