『劇場版 殺意の道程』は“映画的”な1本! バカリズムが描く復讐の中の日常
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リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ガストのねばとろサラダうどんを食べたい安田が『劇場版 殺意の道程』をプッシュします。
『劇場版 殺意の道程』
『素敵な選TAXI』(カンテレ・フジテレビ系)、『住住』(日本テレビ系)、『架空OL日記』(日本テレビ系)などTVドラマの脚本を多く手がけ、お笑いだけでない分野での評価も高いバカリズム。本作は、そんなバカリズムが『架空OL日記』の住田崇監督と再タッグを組み、井浦新とともにW主演を務めるサスペンスコメディです。
WOWOWにて昨年全7話のドラマとして放送された内容を2時間に凝縮し、劇場版として再編した本作。近年、黒沢清監督の『スパイの妻』や深田晃司監督の『本気のしるし』などTVドラマを映画として再編する流れが増えていますが、再編によって作品の雰囲気がガラリと変わるのが非常に面白いところでもあります。
お話は、井浦さん演じる一馬の父の葬式のシーンから始まります。父を自殺に追いやった取引先の社長・室岡義之(鶴見辰吾)への敵討ちを決意する。まさに『半沢直樹』(TBS系)のような復讐劇の幕開けを思わせる導入で、重厚なリベンジムービーに期待が高まります。
復讐にはバカリズム演じる従兄弟の満も加わり、復讐のための完全犯罪計画を立て始めると、話のトーンは一転、コメディへと舵を切ります。打ち合わせ場所を決めようとするもまとまらず、プロジェクト名は「いちごフェア」となんとも復讐に似つかわしくない名前に。さらにひょんなことから初対面のキャバクラ嬢・このは(堀田真由)も計画立案に加わり……とまさにグダグダの展開。バカリズム脚本の真骨頂、登場人物たちはいたって真剣なのに、そのさまがどこかクスリと笑えてしまう会話劇が展開されていきます。
当サイトのインタビュー(参考:バカリズム、『劇場版 殺意の道程』に込めた笑いの“フリ” 井浦新のシリアスさを巧みに起用)でバカリズム自身が語っているように、「無駄なところを、やたらとダラダラやる(笑)」ことに徹底しており、その模様が徐々に愛おしいものとして感じられてきます。虫も殺せなさそうな2人が、ピュアに殺人を計画しているのも面白く、凶器の選定や殺人の方法、アリバイ工作など、大事な部分はほとんどミステリー好きのこのはが、アイデア出しを行っているのも本作の雰囲気の良さにつながっているでしょう。
また、本作はそういったオフビートなコメディに通底せず、スッキリとしたハートウォーミングな結末へと導かれます。途中には、物語がひっくり変えるどんでん返しがあり、本来TVドラマとして制作されたはずなのに、非常に映画的な魅力に溢れた作品として成立していることも興味深いです。
緊急事態宣言が延長されたなか、映画館に向かうことへのハードルが高くなった昨今ですが、配信ではなく映画館の暗いスクリーンで観てほしい1本です。
■公開情報
『劇場版 殺意の道程』
劇場公開&配信中
脚本:バカリズム
監督:住田崇
音楽:大間々昂
出演:バカリズム、井浦新、堀田真由、日野陽仁、飛鳥凛、河相我聞、佐久間由衣、鶴見辰吾
プロデューサー:高江洲義貴、大内登
配給:WOWOW
製作:「劇場版 殺意の道程」製作委員会
(c)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会
公式サイト:satsui-movie.jp