BL原作アニメが続々と地上波に進出 注目作『抱かれたい男1位に脅されています。』への期待
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ここ数年、ボーイズラブ(以下BL)を原作とした映像作品の増加とともに、メディアミックス展開の加速がうかがえる。特に今年は、商業BL漫画である『テンカウント』(宝井理人作)、『ヤリチン☆ビッチ部』(おげれつたなか作)、『抱かれたい男1位に脅されています。』(桜日梯子作)、計3作品のアニメ化が決まりSNS上で話題になった。そして、『抱かれたい男1位に脅されています。』は、10月5日から地上波での放送が決定している。これを機に、過去に地上波で放送されたBL原作のアニメ作品を振り返っていきたい。
まず、商業BLの火付け役として『純情ロマンチカ』と『世界一初恋』が挙げられるのではないだろうか。どちらも原作は中村春菊。今年で『純情ロマンチカ』はコミックス刊行15周年、『世界一初恋』はコミックス刊行10周年を迎える。
作品のあらすじとして、『純情ロマンチカ』は、高校生である主人公が大学受験のため、志望大学のOBである小説家から勉強を見てもらうことをきっかけに同居生活が始まる。一方、『世界一初恋』の舞台は出版業界。登場人物は主に社会人であるが、主人公は高校時代の恋愛を引きずっている。何かをきっかけに同居生活が始まる展開だったり、過去の恋愛を引きずっていたりとどちらも王道なストーリーであると感じられた。
『純情ロマンチカ』のアニメ版は、2008年4月~6月、10月~12月に2期分、その後、2015年に3期が放送。『世界一初恋』も、2011年4月~6月、10月~12月までと春期と秋期にかけてアニメ版が放送されていた。放送時期を見ると、アニメ化が発表された時点で2期の制作は決まっていたと考えられ、商業BLブームへの戦略とも感じられる。これまで地上波で放送されてきたBL作品と比べると、異例の長期テレビアニメシリーズである。
濡れ場シーンでは直接的な表現は避けられていたが、カメラアングルの工夫や、台詞などを用い、シーンを連想させるような表現が多く見られた。なるべくカットせず、原作を忠実に表現しようとする制作側の方針がうかがえ、原作ファンの期待を裏切らない作品になっている。
BL漫画のほとんどは、1冊で完結するものが多いため、10巻以上続いている作品は少ない。原作のストックや人気はもちろん、濡れ場シーンを省いても成立するストーリーの豊かさが、BL作品がアニメ化に近づける条件のひとつかもしれない。『純情ロマンチカ』と『世界一初恋』のアニメ作品をきっかけに、商業BLに興味を持った人も多く、この2作品はBLの入門書とも言えるのではないだろうか。初心者でも受け入れやすい王道ストーリーがアニメ化の成功を導いたと考えられる。
商業BLコミックだけでなく、BLゲームブランド「ニトロプラス キラル」から出ているBLアダルトゲーム作品『咎狗の血』が2010年、『DRAMAtical Murder』が2014年に地上波でアニメ化されている。どちらもアニメ化の際は、大胆にも一切のBL描写を取り除くという新たな試みを行っている。
『咎狗の血』は、バトルアクション要素があり、少年漫画を好む女性に支持されていると考えられる。『純情ロマンチカ』や『世界一初恋』など少女漫画的側面の強い作品と比較すると、ファン層が大きく異なっている。
原作のゲームでは、多数のルートとENDがあり、膨大な量のストーリーを楽しむことができる。BL描写を省いても成り立つストーリーの豊かさはゲーム原作ならではの強みとも考えられるが、実際には作画、脚本崩壊が浮き彫りになっており、ゲームシナリオを12話構成でアニメ化するのは、無理があったと考えられる。
アニメ作品はかなり不評だったが、当時BLのドラマCDに多数出演していた声優陣がCVを固めており、豪華なキャスティングになっている。その中でも、声優・緑川光はBLアニメ作品として、2005年に初めて地上波で放送された『好きなものは好きだからしょうがない!!』の主演を務めている。こういったBL作品になじみのある声優陣から、原作ファンはBL描写を期待していたところもあったのではないだろうか。
少女漫画と少年漫画的側面を持つ作品を比較すると、同じBLというジャンルの中でもそれぞれファン層は分かれ、多様化してきていることが分かる。『咎狗の血』のアニメ化は失敗に終わったが、原作であるゲームの移植、ラジオや小説、コミックなど幅広く展開し、人気を博している。コミックは、18禁要素を取り除き一般向けになっているが、世界観は原作に忠実であり、原作ファンの間でも評価は高いと見受けられる。
また、OAD(コミックに付属するDVD)でのアニメ化が決定している『ヤリチン☆ビッチ部』は、声優陣によるキャラクターソングのシリーズ化が決定しており、10月から3か月連続リリースされる。そして、詳細は未定だがアニメ化も決定している『テンカウント』は、コラボカフェの開催やアプリゲーム化を展開。作品の露出とともに、メディアミックス展開が盛んになっている。以前から、ドラマCD化やキャラクターソングなどの展開はされていたが、以上の作品のように大々的に取り上げられるようになったのは、最近のことのように感じた。
様々な作品がメディア化される中で注目したいのが、10月から地上波放送が決まっている桜日梯子の『抱かれたい男1位に脅されています。』である。個人的な見解もあるが、ここ数年の商業BLコミックの中で、宝井理人の『テンカウント』とともに話題になった作品のひとつであると考えられる。商業BLのアニメ化として、『純情ロマンチカ』『世界一初恋』と同等の話題性を感じた。
『抱かれたい男1位に脅されています。』は、芸能界を舞台に5年連続「抱かれたい男1位」に君臨していた主人公が、芸歴3年の新人に呆気なくその座を奪われ、物語が展開していく、ドタバタ王道BLである。BL的胸キュン描写が多く盛り込まれており、ストーリーよりもキャラクターに重点を置いた作品だと感じた。また、濡れ場シーンに定評があり、この作品の醍醐味と言っても過言ではないくらい魅力的な描写になっている。
地上波でアニメ化すると発表された際、濡れ場シーンがどう描かれるかが気になった。SNS上でも、その場面を懸念する声が上がっている。今までアニメ化されてきた作品は、濡れ場シーンが少なく、ストーリーに重点を置いたものが多い。しかし、8月に地上波で放送されていた商業BL原作のドラマ『ポルノグラファー』では放送コードギリギリの描写が多々ある。その攻めた姿勢から、今後映像化されるBL作品の描写表現に期待してしまう。
公開された第1弾のPVを見る限り、原作の雰囲気に忠実であり、濡れ場シーンにつながるような描写も確認できた。アニメ作品でどこまで描かれるか、濡れ場シーンの多い作品がアニメ化されることによって、どうBL界に影響を与えるか、注目していきたい。(村瀬藍)