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スケートカルチャーで知るアメリカの若者のリアリティ いま観たい最新スケボー映画3選

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スケートボード映画×アメリカ

 ステイシー・ペラルタ(伝説的チーム「Z-BOYS」のオリジナルメンバー)が脚本を務めた映画『ロード・オブ・ドッグタウン』(2005年/監督:キャサリン・ハードウィック)、あるいはペラルタ監督によるドキュメンタリー『DOGTOWN & Z-BOYS』(2001年)が示すように、スケートボード(以下、スケボー)は1970年代の米西海岸においてサーフカルチャーから派生する形で流行し、現在に至るまで幅広く世界に普及していったストリート文化だ。もともと金も地位もない若者たちが自分たちの居場所と遊び場所を求め、路上や公園でのコミュニティを形成していったスケボーは、音楽やファッションなどの属性と絡み合いながら、今でも「持たざる者」のライフスタイルと様々な形で結びついている。本稿では各エリアで立ち上がった最新スケボー×アメリカ映画の傑作3本をご紹介しよう。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019年/監督:ジョー・タルボット)

 まずは米西海岸、カリフォルニア州サンフランシスコ。監督は同地出身のジョー・タルボット(1991年生まれ)。幼なじみの親友ジミー・フェイルズを主演にした18分の短編『American Paradise(原題)』(2017年)をベースに、再びフェイルズとのタッグで撮りあげた長編デビュー作だ。配給はA24で、製作はA24とプランBエンターテインメントの共同。第35回サンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞をW受賞。

 本作を観るうえで押さえておきたいのは「ジェントリフィケーション」(高級化)という問題だ。あるエリアに、新参の富裕層が移転してくることで地価高騰が起きて、低所得の地元住民が排除されていく現象。

 背景にあるのは主にテックブーム。IT系企業がベイエリアにオフィスを構え、高給取りのイキった社員たちがたくさん移り住んでくるようになった。人気の街になったぶんだけ家賃も跳ね上がり、もともと居た人たちが住みづらくなる。一見“洗練”に向かう都市の変容や再開発が、格差や分断の流れを助長していくのだ。

 この種の主題をいち早く装備した映画『ブラインドスポッティング』(2018年/監督:カルロス・ロペス・エストラーダ)はカリフォルニア州オークランドが舞台だったが、本作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』はその近く、サンフランシスコのベイエリアであるフィルモア地区に建つ家をめぐる物語だ。

 主人公であるアフリカ系の青年ジミー(ジミー・フェイルズ)は、幼い頃に家族と暮らしたヴィクトリア調の豪邸への愛着に拘り続け、自分の手で買い戻すことを決意する。だがそれはとんでもない高額だ。ジミーはいつも同じネルシャツを着て、スケボーに乗っている。車やバイクを持たない彼にとって、ボードは交通手段でもある。ジミーはふとこう呟く。「俺は若いし、黒人で、金がない」。

 ただし一方、裕福な子供時代の記憶を持つジミーは、生粋のストリート育ちであるアフリカ系の仲間たちからは浮いた存在でもある。幸福の面影を追い求めて悪戦苦闘するジミーを、親友のモント(ジョナサン・メジャース)が優しく見守る。映画は彼らに寄り添いながら、バス停に裸で現われる白人の老人など、自身の居場所を喪失した、さまよえる都市生活者の姿を映し出していく。

 かつてサンフランシスコは自由な多様性を象徴する街だった。古くから移民にも寛容で、LOVE & PEACEを唱えたヒッピーやプライドパレードの拠点として知られた。それが資本主義の身も蓋もない新陳代謝によって排他性を生み出している。

 劇中では、路上に立つひとりの男によってフラワー・ムーヴメントのアンセムである1967年の名曲、スコット・マッケンジーの「花のサンフランシスコ」“San Francisco (Be Sure to Wear Flowers in Your Hair)”が絶叫するような悲痛なトーンで歌われる。サンフランシスコへの深い慈愛に裏打ちされた鋭利な風刺が突き刺さる。もちろんこれは、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)の動きと接続させて観ることもできる一本だ。

『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年/監督:ジョナ・ヒル)

 続いてやはり米西海岸、カリフォルニア州のロサンゼルス。ただし時代設定はタイトルどおり、1990年代の半ば。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年/監督:グレッグ・モットーラ)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年/監督:マーティン・スコセッシ)などで知られる人気俳優のジョナ・ヒル(1983年生まれ)が、自らの少年時代の経験をもとにした監督デビュー作。スケーターチームの仲間たちと共に過ごした日々を通し、13歳の少年の多感な思春期模様を描いた珠玉の青春映画だ。配給・製作はA24。

 本作の物語は、スケーター文脈を核にしたストリートカルチャー沸騰期の90年代における、「そこら中に存在していたZ-BOYSチルドレン」の一典型を描くものとでも言えるだろうか。少年時代のジョナ・ヒルが自己投影されたキャラクターである主人公のスティーヴィー(サニー・ソルジック)をはじめ、5人組のチーム男子は、家庭や学校とは違う自分たちの居場所を求めて路上やスケートパークに集まっている。だが彼らの間には様々な「格差」がある。今は祝祭の日々、パーティーの時間を共有しているが、実は境遇も経済状態も才能もそれぞれ違う。その差異が徐々に顕在化して友情にも亀裂が生じ、やがて道が分かれていく――。まさに『ロード・オブ・ドッグタウン』に通じるほろ苦さと甘酸っぱさ。

 実際にストリートカルチャーやファッションに精通しているジョナ・ヒルの自伝的作品だけあり、本作の“ミッドナインティーズ”の時代像は本当にリアルだ。安価なTシャツとバギーパンツ。当時のスケートビデオや、無名時代のハーモニー・コリンが脚本を書いたクロエ・セヴィニー主演のカルト作『KIDS/キッズ』(1995年/監督:ラリー・クラーク)辺りをロールモデルにした、LAのスケートパークを捉えるスーパー16mmのザラついた映像とHi8の魚眼レンズ。ピクシーズ、バッド・ブレインズ、ミスフィッツ、ア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)……オルタナティブロックとハードコアパンクとヒップホップが交差する「過渡期的な選曲」は“あの頃の感じ”そのまま。血肉化された90年代の表現がここにある。

 この作品が持つリアリティの質は、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』(1973年)に近いのではないか。ルーカスが実際に青春を過ごした1962年夏のカリフォルニアを舞台に、当時彼が体感していた風景を焼き付けたあの名作。書き割り的な「62年のヒット曲」ではなく、「バディ・ホリーが死んでから(1959年)ロックンロールは下り坂だ」(Rock and roll’s been going downhill ever since Buddy Holly died.)という価値観を軸にした選曲など――。

 『mid90s ミッドナインティーズ』も『ロード・オブ・ドッグタウン』も『アメリカン・グラフィティ』も、ボーイズクラブ型の祝祭が、やがて哀切に変わる。これまで幾度も、無数に至る場所で繰り返されてきたこの青春群像の形は、次に紹介する作品の位相にもつながってくる。

『行き止まりの世界に生まれて』(2018年/監督:ビン・リュー)

 今度は米西海岸から離れ、中西部イリノイ州のロックフォードが舞台のドキュメンタリーだ。これはニュークラシック認定間違いなしの破格の大傑作。サンダンス映画祭ブレイクスルーフィルムメイキング賞を皮切りに、ピーボディ賞やニューヨーク映画批評家協会賞などの受賞ほか、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門と、第71回エミー賞にノミネートされている(テレビ対象のエミー賞候補になったのはPBSの番組『POV』で放送されたため)。

 アメリカの中西部から北東部に広がる「ラストベルト」(錆び付いた工業地帯)――ドナルド・トランプ前大統領の支持の背景になったとも呼ばれるこのエリアに、イリノイ州ロックフォードは位置している。かつては鉄鋼や石炭、自動車産業などが盛んだったが、ある時期から人口流出が止まらなくて、近年は「全米で最も惨めな町」と呼ばれるほど荒廃した状況が進んでいる。同地の現状を知らない我々がイメージするならば、例えば同じ中西部だと、ミシガン州デトロイトあたりの衰退状況に近いのかもしれない。

 そこで育った人種の違う男子3人組(アフリカ系、白人、中国系)の12年間のゆくえを追った青春群像ドキュメンタリーが、『行き止まりの世界に生まれて』だ。監督は3人組のひとりである、中国出身のビン・リュー(1989年生まれ)。Z-BOYSに擬えればステイシー・ペラルタに当たる立ち位置、とも言える。

 少年期に出会ったキアー、ザック、ビンの3人は、貧しく暴力的な家庭環境から逃れるため、皆スケボーにのめり込んでいる。この映画が孕む「奇跡」は、3人組のひとりが映画監督志望で、ずっと日常で自分たちの営為に向けてカメラを回しており、そして実際に映画監督になったことだ。かくしてアメリカ社会の澱みが溜まっている閉塞した町の現実の「内部」から、映画が立ち上がってきた。

 原題は“Minding the Gap”(溝に注意)。このGapは「分断」や「格差」を指すものでもあるだろう。ビン・リューはその真っ只中で、溝に滑り落ちないようにカメラを回していた。だが仲間のリーダー格でヒーロー的存在だった白人男子のザックは、まさにその溝――先の見えにくい困難にやがてずっぽりハマっていく。ホワイトトラッシュと呼ばれる貧困層の白人の荒れた境遇が、怒りや苛立ちを転化する形で人種差別や移民への憎悪を生む。トランプ米大統領が当選した背景には、こういったラストベルトの歪んだ現実があると言われるが、本作が映し出すザックの生活からは、不安や閉塞に包まれた下層社会の実相が生々しく伝わってくる。

 またザックは自分が父親になると、自分が自分の父親にされたように、しつけのつもりで子供に厳しく当たる。そこに深刻な「負の連鎖」が見える。「トキシック・マスキュリニティ」(有害な男らしさ)の問題だ。同種の父親からの抑圧は、ビン・リューも、アフリカ系のキアーも共通して抱えている。

 ビン・リューはシングルマザーだった母親に連れられて8歳の時にロックフォードに引っ越し、母の再婚相手の白人男性に理不尽な暴力をふるわれた。19歳でシカゴに引っ越し、フリーランスの撮影助手として働きながら、イリノイ大学文学部を卒業。この映画をまとめる際には、スティーヴ・ジェームズ監督のドキュメンタリー映画『フープ・ドリームス』(1994年)や『スティーヴィー』(2002年)にヒントを得た。

 彼は個々の内面に宿る政治性や社会状況に目を向けた。この映画はビン・リューの「僕」という一人称が語りの基本になっているが、その「僕」は世界中に無数に存在する「あなた」の等身大の物語でもあり、パーソナルな視点が同時に普遍性を持つという理想型でもある。徹底した個人の視点から、ひりひりしたアメリカの現実を描く。そして「行き止まりの世界」の中、彼が自由意志で生きていける世界へと一点突破したこと自体が大いなる希望の光となるのだ。

 ちなみに『mid90s ミッドナインティーズ』にクラスタ/トライブ的につながる点として、映画の中盤、『KIDS/キッズ』が一瞬テレビに映っていることにご注目いただきたい。以上の3作を併せて観れば、スケートカルチャーが今も昔も、アメリカで生きる若者の地べたのリアリティにどれだけ密着しているか、よくわかるはずだ。

■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。

■リリース情報
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
デジタル配信中
DVD発売中
価格:3,800円(税別)
仕様:2019年/アメリカ/カラー/本編120分/16:9 LB ビスタサイズ/片面1層/ドルビーデジタル5.1chサラウンド/1枚組

<特典映像>
・キャスト・スタッフコメントムービー
・日本版予告編

<封入特典>
・リバーシブルジャケット
・オリジナルポストカード

出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、ダニー・グローヴァー
監督・脚本:ジョー・タルボット
共同脚本:ロブ・リチャート
原案:ジョー・タルボット、ジミー・フェイルズ
音楽:エミール・モセリ
字幕翻訳:稲田嵯裕里
発売元・販売元:TCエンタテインメント
(c)2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

『mid90s ミッドナインティーズ』
期間限定先行デジタル配信中
4月7日(水)Blu-ray&DVD発売

【コレクターズ・エディション Blu-ray BOX】
価格:10,000円(税別)
仕様:2018年/アメリカ/英語/本編85分+特典映像10分/スタンダード[1080p Hi-Def]/1層/音声1.[英語]DTS-HD MasterAudio 5.1chサラウンド 音声2.[日本語]DTS-HD MasterAudio 2.0chステレオ 音声3.[英語]オーディオコメンタリーDTS-HD MasterAudio 2.0chステレオ/字幕1.日本語字幕 字幕2.吹替用字幕 字幕3.コメンタリー用字幕 /1枚組

<特典映像>
・削除シーン
・キャストスタッフインタビュー&メイキング
・日本版予告
・本国版予告+スポット集

<オーディオコメンタリー>
・監督&撮影監督コメンタリー

<初回生産限定封入特典>
・weberデザイン提供によるスペシャルtee(Lsize)
・スニーカー箱風アウターケース
・非売品グッズ
・豪華フォトブックレット(36P)
・特製リバーシブルジャケット

【デラックス版 Blu-ray】
価格:5,200円(税別)
仕様:2018年/アメリカ/英語/本編85分+特典映像10分/スタンダード[1080p Hi-Def]/1層/音声1.[英語]DTS-HD MasterAudio 5.1chサラウンド 音声2.[日本語]DTS-HD MasterAudio 2.0chステレオ 音声3.[英語]オーディオコメンタリーDTS-HD MasterAudio 2.0chステレオ/字幕1.日本語字幕 字幕2.吹替用字幕 字幕3.コメンタリー用字幕 /1枚組

<特典映像>
・監督&撮影監督コメンタリー
・未公開シーン
・キャストスタッフインタビュー&メイキング
・日本版予告
・本国版予告

<封入特典>
ブックレット(16P)

【デラックス版 DVD】
価格:4,200円(税別)
仕様:2018年/アメリカ/英語/本編85分+特典映像10分/スタンダード/カラー/音声:1.英語 ドルビーデジタル 5.1chサラウンド 2.日本語 ドルビーデジタル2.0chステレオ 3.オーディオコメンタリー ドルビーデジタル2.0chステレオ/字幕:1.日本語字幕 2.吹替用字幕 3.コメンタリー用字幕 /片面1層/1枚組

<特典映像>
・監督&撮影監督コメンタリー
・未公開シーン
・キャストスタッフインタビュー&メイキング
・日本版予告
・本国版予告

<封入特典>
ブックレット(16P)

出演:サニー・ソルジック、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス
監督・脚本:ジョナ・ヒル
製作総指揮:スコット・ロバートソン、アレックス・G・スコット
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス
発売元:トランスフォーマー
販売元:TCエンタテインメント
(c)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

『行き止まりの世界に生まれて』
期間限定先行デジタル配信中
4月7日(水)Blu-ray&DVD発売

【Blu-ray】
価格:4,800円(税別)
仕様:2018年/アメリカ/英語/本編93分+特典映像/16:9[1080p Hi-Def]/1層/音声1.[オリジナル英語]DTS-HD MasterAudio 5.1chサラウンド/字幕1.日本語字幕/1枚組

<特典映像>
予告編

【DVD】
価格:3,800円(税別)
仕様:2018年/ アメリカ /英語/本編93分+特典映像/16:9ビスタ/カラー/ドルビーデジタル 5.1ch サラウンド/片面1層/1枚組

<特典映像>
予告編

出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リュー
監督・製作・撮影・編集:ビン・リュー 
エグゼクティブ・プロデュー
発売元・販売元:TCエンタテインメント
提供:ビターズ・エンド
(c)2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.