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高橋一生演じる日高の重層的なパーソナリティ 『天国と地獄』に散らばる謎を考察

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「日高のことがわからなくなっていた。日高は二重人格? それとも何かを隠している? 大切な誰かを守るために。そのために、人殺しを犯している? それとも共犯がいる?」

 日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系)第4話。自分の姿で殺人を犯された彩子(綾瀬はるか)は、日高(高橋一生)を自分の手で捕まえることが不可能になったことを落胆する。そして同時に、明らかになっていく日高の人間性に混乱し始めていた。日高は、本当にサイコパスなシリアルキラーなのだろうか。何が彼を殺人に駆り立てているのか。「日高陽斗という人を知りたい」と。

妹の登場でさらに深まる日高陽斗の謎

 冷静沈着でクレバーな日高と、直感型で衝動的な彩子。その魂の入れ替わりは、まさに「人が変わった」という言葉を地でいく大きな変化だ。当然、周囲の人間が気づかないわけがない。彩子になった日高はのらりくらりと交わし、八巻(溝端淳平)以外には納得させることに成功したが、日高の姿をした彩子にはコ・アース社の面々はついに不満を爆発させる。

 問い詰められた彩子がとさに「転んで頭を打って記憶障害になった」と伝えると、秘書の五木(中村ゆり)や営業取締役の富樫(馬場徹)を始め、多くの社員によって手厚いフォローを受けられることに。日高を血も涙もない冷酷な殺人鬼だと思っていた彩子にとって、その人望の厚さはまったくの予想外。さらに、日高の妹・優菜(岸井ゆきの)からは、「周りの人が優しいのは、元々お兄ちゃんが優しいから」という言葉が飛び出し、さらに驚く。

 痴漢の冤罪に巻き込まれて会社を追い出された富樫、仕事がなくて困っていた五木。日高はそんな彼らに「一緒に働こう」と手を差し伸べてきたのだという。さらに、高校生のとき、近所にいた足のよくない嫌われ者のおじいさんを「そんなに悪い人じゃない」と買い物を手伝っていたという話も……。

 聞けば聞くほど、善良な人に思える日高の過去。だが、そのおじいさんは日高が風邪を引いた夜、階段から足を滑らせて亡くなったという展開に、“本当に風邪を引いて寝込んでいたのだろうか?”という疑問も浮かんでくる。もしかしたら、部屋から抜け出しておじいさんを階段から突き落としたのではないだろうか、とも。

 困っている富樫や五木を救ったというエピソードも、今回殺人事件の証言者である外国人留学生に新たな就職先(日高の親が営むサンライズフーズグループなのは後々足がつかないかとヒヤヒヤするが)を紹介して、有利な状況に持っていたことを考えると、何か利益を見込んで動いたのではないかとも考えられる。

 かと思えば、追い込んできた河原(北村一輝)を返り討ちにしながらも「(捜査本部を外されて)かわいそうですが。彼はある意味、誰よりもなりふり構わずやってきた人でしょう。あの年で、それをいきなり取り上げられるというのは相当酷なことではないでしょうか」と同情する一面も。

 そして、直接会うことができなかった優菜に対しても「元気でしたか? 兄貴が引っ張られて気に病んでるかも知れませんし」と心配する言葉を添える。これが、あの返り血を浴びながら笑顔で死体を殴る日高と、同一人物なのかと誰もが頭を抱えてしまう展開だ。果たして、日高の本性はどこにあるのだろうか。

日高も誰かの意志に翻弄される側!?

 日高のことを自らの手で捕まえることは叶わなくとも、これ以上日高が人を殺すことのないように止めることはできるのではないかと意を決する彩子。すり替えた証拠品の手袋を渡すのと引き換えに、日高に殺さない約束を迫る。もし約束ができないのであれば、あのおぞましい殺人動画を今すぐに捜査一課に送ると捨て身の覚悟で。

 そんなことをすれば彩子の人生も終わりだということは百も承知。だが彩子にとって、その正義感こそが「私」である最後の砦なのだ。「この際、2人仲良く地獄行きといきましょうよ。それがある“べき”世の姿なんだから!」こんなときに彩子の“べき論”が光るのが切ない。周囲の助けも借りながら、日々「日高陽斗」である自分を受け入れていく中で、それをなくしたら“これっぽっちも私じゃなくなってしまう”と、彩子は必死に「望月彩子」であった自分を保っているのだ。

 そんな彩子の覚悟に「だから、あなただったんですか」と目を潤ませ、どこかホッとしたような表情を浮かべる日高。これまで日高は「月と太陽の伝説」をほのめかすなど、すべての真相を知っているかのように見えたが、この言葉は彩子との魂の入れ替わりが日高にとっても想定外の相手だったとも取れる言い回しだ。

 田所仁志の「2」、四方忠良の「4」。被害者たちの手の平に記された「Φ」。曇ったバスルームの鏡に指で描きながら「次は何番ですかね」とつぶやく日高は、まるで誰かの動きを待っているかのような口ぶりだ。漫画『暗闇の清掃人』でも、魔女の手のように爪の伸びた大きな手が数字の紙を差し出しているシーンが描かれていた。

 ちなみに、最初に「Φ」が描かれていた未解決事件の被害者・一ノ瀬正造にも名前に数字が入っている。もし今後も殺人事件が続き、その被害者が全て数字に関連している名前という共通点があるのだとすれば、日高が所持していた殺人リストでは次の候補となる人は限られてくるのだが……。

 いや、むしろ河原三雄、八巻英雄、捜査第一課長・十久河広明(吉見一豊)、管理官・五十嵐公平(野間口徹)、さらにはコ・アース社秘書・五木樹里と、日高や彩子の周囲にもいる名前に数字を持つ人物にも注目が集まる。さらにボストン時代に日高がシリアルキラーとして容疑をかけられたことを証言した九十九聖(中尾明慶)の名前にも数字が。果たして事件との関係はあるのだろうか。

 また、気になるのはキレイ好きな日高と掃除のうまい陸(柄本佑)が暮らすキッチンのタイルがひどく汚れていた点だ。きっと日高のこと、ホワイトシチューを作るだけなら手際よく調理したと予想されるのに。あの汚れっぷりには、どうしても違和感を覚えてしまう。キッチンで、日高は一体何をしようとしていたのか。

 そして、彩子の姿をした日高に、殺人鬼との二重人格を恐れながらも何の戸惑いもなく問いただす陸にも引っかかるものがある。多くの人の場合、八巻のように「自分が殺されるのでは」と恐れるはずではないだろうか。そんなリスクを考慮せずまっすぐに向かったのは、陸の方に何か思うところがあるからなのだろうか。

 さらに、密会に適しているスパを、日高は「富樫さんと一度利用したことがある」と話していたのも気になるところ。日高の記憶障害について、社内のメーリングリストで一斉に共有されたほど透明性の高い会社で、2人が人目を忍んで話さなければならない何かがあったということなのだろうか。

 回を重ねる毎に、ますます謎は深まる一方。登場人物の全てが疑わしくも見えてくる。引き続き、映し出される全ての情報を丁寧に拾い上げ、想像力を膨らませていく面白さをじっくりと味わいたい。

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS