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興収1位が入れ替わるのは4カ月ぶり! 『花束みたいな恋をした』、4つの勝因

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リアルサウンド

 先週末の動員ランキングは、1月29日(金)に公開された『花束みたいな恋をした』が土日2日間で動員13万3000人、興収1億9100万円をあげて初登場1位となった。初日から3日間の累計は、動員18万4000人、興収2億6000万円。2020年10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が動員1位の座を明け渡すのは、3週前の『銀魂 THE FINAL』に続いてこれが2回目。しかし、興収1位は依然として『鬼滅の刃』が守っていた。先週末の『花束みたいな恋をした』はその興収でも『鬼滅の刃』を上回ることに。つまり、興収・動員の両方で1位作品が入れ替わったのは昨年の10月以来、実に16週ぶりということになる。また、それぞれ1999年から配給事業をスタートさせた東京テアトルとリトルモアにとっても、今回の『花束みたいな恋をした』は初めての興収1位作品となった。

 大手配給作品ではない『花束みたいな恋をした』の初登場1位スタートは大きな番狂わせとなったわけだが、その要因は大きく4つ挙げられる。まず最初の要因は、さすがの『鬼滅の刃』にもここにきてようやく息切れがみられること。『鬼滅の刃』の公開16週目の週末成績は動員10万5000人、興収1億6900万円。累計動員約2688万人という数字には改めて驚くしかないが、さすがに日本の人口の20%を超えてくると、リピーターはともかく、初見の観客はもうそれほど残ってないだろう。

 2つめは、本来この時期に公開2週目を迎えているはずだった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開が、主要都市部における緊急事態宣言を受けて再延期されたこと。同作は、少なくとも初速においては『鬼滅の刃』クラスの大爆発が予想されていて、公開2週目となる先週末はもともと競合しそうな有力作品はスケジュールの段階で調整が図られていた。それによって、『花束みたいな恋をした』は作品の規模からすると異例の多さの全国約350スクリーンで公開されることとなった。さらに、2月5日公開予定だった『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』、2月19日公開予定だった『夏への扉』も既に公開延期を発表していて、今後もしばらく新作の層が薄い状態は続きそうだ。

 3つめは、公開初週だけでなく、『花束みたいな恋をした』の作品特性上、長期的にも興行に影響を及ぼしそうなのが、ハリウッド映画をはじめとする外国映画の公開作品も引き続き層が薄くなっていることだ。坂元裕二脚本作品を好む人が、ドメスティック・カルチャーにどっぷりというわけではなく、どちらかというと海外のカルチャーにも目を向けている層であるということは、ソーシャル・メディア上の口コミにおいても同作をリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア』シリーズやノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』と比べている人が多いことも示している。この約半年間のヒット作の傾向から明らかなように、コロナショック以降、映画館に足を運ぶのは邦画のファン層が中心となっていたが、『花束みたいな恋をした』のヒットは、久々に邦画と外国映画のファンが潜在的にクロスオーバーをした結果と言えるのではないだろうか。

 最後にして、言うまでもなく一番大きな要因は、非メジャーの配給作品とはいえ、『花束みたいな恋をした』が菅田将暉と有村架純の主演という「旬のスター映画」としての要件も満たしていることだ。特に菅田将暉に関しては、コロナウイルスの影響で約4ヶ月の公開延期を経て昨年8月に公開された主演作『糸』も、様々な悪条件を跳ね除けて2020年度年間9位(日本映画では6位)となる累計興収22.7億円のロングヒットを記録したばかり。坂元裕二ファンの一人としては、もちろん坂元裕二脚本が最大のヒットの要因と言いたいところだし、この贅沢なキャスティングも坂元裕二のオリジナル脚本があってこそなわけだが、現象面だけをとらえたちょっと退屈な興行分析に徹するなら「『花束みたいな恋をした』は、菅田将暉が今最も観客を呼べる役者であることを改めて証明した一本となった」とするべきだろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『花束みたいな恋をした』
全国公開中
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、Awesome City Club、PORIN、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
製作プロダクション:フィルムメイカーズ、リトルモア
配給:東京テアトル、リトルモア
製作:『花束みたいな恋をした』製作委員会
(c)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
公式サイト:hana-koi.jp