『CUBE』なぜいま菅田将暉主演でリメイク? 成功の鍵はデスゲームジャンルへの“本気度”
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1997年にカナダから生まれたシチュエーションスリラー/スプラッターホラー映画CUBE』が2021年、和製になって甦る。オリジナルはどちらかと言えばカルト的人気の作品だが、リメイク版は菅田将暉を主演に迎え、杏、岡田将生、田代輝、斎藤工、そして吉田鋼太郎と豪華俳優陣が脇を固めている。一体なぜ、いまになって25年以上も前の映画が選ばれたのか。作品の特性と昨今の日本のエンタメムーブメントを振り返りながら考えたい。
低予算で作られたアイデア勝ちのオリジナル
オリジナル版はオープニングから、一人の男がキューブの中で目覚め、無闇に入った部屋の中でサイコロステーキ先輩よろしく死ぬ場面から始まる。これが映画開始3分に起きる出来事で、インパクトを与え鑑賞者の注意をひいただけでなく、その一連のシーンだけで映画のほぼベーシックな設定を全て説明してしまったというとんでもないシークエンスだ。
『CUBE』は限られた登場人物と変わらない舞台(キューブの中)だけで描かれる低予算ホラー作品でありながら、この冒頭からもわかるようにそのスマートな見せ方と物語の運び方でアイデア勝ちした映画で、カルト映画という皮を被った優等生映画でもあるのだ。なぜ彼らは箱の中にいるのか(記憶がないのか)、名前入りの服は誰に着せられたのか、移動を間違えれば即死、中にいる人は脱出できるのか、誰がなんのためにしているのか。映画において重要な“謎”の要素は、徐々に明かされ、徐々に解決されていくのが普通だ。しかし、本作は初っ端から手札を広げ、最後までこれらが明かされることはない。まさに型破りタイプである。
登場人物は男女6人。リーダーシップを発揮する黒人警官のクエンティンと、少しヒステリックな精神科医のハロウェイ、ごく普通の女子高生レブン、実は数多の刑務所から脱獄してきた男レン、個人情報を何も明かさない無気力な男ワース、サヴァン症候群の青年カザンだ。女2、男3という内訳になる。こんな少ないメンバーで、これ以上登場人物が増えないのに、問答無用で次々にちゃんと死んでいくからこの映画は飽きない。そして箱の特色もおもしろい。デザインがとても綺麗で、デストラップの種類も豊富だし、なにより部屋によって色が違う(白、赤、青、緑、オレンジ)。このカラーリングは直接的に登場人物にとって関係あるわけではないが、重要な精神面で大きな影響を与える。
劇中でメンバーが赤い部屋で一時休息するシーンがあるが、そこで段々とキャラクターが攻撃的になる。もちろん、長い間飲まず食わずで突如放り込まれた空間の中、いつ死ぬかもわからない状況下であれば誰だって次第に発狂するわけだが、それが「赤」という人を攻撃的にさせる、刺激を与える作用のある色味であることにも関係しているのだ。これが青い部屋での休憩だったら、もう少し違ったかもしれない。このように、カラーリングにも意味性があって、低予算ながらにディテールまで非常にこだわった作品だ。ところが、シリーズ全てがそう、というわけではない。
そうそう、『CUBE』はシリーズ作品なのだ。これまで紹介してきたものが1作目、その続編『CUBE 2』そして前日譚にあたる『CUBE ZERO』となっている。ここで、日本版リメイクにとって命運が分かれる問題にぶつかる。“どの”『CUBE』をやるか、だ。
なぜいまリメイクされる? その懸念点とは
そもそもなぜ本作なのか。その理由は大きく分けて二つあるように感じる。一つは当たり前だが、低予算で作れる魅力だ。例えばオリジナルのように、一つだけのセットをスタジオ内に作れば良いので昨今のコロナ渦におけるロケ撮影の配慮などもしなくて済むし、キャストも少ないので、そういう点でも撮影は進みやすいというのもあっただろう。そしてもう一つの理由として近年のホラー映画のヒットや、デスゲームジャンルが再び人気となった背景が挙げられるが、それは後述したい。
日本版の特報映像を見る限り、カラフルな箱の内部が映されていたので本作はほぼ確定で第1作目のリメイクになるだろう。2作目に関しては部屋がすべて白で統一されているからだ。それに、もしも2作目をリメイクするのだったら、筆者は製作陣の記憶を消して箱の中に閉じ込めたいほど全力でやめた方がいいと思う。
キャストの顔ぶれと役柄もすでに明かされている。後藤裕一(菅田将暉)はエンジニア、甲斐麻子(杏)は団体職員、超智真司(岡田将生)はフリーター、宇野千陽(田代輝)は中学生、井出寛(斎藤工)は整備士、安東和正(吉田鋼太郎)は会社役員となっている。元の『CUBE』で謎を隠していたキャラクター、天才っぷりを発揮するキャラクター、発狂するキャラクターがいたわけだが、全く同じ職業ではないことからもオリジナル要素(または他シリーズ作からの引用)は期待できる。
とはいえ日本では、ドラマはともかく、映画に関してはこれまで海外にリメイクされるという輸出はあっても、輸入してリメイクするケースはとても少なかった。近年では『50回目のファーストキス』や、2021年1月に公開された『おとなの事情 スマホをのぞいたら』(オリジナルはイタリア映画)も挙げられる。やり慣れていないハリウッドリメイクということだけあって、懸念点は諸々あると思う。そのなかで成功の鍵を握るのは、その見せ方だ。オリジナルがあそこまで人気になったのは、出し惜しみせずに多様で残酷な方法で数少ない登場人物を思い切って殺していったからだ。なので、どれだけ人気俳優だろうと(今回超豪華キャストであるが)スクリーンに長く映すためにもったいぶっていたら良くない。主演の菅田将暉がバラバラになる、くらいの迫力があった方が良いかもしれない。もちろん、デストラップ自体も肝心だ。チープに見えるなどして凄みが感じられないと、そもそもの映画全体の緊迫感を損なってしまう。しかし、ここで問題が生じる。そしてそれは、最近人気が再び湧いてきたデスゲームジャンルがこれまで抱えてきた問題でもある。
デスゲームジャンルやホラーの人気が再沸騰?
さて、先述したなぜ『CUBE』リメイクがいまされるのか、その二つ目の理由に戻りたい。本作はミステリースリラーでもありながら、同時にゴア描写も激しいグロホラーという顔を持ち合わせている。そして本作を配給する松竹が、実は近年ホラーに力を入れているのだ。過去5年で見ると、2016年には配給29作品の中に『残穢【ざんえ】—住んではいけない部屋—』、『クリーピー 偽りの隣人』があり、2017年は31作品中、『こどもつかい』の1作と、ヒット作を出しつつもそれ以降2019年までホラーは一切配給されていなかった。ところが2020年には16作品と例年に比べて配給作品が少ない中で2作品『シライサン』と『事故物件 恐い間取り』が公開され、特に『事故物件』が想像以上の大ヒットを記録した。興行収入で言うと、なんと2000年代で日本で最もヒットした『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の22億2000万を超えたのだ。この結果に手応えを感じたはずなのである。
そして時を同じくしてNetflixでは『今際の国のアリス』が大ヒット。以前こちらの記事で書いたが(参照:『今際の国のアリス』国内外でヒットの理由 『バトル・ロワイアル』から続くジャンル人気から探る)、いまやこのジャンルの作品はこれまでのマイナー路線とは違い、再びヒットが約束されたメインストリームに上がってきている。しかし、どれだけヒットしそうだとはいえ、問題になってくるのが年齢制限の壁だ。どんなジャンルの作品でも、やはりRがはいってしまうだけで興行収入に大きく影響する。ところが先ほど紹介した過去数年の松竹のヒット作はなんとR-12の『シライサン』以外すべてG(全年齢対象)なのだ。これも一つ、『事故物件』があそこまでの記録を出した背景となっているだろう。
では、『CUBE』もGで作られるのか。レイティングは未だ公表されていないが、全年齢対象にすることで、もちろん血を含めたグロ描写が制限される。『CUBE』最大の見どころとも言えるその点を、どのようにバランスを保って描くのか、それとも思い切ってR指定作品として制作するのか。どちらにしても、期待したいところだ。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。Instagram/Twitter
■公開情報
『CUBE』
10月22日(金)公開
原作:ヴィンチェンゾ・ナタリ『CUBE』
出演:菅田将暉、杏、岡田将生、田代輝、斎藤工、吉田鋼太郎
監督:清水康彦
配給:松竹株式会社
製作:「CUBE」製作委員会
(c)2021「CUBE」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/cube/
公式Twitter:@cube_m0vie