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小泉今日子、前田敦子らの食事姿が愛おしい 『食べる女』は自分と向き合うことを教えてくれる

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 筒井ともみの短編小説集『食べる女』『続・食べる女』。原作者の筒井は、映画『食べる女』の企画・脚本を担当し、そのシナリオを書いていく中で「主人公は小泉今日子しかいない」と原作にはないオリジナルキャラクター・敦子を生み出し、そんな敦子を中心に、年齢も職業も性格も違う8人の女たちの食と恋、性を描き出した。

 「食べる」と「セックス」をテーマに描かれているが、極端に甘美な映像が映し出されるわけではない。「例えばセックスも味覚だと思う。」という印象的なコピーがあるが、劇中で描かれているのは女たちの普遍的な日常だ。毎日を生きる女たちが、食べたいものを食べ、自分にとって気持ちが良いことに素直になろうとする姿がいきいきと映し出される。相手の存在が必要になる「セックス」と自分1人でも味わえる「食べる」こと。その2つに向き合い、昨日より新しい自分と出会おうとする女たちの姿勢には好感がもてる。

 「セックス」をテーマにした今作では、官能的なシーンも登場する。例えば沢尻エリカ演じる敦子の担当編集者・圭子のベッドシーンは、観客が思わず顔を赤らめるのではないかと思うほど艶っぽく描かれていた。恋愛に対して逃げ腰だった圭子は、ひょんなことから知り合ったタナベ(ユースケ・サンタマリア)と距離を縮めていき、体を重ねることになる。しかし彼とのベッドシーンが映し出そうとしていたのは直接的な「セックス」描写ではなく、恋や性に向き合う1人の女の姿だと気づかされる。恋や生き方に変化が生じた女たちの表情は明るく、魅力的な生き様を感じさせる。自分に自信を持ち、快活な空気を纏った女たちに魅了されない人などいるのだろうか。

 もうひとつのテーマ「食べる」を表す演出にも注目だ。劇中、50品以上もの料理が登場し、その美味しそうな食事シーンの連続に、観ているだけでお腹が空いてくる。しかしテーマは「食」ではなく、あくまでも「食べる」だ。テーマを存分に示してくれる、女優陣の食べっぷりに思わず見惚れてしまう。会話を楽しみながら美味しい料理やお酒に舌鼓を打つ女たちの姿は健やかで、思わず会話に参加したくなるほど、賑やかな魅力を感じる。涙を流しながら食事をする女たちの姿はとても愛おしい。

「セックスは相手がいないとできないけど、ゴハンはいつでもできる」

 観客はこの台詞と食事シーンによって、相手がいなくてもできる「食べる」姿を通じて、自分の感情と向き合っていく時間の大切さを知ることになる。

 また今作に登場する8人の女たちの中で、前田敦子が魅力的な役回りを演じていた。前田が演じていたのは“ぬるい”恋愛に物足りなさを感じているドラマ制作会社AP・白子多実子。今まで不倫恋愛ばかりしていた多実子が交際しているのは、自分のために料理を振る舞い、セックスの相性も悪くない男性だ。しかしどことなく“ぬるい”彼との関係に悩み、ジャンクな食べ物や情熱的な恋愛が足りないと敦子たちの前で不満を漏らす。別れを切り出すわけでもなく、だからといって結婚を望むわけでもない彼女の姿は、今時の男女関係の在り方に近く、共感を得られる人も多かったのではないだろうか。肩の力の抜けた自然体の演技で、安定と情熱的な恋愛に揺れる女心を演じた前田。また前田は、そんな多実子の抱える不満や愚痴を、ごくごく普通の女性として発する。多実子が不満や愚痴を漏らすシーンは、離婚危機に陥っているマチ(シャーロット・ケイト・フォックス)や別れた夫に未練の残るツヤコ(壇蜜)などテーマの重たい物語の合間に描かれ、それがこの物語の絶妙な息抜きとなっている。前田が演じた多実子のように、ドラマチックな役回りばかりではないのも今作の魅力だ。

 今作のテーマは「食べる」と「セックス」だが、描かれているのは登場人物それぞれの生き方だ。9月22日に行われた公開記念舞台あいさつで、敦子を演じた小泉は「この映画で少しでも世の中の女性、男性が明るくなることを祈ります」「女性のための映画だけど、間接的に男性のための映画でもあります」と話した。小泉が発した言葉のとおり、この映画は決して女性のためだけのものではない。表題に書かれた“女”という文字に、つい女性向け映画だと思い込みがちだが、自分の生き方を考えることができる今作は、男女関係なく鑑賞してほしい。(片山香帆)