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中島健人×中条あやみ『ニセコイ』の映画的な魅力 その構造は『かぐや様』につながる!?

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リアルサウンド

 映画『ニセコイ』が、2月8日26時5分よりTBSにて放送される。先ごろ続編の製作が発表された『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の地上波放送の際に、それが少年漫画誌に連載された作品を原作にしているという点と、現実味の薄い設定や徹底したキャラ寄せを行ない、続編への余地を残す帰結点を持つという点をもって、2010年代の日本映画の最前線にあった“キラキラ映画”とは距離を置く“準キラキラ映画”として定義した(参照:『かぐや様は告らせたい』は平野紫耀×橋本環奈の持ち味全開! 少年漫画原作ならではのユニークさ)。すなわち、その際に例として出した『ニセコイ』もまた、“準キラキラ映画”の括りとしてその代表といえる作品であろう。

 『かぐや様〜』と同じく河合勇人監督がメガホンを取り、主人公にはSexy Zoneの中島健人。ヒロインには中条あやみが配され、サブヒロインとなる位置には池間夏海と島崎遥香。座組みのディテールこそ違えど、ジャニーズ×バラエティ力もある人気女優+キャラの強いサブヒロインでコメディに寄せ切るあたり、両者はかなり瓜二つの構造を持つ作品と言えるかもしれない。余談ではあるが、その地上波初放送が特に何のフックもないタイミングでの平日深夜というのは興行的な数字による判断なのだろうか……。

 まずは『ニセコイ』のあらすじを整理してみたい。ヤクザ一家に生まれ育ったが真っ当に生きたいと願う一条楽と、アメリカのギャング一家の一人娘である桐崎千棘が、双方の組織間での抗争を食い止めるために強制的に恋人のフリをさせられる。しかし楽は幼い頃に結婚を約束した運命の相手を探しつづけており、千棘とは性格も正反対で衝突してばかり。常に監視する千棘のボディガードであるクロードにバレないように、二人は悪戦苦闘していくのである。つまりは、劇中にも登場する『ロミオとジュリエット』のような障壁をコメディの種にしているわけで、この時点でわかる通り、恋人のフリはあくまでも一時しのぎのものであって、その期間、つまりゴールはあらかじめ定められていない。

 無論、素直にその流れを汲めば、恋人のフリをするということからして自然とゴールは見えてしまうものだ。初めはぶつかり合うような関係でありながら、時間を共有していくうちに惹かれあい、やがて本物の恋人同士として成就する様は、それがラブストーリーであってもラブコメディであっても同じで、実に容易に目に浮かぶものだ。例えば少女漫画を原作にした正統派“キラキラ映画”たる『オオカミ少女と黒王子』も、主人公が街で撮影したイケメン男子を恋人だと友人に嘘をついたら、それが学校一の人気男子だったことから始まり、彼が“恋人のフリ”をすることで、ラブストーリーが構築されていったのである。とはいえここで『ニセコイ』の結末をあえて書くのは、いくら数年前の作品だからといってもいささか無粋なので濁しておくが、そうした典型的なフィナーレが見えていながらも、複数のヒロインが混在するミスリードを駆使することでお話をふくらまし、主人公の心情の動きを描いていく。それはつまり、決定事項に向かって進む“キラキラ映画”のパターンを完璧に踏襲しているということであり、『週刊少年ジャンプ』に連載されたラブコメ作品として異例の人気を集めた原作の成功の理由がはっきりと見えるわけだ。

 もちろん、コミカルさやスピード感といった力技のように思える部分も、映画的な魅力を携える上で大きな役割を担っている。それは『かぐや様〜』の時にも指摘した通り、河合監督の職人芸が原作のトーンがうまく符合したからに他ならないのだろう。現代のプログラムピクチャーと呼ぶべき“キラキラ映画”には、複数本手掛ける監督であればあるほどその特色がはっきりと現れており、正統派を貫きながら青春の苦さを露呈させる三木孝浩、同じく正統派でありながらロマンティックさを追求する新城毅彦、純然と原作の流れを組む廣木隆一、得意分野のポップなコメディ性をリズムとして潜ませる川村泰祐に、あえてそれを全面に押し出す英勉などなど。

 なかでも河合作品ではキャラを立てることによってポップさを際立てることが率先して行われている。もちろん漫画を原作とした作品は、あらかじめ視覚的なイメージが定着しているためそれに寄せるという作業はどうしても付きものではあるが、鈴木亮平が30kg増量して屈強な主人公を熱演した『俺物語!!』しかり、漫画から飛び出してきたような理想的なオーラを放つ片寄涼太を掘り出した『兄に愛されすぎて困ってます』しかりと、それが肝になる部分が大きいのが河合作品の特徴ではないか。

 本作ではドラマ版の『黒崎くんの言いなりになんてならない』につづいて組む中島健人を、“黒王子”キャラから一転してヘタレなもやし男・楽に様変わりさせる。原作に雰囲気を寄せたところでもかなり凡庸になりかねないキャラクターに面白みを与えるため、インパクトのある3人のヒロインをとくに強調させる。それぞれの初登場シーンであったり、楽の視点が向けられた際の三者三様の演出であったり。こうした全体のバランスを見極めた作業が、後に圧倒的な再現度が好評となった『かぐや様〜』につながるのだろう。

 ちなみに、楽の視点で物語は進むわけだが、それぞれのヒロインの視点から映画を観進めてみるのも一興だ。とりわけ池間演じる小野寺小咲の視点から、楽という主人公の変化を追ってみると、そこになんとも切ない少女漫画的な奥行きが生まれる。それもまた『ニセコイ』の稀有なユニークさではないだろうか。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
『ニセコイ』
TBS系にて、2月8日(月)深夜26:05~28:25(※一部地域を除く)
出演:中島健人(Sexy Zone)、中条あやみ、池間夏海、島崎遥香、岸優太(King & Prince)、青野楓、河村花、GENKING、松本まりか、丸山智己、加藤諒、団時朗、宅麻伸(友情出演)、DAIGO
原作:古味直志『ニセコイ』(集英社『ジャンプコミックス』刊)
監督:河合勇人
脚本:小山正太、杉原憲明
音楽:高見優
主題歌:「かわE」ヤバイTシャツ屋さん(ユニバーサル シグマ)
(c)2018 映画『ニセコイ』製作委員会 (c)古味直志/集英社
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/program/nisekoi_20210208/