YOASOBIも輩出、monogatary.comの面白さ AMAOTOら続々生まれる音楽×物語の新たな関係性
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monogatary.com、最初の成功例となったYOASOBI
2019年11月にミュージックビデオが公開され、12月に配信リリースされたデビュー曲「夜に駆ける」がSNS、ストリーミングを中心に話題を集め、2020年に驚異的なロングヒットを記録したYOASOBI。同年の『NHK紅白歌合戦』におけるパフォーマンスも大きな注目を集め、今年1月6日にリリースされた1st EP『THE BOOK』がBillboard JAPANダウンロード・アルバム・チャートDownload Albumsで4週連続1位を記録するなど、音楽性、セールス力の両面で確実な成果を上げ続けている。作詞・作曲・編曲を担当するAyase、ボーカリストのikuraによるこのユニットはもともと、ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する、小説とイラストを中心とした投稿サイト「monogatary.com」から生まれた。
“ストーリーエンタテインメントプラットフォーム”を標榜し、2017年10月にスタートした「monogatary.com」は、日替わりの「お題」に合わせた小説をユーザーが投稿できるサービス。「魔法のiらんど」「小説家になろう」などの先行の小説投稿サイトとの最も大きな違いは、投稿された作品を原作と捉え、書籍化に留まらず、音楽、映画、アニメ、ゲームなど、幅広い表現メディアでコンテンツ化できること。その最初の成功例が、小説『タナトスの誘惑』(星野舞夜)を原作とした楽曲「夜に駆ける」でブレイクしたYOASOBIだったというわけだ。
「夜に駆ける」以降もYOASOBIは、「あの夢をなぞって」(原作『夢の雫と星の花』/いしき蒼太)、「たぶん」(原作『たぶん』/しなの)、「アンコール」(原作『世界の終わりと、さよならのうた』/水上下波)と、「monogatary.com」に投稿された小説をもとにした楽曲をリリース。作品を重ねるごとに“物語×音楽”の表現を深めていった。Ayaseは小説のなかで描かれるストーリーや言葉、世界観を正確に理解し、自らのフィルターを通したうえで、幅広いユーザーに受け入れられるポップミュージックを構築。その楽曲をikuraが巧みにして生々しい表現力ーーまるで俳優が演じるようにーーを活かして歌うことで、YOASOBIの音楽は成立している。楽曲、小説、さらにMVを行き来しながら、理解を深めたり、自分なりの解釈をして楽しめるのも、“物語×音楽”というスタイルの魅力であり、強みだろう。
「monogatary.com」からは、YOASOBI以外にも、優れた楽曲が送り出されている。アニソンシンガー・halcaの歌唱による「朽葉色の音」(原作『朽葉色の音』/助丸)は、絶対音感と共感覚(文字、音、匂いなどに色や形を感じる知覚現象)を持つ高校生・笹山葉月を主人公にした小説の世界をもとにした楽曲。小説のなかで出会う葉月と同じく共感覚を持つ足達有希の関係性とリンクしたMVを含め、物語、音楽、映像のコラボレーションが楽しめる作品だ。その他にも映像化、ノベライズ、コミカライズされた作品もあり、そのジャンルは多岐に渡っている。
音楽から小説、MVへ……AMAOTOでの新たな試み
また、新たな試みも始まっている。これまでは“小説から音楽を生み出す”という流れが主だったが、昨年開催されたコンテスト「モノコン2020」では、音楽ユニット・AMAOTOの楽曲「終わらないLove Song ft.JUQI」にインスパイアされた小説を募集。大賞に『夕陽が裏』(著:タイライツバメ)が選ばれ、この小説をもとにしたミュージックビデオが制作されるに至った。
「終わらないLove Song ft.JUQI」は、〈2人並んだ 駅からの帰り道/一緒にいたくて ゆっくり歩いた〉というフレーズではじまる。ピアノと歌を軸にしたオーガニックなアレンジ、郷愁を誘うメロディライン、そして、今はそばにいない“あなた”を思う歌詞が一つになったミディアムバラードには、聴き手を選ばないスタンダードとしての魅力が備わっている。AMAOTOは、プロデューサー・AMANEによる音楽ユニット。その詳細は明らかにされていないが、「終わらないLove Song ft.JUQI」をきっかけに、その豊かな音楽性に注目が集まっている。今回の楽曲では、4人組ラップグループ・JABBA DA FOOTBALL CLUBのメンバーでソロでも活躍するJUQIをフィーチャリング。まさに溢れる思いが歌声で表現されたメインボーカルの合間に、哀愁漂うJUQIのラップによるストーリーテリングが挟まれることで、“もう会うことのできない大切な人への募る思い”というテーマが一層切なく響いてくる。
その中心にあるのはやはり、リスナー自身の原風景を想起させるような歌詞、そして、情緒豊かなボーカルだ。すべての人の心のなかにある大切な人との思い出と、“もう二度と会えない”という切ない思いを滲ませるリリックは、きわめてシンプルなフレーズを用いながら、“人は思い出を積み重ねることで、より豊かな人生へとたどり着ける”という普遍的なメッセージを響かせている。また、ひとつひとつの言葉に感情を込めながら、決して大げさになりすぎず、物語を手渡すように紡がれるボーカルにも強く心を打たれる。そう、「終わらないLove Song ft.JUQI」は、リスナーの趣向や時代性を超える力を最初から有しているのだ。
この楽曲をもとにした小説『夕陽が裏』は、現実とは違う世界に迷い込んだ主人公・茜が、駅で出会ったハルと生活を共にし、そのなかで生まれた心の葛藤や恋心を描いたファンタジー風のミステリー。昨年12月25日に公開されたMVでは、茜とハルが出会った駅、〈ポケットのなかで繋ぐ手と手〉など、小説と楽曲を象徴するシーンを織り込み、ノスタルジックな世界を描き出している。小説のストーリー、楽曲の雰囲気と重なるイメージを創出しているハラダミユキのイラストにも注目してほしい。
さらに「monogatary.com」では、初の試みとなる“純文学”コンテストも開催中。メジャーデビューを果たしたオルタナティブロックバンド・羊文学とのコラボによる「羊文学賞」だ。ユーザーが指定の楽曲を視聴し、そこから着想した物語を募集するこの賞もまた、”物語×音楽“の発展形と言えるだろう。物語、音楽、映像を中心に、新たなコンテンツを生み出し続けている「monogatary.com」。このプロジェクトは2021年も、日本のエンターテインメントを大いに賑わせてくれそうだ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■配信情報
AMAOTO 1st Single「終わらない LOVE SONG ft.JUQI」
主要音楽配信サービスで配信中
原作:夕陽が裏 著者:タイライツバメ
原作はこちら
■AMAOTO
プロデューサーAMANEによる正体不明の音楽ユニット。今作「終わらないLove Song ft. JUQI」は今年音楽業界最有力新人と評されたYOASOBIでのブレイクで記憶に新しいmonogatary.comが開催していた“モノコン2020”での課題曲。ジャケットはイラストレーターのハラダミユキが担当。
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