アイナ・ジ・エンド、緑黄色社会……個性的な表現をダイレクトに実感 新譜5作をピックアップ
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全曲、自分自身で作詞・作曲を手がけたアイナ・ジ・エンドの1stソロアルバム『THE END』、アルバム『SINGALONG』発売以降、一気に知名度を上げた緑黄色社会のニューシングル『結証』から、SKE48の松井珠理奈・卒業記念シングル『恋落ちフラグ』まで。女性シンガーたちの個性的な表現をダイレクトに実感できる最新作を紹介します!
〈長所のない私です〉というブルージーな歌からから始まる憂いと美しさに溢れた3拍子のナンバー「金木犀」、ダークな音像とフォーキーなメロディ、尖りまくったギターサウンドと叫ぶような歌声が炸裂する「虹」、しなやかな頭打ちのビートとともに〈生活には稀の革命と 甘い恋が必要〉という言葉を響かせる「NaNa」。収録曲のすべてをアイナ・ジ・エンド本人が作詞・作曲した1stソロアルバム『THE END』は、彼女自身の息づかいと肉体を生々しく刻み込みつつ、鋭利なポップネスを備えたロックミュージックに昇華した楽曲が並ぶ。オルタナ感覚に溢れたバンドサウンド、ハスキーな手触りと刺激的な官能性を併せ持った歌声からは、ロックアーティストとしての高い可能性を十分に感じさせる。彼女の生々しい表現を損なわず、幅広い層にアピールできる作品に導く亀田誠治のプロデュースワークも秀逸だ。
昨年9月リリースのアルバム『SINGALONG』のヒット、リード曲「Mela!」の拡散によって本格的なブレイクに突き進む緑黄色社会。3rdシングル『結証』は、このバンドの多様性と優れたポップネスを証明する作品だ。長屋晴子(Vo/Gt)が作詞、小林壱誓(Gt/Cho)が作曲を手がけた表題曲「結証」(日本テレビ系アニメ『半妖の夜叉姫』1月クールエンディングテーマ)は、“目に見えない大切なものを信じ、守っていきたい”という決意をテーマにしたミディアムチューン。凛とした強さ、包み込むような優しさを共存させたボーカル、メンバーの演奏センスを活かしたサウンドから伝わる生々しい感情に胸を打たれる。カップリングには、長屋の作詞、小林の作曲によるフォークロア的な意匠をまとったアッパーチューン「LADYBUG」、長屋が作詞・作曲を手がけた〈あなたの全てに惹かれている〉に象徴される超ピュアなラブソング「Copy」を収録。
2020年9月からジャンルを超えたプロデューサー、トラックメイカーを迎え、自身のヒット曲・代表曲をリメイクし、デジタルシングルとして発表してきた大塚愛。このプロジェクトを通して生まれた楽曲をまとめたのが本作『犬塚 愛 One on One Collaboration』だ。超キャッチーな歌をそのまま残しながら、オートチューンを使った歌声、煌びやかなトラックが心地よい高揚感を誘う「黒毛和牛上塩タン焼 680 円(maeshima soshi Remix)」、オルタナファンク、ネオソウル系、エレクトロスウィングなどのテイストとともに再構築した「さくらんぼ(Kan Sano Remix)」、レイドバックしたビートを軸にした緻密なリズムアレンジによって、切なく揺れる歌を際立たせた「桃ノ花ビラ(mabanua Remix」、抑制の効いたEDM系トラックと流麗なストリングを組み合わせた「Chime(AmPm Remix)」など10曲を収録。
4年半ぶりのアルバム『Barometz』(2020年)によって新たなフェーズに突入した安藤裕子からニューシングル『衝撃』が到着。アニメ『「進撃の巨人」 The Final Season』(NHK総合)のエンディングテーマとして書き下ろされたタイトル曲は、絶望、悲しさ、苦しさ、怒り、そして、諦念の末に生まれる安らかな感情までを約3分のなかで描き切った楽曲。讃美歌のような美しさ、ハードコア的な激しさ、クラシック的な壮大さ、そして、現代的なエレクトロの先鋭性を兼ね備えたサウンドメイク、神話的世界観と生々しいエモーションを結びつけるボーカルは、まさに衝撃だ。その他、繊細なピアノ、幻想的なシンセ、イノセントの喪失を描いた歌詞が溶け合う「nontitle」、そして、エキゾチックなトラックとともに浮遊感に溢れた童謡風のメロディが漂う「花一匁」を収録。
2008年の活動スタートから12年。SKE48 1期生としてグループを牽引してきた松井珠理奈の卒業記念シングルが届けられた。リード曲「恋落ちフラグ」は、ディスコティックなサウンドのなかで、“異性として意識したことは一度もなかった”女の子をいきなり好きになってしまった“僕”の感情の揺れを描いたアッパーチューン。卒業をテーマに据えるのではなく、SKE48らしいアイドルポップで有終の美を飾るところが(アイドルとして存在することにこだわってきた)松井らしいと思う。この曲はグループ史上初の全員参加曲。総勢68名によるフォーメーションダンスにも注目してほしい。TYPEA盤には、松井のソロ曲「Memories ~いつの日か会えるまで~」を収録。劇場での思い出、グループでの活動を率直に振り返りながら、新しい旅に出る決意を歌ったバラードはまさに感涙だ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。