ドラマ『天国と地獄 ~サイコな2人~』盛り上げる「運命」の様々なアレンジ フォーカスされる彩子と日高の“運命の物語”
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正義感溢れる刑事と、サイコパスなシリアルキラーの魂がある日入れ替わってしまったら。そんな日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系)が現在放送中だ。本作は警視庁捜査一課の刑事・望月彩子(綾瀬はるか)とベンチャー企業の社長でありながら殺人鬼の裏の顔を持つ日高陽斗(高橋一生)が織りなす“スイッチエンターテインメント”である。目を背けたくなるような無惨な殺人が繰り返されるシリアスさを持ちつつも、彩子と日高が入れ替わったことで起こるお互いの不慣れな生活はどこかコミカルに描かれ、その対比もまた本作の魅力のひとつとなる。そんな『天国と地獄 ~サイコな2人~』では劇伴にベートーヴェンの交響曲第5番「運命」が使用される。
本作で使用される「運命」は実に色とりどりの風合いを持つ。「運命」の印象的な「ジャジャジャジャーン」という誰もが聞いたことのあるフレーズは、彩子に衝撃的なことが起きたときに効果音的に短く挿入され、心の揺らぎがより顕著に表される。例えば敵対する刑事・河原(北村一輝)の残したタバコの吸殻を見つけ腹を立てた時や、男性に入れ替わっているにもかかわらず女子トイレに入ってしまい女子社員とバッタリ出くわしてしまった時などに使われた。
さらにストーリーが朗らかに進行するシーンではポップにアレンジされた「運命」が使われ、彩子と日高の“運命”が交差している様子をコミカルな印象で描く。彩子と日高がコ・アースで再会したシーンや、彩子が部下の五木樹里(中村ゆり)の呼び方がわからず恐る恐る五木に「さん」をつけて呼ぶシーンなどがこれに当たる。このようにアレンジされた「運命」が随所に散りばめられ、『天国と地獄 ~サイコな2人~』の軸となる彩子と日高の“運命”が皮肉にも混ざり合っていく様を音楽の力も借りつつ生き生きと描いている。
扱う内容がシリアルキラーにまつわる事件であり、ともすれば暗く陰鬱な雰囲気ばかりを引きずりかねない本作において、ベートーヴェンの「運命」は、誰もが知っているフレーズのキャッチーさと大仰な「ジャジャジャジャーン」というメロディがそのシリアスさを良い意味で中和する。作品が重く痛ましい殺人事件を扱っているにも関わらず、視聴者が彩子と日高の“運命の物語”にフォーカスできるのはアレンジされた「運命」がそれぞれのシーンでそれぞれの役割を全うしているからだろう。
そして極め付けは、エレキギターの音で勢いよく奏でられる「運命」。これはクライマックスで使用され、後の展開への期待や不安、焦燥感を煽り作品を盛り上げる。前述のポップな「運命」はよく聴かないと気付かないような凝ったアレンジであったが、クライマックスのそれはメロディの変化はあまり加えられず、ロック調にアレンジしていること以外はほぼ原曲に忠実だ。この「運命」では、楽曲の持つ勢いや、雷に打たれたような衝撃を感じさせるメロディ、心が落ち着かない焦燥感を、エレキギターを使ってより顕著に感じられる工夫がなされ、作品のラストに疾走感を与える。そして入れ替わった彩子と日高は元に戻ることができるのか、日高が犯行に使ったと思われる石を持ち続ける理由は、など気になる展開を全て集約したかのような力強さを持つのが特徴だ。第3話のラストでは日高(姿は彩子)の不敵な笑みとともにこの「運命」が流れ、短いながらも圧倒的な迫力で作品を牽引している。
刑事がシリアルキラーを追うだけでも十分ドラマチックな展開だが、『天国と地獄 ~サイコな2人~』ではさらにそこに“入れ替わり”が加わりより事態は複雑に。しかしまさに容疑者と思われる日高を捕まえるまであと一歩という天国から、自分も殺人犯になってしまう地獄へと転がり落ちた彩子には“運命のイタズラ”という意味でも「運命」の楽曲がよく似合っている。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS