美しい殺陣に息を飲む 『散り椿』の岡田准一はジャニーズであることを忘れさせる
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9月28日、V6 岡田准一が主演を務める映画『散り椿』が公開された。この映画は不思議な映画である。
舞台は江戸時代、享保15年。過去に藩の不正を訴えたが認められず、故郷の扇野藩(という架空の藩)を出た剣豪・瓜生新兵衛(岡田准一)は、病に冒された妻・篠(麻生久美子)から最期の願いを託される。それは、新兵衛の昔なじみである榊原采女(西島秀俊)を助けてほしいというものだった。
しかし、采女の養父は新兵衛が離郷するきっかけとなった不正を行った張本人。新兵衛は複雑な気持ちを抱えるが、最愛の妻の願いを叶えることと不正の真相を突き止めるため、扇野藩に戻り、篠の妹・坂下里美(黒木華)と弟・藤吾(池松壮亮)と暮らしながら、不正の真相のために動き出す。その中で、里美は新兵衛に徐々に惹かれはじめたり、新兵衛は采女へ想いを寄せていたはずの篠の本当の想いを知ったりと複雑な人間模様も描かれるのだが、一方で新兵衛や采女の命を狙う力も働き始める。
一見すると、侍の生き様を切り取った時代劇なのだが、根幹には男女が惹かれ、想い合うラブストーリーが存在する。そして、時代劇としては前代未聞の全編オールロケで生まれた美しい映像が、物語を盛り上げる。これは単なる時代劇でもラブストーリーでもない、新しいタイプの時代劇映画と言えるだろう。
そんな傑作の主演を務める岡田は、着実に俳優としてのキャリアを積み上げてきてきたジャニーズ俳優の1人だ。昨今は、特に映画の出演が目立っているのではないだろうか。『SP 』シリーズや『図書館戦争』シリーズなどの比較的ポップなものはもちろん、歴史モノ作品への出演も増えており、実に幅広い活躍を見せている。直近では2017年に公開された『関ヶ原』での、鬼気迫る演技が印象的。その迫力は見事なものだったが、強いだけではなく時折見せる優しさや弱さも繊細に表現することで、人間味溢れる石田三成を蘇らせていた。
『関ヶ原』が「歴史好きが満足できる時代劇」だとすると、今回の『散り椿』は「歴史好き以外も満足できる時代劇」のように感じる。例えば、時代劇の醍醐味である殺陣。岡田の殺陣は力強くて美しく、終盤に刺客を切り倒していくシーンは思わず息を呑んでしまうほど。これには時代劇ファンも納得だろう。
そんな一方で、根底にあるラブストーリーからも目が話せない。新兵衛から篠へ、采女から篠へ、里美から新兵衛へ……。様々な場所で展開される愛の物語は、時代劇に精通していない人も十分に楽しめる内容で、中でも不器用ながらも確固たる信念を持っている新兵衛が、篠へ向ける真っ直ぐな愛情は切なさを感じるほどだ。
篠が采女に送った手紙で彼女の本当の気持ちを知った時の切ない表情や、自分を責めるような表情が作れるのは、さすが岡田准一である。殺陣、侍の風情、時代劇セリフの言い回し、愛情を表現する切ない表情、全てを巧みにアウトプットできるのは、様々な作品で演技力を磨いてきたからこそだ。実際、『散り椿』を鑑賞して「アイドルとは思えない」という感想を持った人も多いのではないだろうか。かく言う筆者も、エンドロールの「ジャニーズ」という文字を見るまで、岡田がジャニーズタレントということを忘れていたほどだ。
時代劇ファンも岡田准一ファンも満足させる演技力を持っている岡田は現在、12月7日にホラー映画『来る』、2019年には殺し屋を演じる『ザ・ファブル』の公開を控えている。両作とも『散り椿』とはガラリと違った作風。この先も、幅広い役柄で彼の演技を堪能しつつ、これまでになかった新しい“岡田准一”が見れることを楽しみにしたい。(リアルサウンド編集部)