『ハリー・ポッター』HBO Maxでドラマ化? シリーズが2020年代に蘇るために必要なこと
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2021年1月25日、アメリカの動画ストリーミングサービスHBO Maxが、『ハリー・ポッター』のドラマ化に向けて動き出しているとVarietyが報じた(参照:https://variety.com/2021/tv/news/harry-potter-series-hbo-max-1234865601/)。HBOといえば、世界中で大旋風を巻き起こした『セックス・アンド・ザ・シティ』をはじめ、近年では『ゲーム・オブ・スローンズ』や『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』、『ウエストワールド』など、ハイクオリティなドラマを多数制作・放送していることで知られるケーブルテレビ局である。「HBO制作のドラマであれば間違いない」といわれるほどの実績を残してきた。そのHBOが自社のストリーミングサービスのオリジナル作品として、世界中で人気を博す『ハリー・ポッター』をドラマ化するとなれば、注目しないわけにはいかない。
『ハリー・ポッター』の映画シリーズを制作したワーナー・ブラザースは昨年、2021年から新作映画を劇場公開と同時にHBO Maxで配信すると発表。そして2020年10月22日には『魔女がいっぱい』が、12月25日には『ワンダーウーマン 1984』が劇場公開と同時に配信開始となった。今後、この2社の提携はさらに緊密になるだろう。しかしコンテンツ制作に関してはなにも報じられていなかった。そこに今回、『ハリー・ポッター』ドラマ化の噂が出たのだ。今のところワーナーもHBO Maxもこの件について否定しているが、Varietyは複数のソースから情報提供があったとしている。世界中に多くのファンを抱えるシリーズだけに、今後の動向が気になるところだ。しかし“魔法ワールド”の新たな物語が2020年代に広く受け入れられるものになるためには、いつくか課題がある。
これまでの“魔法ワールド”作品
イギリスの作家、J.K.ローリングが生み出した魔法使いの少年ハリー・ポッターの物語は、世界でシリーズ合計発行部数5億部を超える大ベストセラーとなった。本シリーズは想像力あふれるファンタジーの世界に、英語圏を中心とした伝説やラテン語などを含んだ言葉遊びがふんだんに盛り込まれ、子どものみならず大人も虜にしたのがヒットの要因といっていいだろう。2001年からは映画シリーズがスタートし、さらに世界中でファンを獲得。2011年に『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2』が公開され、シリーズは完結した。
2016年には、スピンオフ映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの冒険』が公開され、新たな“魔法ワールド”が描かれることになる。本作は、ハリー・ポッターの時代から約80年前の1920年代が舞台。ハリーたちが使っていた教科書「幻の動物とその生息地」の著者ニュート・スキャマンダーの物語だ。ローリングによるオリジナル脚本ということでも話題を集めた。本作は5部作で完結となることが発表され、2018年には続編『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』が公開された。2022年には3作目が公開される予定だが、こちらはタイトル未定。主要キャラクター、グリンデルバルドを演じたジョニー・デップが降板し、マッツ・ミケルセンが役を引き継ぐことが発表されるなど、先行きは不透明だ。
また2016年から上演が開始された舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の映像化を期待する声もある。これはハリーの息子アルバス・セブルス・ポッターを中心とした物語で、大人になったハリーやロン、ハーマイオニーも登場する。ウェストエンドでのオリジナルキャストとして、大人になったハーマイオニー役にアフリカ系のノーマ・ドゥメズウェニが起用されたことでも話題になった。
“魔法ワールド”を現在に蘇らせる鍵は?
『ハリー・ポッター』のドラマ化についてはまだ噂レベルと考えていいだろう。しかしもし“魔法ワールド”を2020年代に復活させるとしたら、これまでとは違った視点を加える必要がある。それは人種およびジェンダー/セクシュアリティの多様性だ。原作の1作目が発売されたのが1997年、映画の1作目公開が2001年と、シリーズが爆発的人気を獲得したときのが約20年前。映画版の完結からは10年が経っている。そのあいだに、エンターテインメントに求められるものも変化してきた。
これまでの“魔法ワールド”映画シリーズを振り返ってみると、非白人のキャラクターは極端に少ない。例として、ハリーとともにヴォルデモート卿と戦ったダンブルドア軍団の映画版メンバーを見てみよう。初期メンバー20人のうち、白人でないのはアフリカ系のディーン・トーマスとアジア系のパチル姉妹、そしてハリーの初恋の相手であるチョウ・チャンの4人だけだ。しかも彼らは、物語でそれほど大きな役割を担っていない。ホグワーツの教授陣にいたっては、全員が白人だ。
スピンオフの『ファンタスティック・ビースト』シリーズも、同じく人種的多様性に乏しい。アメリカ魔法議会の役人にアフリカ系の人物が何人かいるが、やはり脇役だ。とはいえ、2作目からは重要なキャラクターであるナギニ役に韓国人女優のキム・スヒョンが、リタ・レストレンジ役にゾーイ・クラヴィッツがキャスティングされたことから、多少とはいえ変化は感じる。先述した舞台『呪いの子』でハーマイオニー役を務めたドゥメズウェニに対しては、ファンから人種差別的な批判が噴出した。しかしこれについて原作者のJ・K・ローリングは、「原作にはハーマイオニーが白人とは書いていない」「彼女(ドゥメズウェニ)は素晴らしい女優だからキャスティングされただけ」と擁護している。この点は、原作者とともに新たな物語のなかで解消していけそうだ。
LGBTQのキャラクターについては、すでに『ファンタビ』シリーズで、のちのホグワーツ校長ダンブルドアと、闇の魔法使いグリンデルバルドの同性愛関係が示唆されている。しかし一方で、ローリングは近年、トランスジェンダーに対する偏見を助長するような発言を繰り返し、たびたび炎上しているのだ。
2020年1月には、コロナ禍の発展途上国で月経に伴う衛生面の問題を指摘した記事を引用し、「“月経がある人(People who menstruate)”って以前は別の言い方があったはず」と記事で“女性(women)”という単語が使用されていないことを揶揄するツイートをした。つまり女性として生まれ男性として生きるトランスジェンダー男性でも、月経がある人は“女性”だというのが彼女の主張だ。逆に言えば、男性として生まれ女性として生きるトランスジェンダー女性には月経がないことから、“女性”ではないということ。またこれは、性自認が男性・女性のどちらでもないノンバイナリーの人たちに対しても、「月経があれば女性」と生物学的な枠に無理やり押し込もうとする乱暴な主張だ。ありがちではあるが、この考え方は当事者の尊厳を傷つけるものであり、今日のLGBTQに対する理解として正しくない。
多くの抗議の声を受けてもなお、ローリングは「真実を語ることはヘイトではない」と反論している。これには『ハリー・ポッター』や『ファンタビ』シリーズに出演する俳優陣も抗議した。LGBTQの権利も、現在のエンターテインメント作品では充分に配慮すべきことだ。原作者の主張がどうであっても、視聴者に再び“魔法ワールド”の魅力を届けるためには、LGBTQコミュニティにも受け入れられるものにする必要がある。
多くの子どもたちが楽しめる作品にするために
エンターテインメント業界では近年、多様な人種やジェンダー/セクシュアリティのキャラクターを自然に登場させることが常識となってきている。2020年にはアカデミー賞の作品選考対象となる条件として、出演者およびスタッフの多様性を求める規定が設けられた。現実に存在する人々をフィクションのなかでもいないことにしない、“普通でない”キャラクターとして描かない、ということは現在業界全体で取り組んでいる課題でもある。
また『ハリー・ポッター』の原作は児童文学だ。子ども向けの作品では特に、読者が自分を投影できるようなキャラクターが求められる。マイノリティの子どもたちも心から楽しめる作品にするためには、彼らに対する配慮も必要だ。もちろん、深く考えなくても自然にそういった作品になればいいのだが、これまでのように白人以外のキャラクターがあまりにも少なかったり、LGBTQのキャラクターの描かれ方が不当なものだったりすれば、2020年代の作品としては視聴者に受け入れられないだろう。もし『ハリー・ポッター』のドラマ化が実現するとすれば、どんな物語になるにしろ、さまざまなバックグラウンドを持つキャラクターたちが、いきいきと描かれるものになってほしい。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族で、第二の故郷は島根。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、思春期を演劇に捧げる。高校時代に留学していたためイギリスエンタメびいき。
■リリース情報
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』
Blu-ray&DVD発売中
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、 ヘレナ・ボナム=カーター、 ロビー・コルトレーン
監督:デヴィッド・イェーツ
製作:デヴィッド・ヘイマン、デヴィッド・バロン、J・K・ローリング
原作:J・K・ローリング
脚本:スティーブ・クローブス
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