フォーリンラブ・バービーの「性教育に対する主張」とは? 「NO」を言うために必要なこと
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「イエス、フォーリンラブ!」
彼らのネタを初めて見たのは今から10年ほど前のこと。彼女が芸人として日々いろんな仕事をしながら考えていたあれこれを読むと、感慨深い気持ちになる。女性が芸人として食べていくのはいばらの道だ。男性がウケたネタを女性がやったとしても、同じようにウケるとは限らない。「おい!アンタッチャブルのザキヤマさんおるで!」と養成所で1個上の先輩にいじられ、人生初めてのいじりに衝撃を受ける。それが相方のハジメとの出会いだった。彼らは男女コンビの強みを生かしたネタでブレイクし、バービーは現在地元・北海道栗山町の町おこしやピーチジョンとのコラボで女性用下着の製作にも携わるなどその活動は多岐に渡る。本書『本音の置き場所』はバービーがFRaU webに連載していたエッセイをまとめたもので、タイトルの通り本音がたくさん詰まっている。
バービーは4人兄妹の末っ子として産まれた。「家族計画に失敗」し「お金もないし、産むか迷」った母が担当医に相談したら「この子はきっとあなたを助ける存在になる」と言われ産むことにしたという。子どもにとって衝撃的なことをさらっと言ってのける肝っ玉なお母さん。〈最初からなかったも同然の命〉と割り切って生きてきたバービーにもその血は脈々と受け継がれている。家族のペット的存在であったと自身の幼少期を振り返る彼女はいい意味で干渉されず、期待もされず、のびのびと育った。
関心を持ってもらえないことで、どこか寂しい思いをしていたが、距離を保ちながらも、ありのままを受け入れる愛情というものを、そのときやっと感じたような気がした。
子どもに干渉しすぎず期待しすぎず、愛情はきちんと注ぐ。「言葉を覚えるのが遅かった」と成長してから何でもないことのように語った母。この子なら大丈夫と、どんと構えて子どもに不安を感じさせなかったからこそ、現在のバービーがある。
バービーは本書の中で「性的同意」について1章丸々使って自分の思っていること、考えていることを丁寧に語っている。性行為における「YES」「NO」が曖昧である今の現状に対して、彼女の怒りが静かに、でも確実に伝わってくる。性的同意の話と付随して若者の性にも触れ、早いタイミングでの性教育が大事であると主張する。
「NO」を言うためには、「何がリスクなのか知ること」が必要だ。セックスしたときのリスクや避妊の方法について知った上で、初めて「意思」だと認められるべきだと私は思う。正しい情報や知識のない子どものもとには「意思」は存在しない。
こうなったら、女性も今までと違って、自分の性欲やセックスに対して向き合わなければならない。意思決定を男性に任せているだけでは何も進まない。つまり、私たち女性も「YES」と「NO」をはっきり言う訓練をしなくてはならない。
大切な存在であるからこそ「NO」をきちんと示すこと、「NO」を言うために「何がリスクなのか知ること」がとても重要であるとバービーは説く。大人である私は「何がリスクなのか」きちんと理解できているだろうか。子どもに正しい情報と知識を教えられるだけの「大人」になれているだろうか。バービーの鋭い言葉で自身が揺らぎ始める。
〈欲望と感情、両方とも、ただ抑えるのはもったいない。〉性を楽しむために、性で後悔しないために、今一度正しい知識について学ぶべきときなのだ。「嫌よ嫌よも好きのうち」という言葉が時代に即していないダサい言葉であることを改めて認識しなければならない。
本書が刊行された際のインタビューで彼女はこう語っている。
私はこれだけいろいろと失敗してるし、汚い本音も見せてるし、恥ずかしいところも見せてるんだから、あなたも、恥ずかしがらずに、どうぞ悠々とのびのび生きてほしいなというメッセージを込めて書くようになりました。
(好書好日インタビューより/https://book.asahi.com/article/13999604)
連載を始めてから、彼女のもとにはお悩み相談がたくさん届くようになったという(本書の巻末でもいくつかのお悩みに答えている)。本音を吐き出したことで世の女性たちが共感し、web連載時には280万PVを突破した。バービー自身が泥だと思って吐き出したものが読んでくれた誰かの思いと共鳴した。北海道で産まれた小さな女の子は、今多くの女性たちにとって、大きな「助け」となっている。
■ふじこ
兼業ライター。小説、ノンフィクション、サブカル本を中心に月に十数冊の本を読む。週末はもっぱら読書をするか芸人さんの配信アーカイブを見て過ごす。Twitter:@245pro
■書籍情報
『本音の置き場所』
著者:バービー
出版社:講談社
価格:本体1,300円+税
出版社サイト