リアリティ番組として見せる本当のアジア人の姿と文化 Netflix『きらめく帝国』の意味深さ
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セレブリティを追った“くだらない”リアリティショーが人気を博すことは、今にはじまったことではない。その筋の代表格であり、2007年から14年間も放送され続け、2021年に終了予定の『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』という、カーダシアン一家の波乱万丈な私生活に密着したものもあった。今観返してみると、みんな随分顔が違う。その前には、2003年から2年間放送されたパリス・ヒルトンとニコール・リッチーの『シンプル・ライフ』もあった。
この手のゴシップ寄りの番組は、ある意味その時代を象徴している。2000年代のアメリカは経済において暗い時代だった。バブルが崩壊し、景気後退した矢先に9.11同時多発テロが発生。失業率が上昇し、その後住宅バブルも崩壊すると、2008年にリーマンショックが起きた。とにかく、人々は職を失い、不況だった。そういった時代背景の中で、逆に全くお金に苦労せず奔放に暮らす人々を映した番組が登場し、セレブは憧れの的になった。ファッション誌でもモデルではなく、セレブリティにフォーカスしたものが増えたのはその表れである。
では、2020年に作るセレブリティ・リアリティショーとは、どんなものか。その答えとなるのが、Netflixのリアリティ番組『きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜』(原題:Bling Empire)だ。
“リアル”な『クレイジー・リッチ!』の人々の生活
『クレイジー・リッチ!』という作品が2018年に世界的に大ヒットしたことは、記憶に新しいだろう。主人公の大学教授が不動産王の御曹司の彼氏と結婚するにあたり、彼の故郷シンガポールに飛び、想像を絶する華麗な世界に足を踏み入れるというラブコメだ。煌びやかなドレス、一流シェフの豪華なディナー、全てがありえないくらいリッチな人々が登場してスクリーンを魅せる。で、『きらめく帝国』を一言で説明するなら、そんな『クレイジー・リッチ!』の中で描かれていたようなガチ・セレブなアジア人を追ったリアリティショーということだ。
キャストは皆、アメリカのLAでクラス超富裕層……だが、一人だけ違う。視聴者と同じ立場、つまり一般人として彼らのコミュニティに加わることになったケヴィン・クライダーだ。彼の視点を軸に、私たちは「こんな人って本当にいるんだ」と思うほど裕福なキャストに出会う。
もちろん、番組では彼らの豪華すぎる日常、そしてコミュニティ内での衝突などのゴシップを取り上げている。豪勢さをまるで競い合うようなパーティの様子や、コミュニティの女王蜂の王座をかけた女の戦いはやはり観ていて飽きない。
しかし、それは表面上のものでしかなくて本シリーズの存在意義はもっと意味深い。
年々高まる、作品におけるレプレゼンテーションの重要性
先に紹介した『クレイジー・リッチ!』は、キャストのほとんどがアジア人またはアジア系アメリカ人で占められ、アジア系の製作陣に作られた作品としては1993年に公開されたウェイン・ワン監督作『ジョイ・ラック・クラブ』以来、初となる。映画業界の中で、アジア人の立場はとても低かった。黒人の次に登場人物として挙げられるのが少ないし、偏見まみれの描き方までされる始末。そして何より、アジア人が“アジア人”として一緒くたにされてきたことが問題だった。
『ティファニーで朝食を』のユニオシがいい例だ。日本人役のはずなのに、演じたのは生粋のアメリカ人俳優であるミッキー・ルーニー。1915年に公開された『蝶々夫人』の中で長崎の没落藩士令嬢の蝶々夫人を白人のメアリー・ピックフォードが演じた時から、白人が顔塗りなどをしてアジア人になりきって出演することは少なくなかった。これは「黒塗り」と一緒のことだ。そして34年から実施、68年まで存続したヘイズ・コードにより、それらは禁止されたが、それ以降には違う問題が生まれた。
何度、海外作品の中に日本人を見つけて「おっ!」と思って、役者が話した瞬間、それが“本当に”日本人じゃなかったことに落胆したことか。韓国人のキャラクターを中国人俳優が演じる。日本人のキャラクターを韓国人が演じる、そういった具合にアジア系のキャラにはとりあえずアジア人をキャストしとけばいいだろう、と言っているようなものだ。それは、映画の世界に限らず一般社会のコモンセンスにおけるアジア人の認識の甘さからきている。
この問題は非常に根深い。だからこそ、『きらめく帝国』の意味深さはここで光る。登場する彼らは、韓国、台北、シンガポール、北京、ベトナム、台湾、ロシアと日本のミックスと、様々な出身地のアジア人が集結している。そして番組内で、それぞれの人種の文化や慣習、考えなどが自然な形で紹介されているのだ。信仰やスピリチュアルなものに対する考え、嫁いだ女性が男の子を産まなければいけないという考え、家族に対する考えなど、それはとても細分化されている。
また、主人公的立場のケヴィン自身が生まれて間もない時にアメリカの里親に出された、韓国人養子であることも一つ深みを与えている。韓国の養子縁組はとても多く、半世紀に渡って20万人以上もの子供が国際的に養子に出されたと言われている。しかし、ケヴィンが番組内で打ち明けるよう、そういった彼らはアイデンティティー・クライシスに陥りやすい問題がある。自分はアメリカ人なのか、韓国人なのか。筆者自身、日本とベルギーのミックスなわけだが、これは本当に本人にとって一生かかる重要な問題なのである。
しかし、同じような悩みを抱えた、同じ人種の存在がレプレゼンテーション(代表)としてテレビなどにメディア露出することで、そういった葛藤を抱えている人が「私だけじゃない」と思えるのだ。自国だけでなく、世界という舞台でこれまで特にアジア人は、こういったレプレゼンテーションが少なかった。だから『クレイジー・リッチ!』は大ヒットしたし、それを受けて『きらめく帝国』の製作総指揮を務めたジェフ・ジェンキンスは「映画だけでなくテレビ番組にも必要」という考えで本シリーズに乗りきった。彼は何を隠そう、冒頭で触れた『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』や『シンプルライフ』を手がけた張本人でもある。
音楽シーンでも、ドラマシーンでも、アジア初のコンテンツが世界的に今ヒットしている。そんな中で、リアリティショーという一件ゴシップ寄りな見せ方でありながら、これまで描かれてこなかった細分化された本当のアジア人の姿と、その文化を映した『きらめく帝国』の意味深さは、今世界中のアジア人の心に届いているように思える。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。昼過ぎからシャンパン飲みたい。Instagram/Twitter
■配信情報
Netflixオリジナル『きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜』
Netflixにて独占配信中