GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーが語る、“0と100の間の世界”への関心「曖昧なものを掬い取りたい」
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メンバーチェンジを経て、2年ぶりとなるニューアルバム『Silence Will Speak』を完成させたGEZAN。レコーディングエンジニアにスティーヴ・アルビニを迎え、シカゴにある彼のエレクトリカル・オーディオ・スタジオで制作された本作は、これまでとは一線を画す新たな響きと衝動に駆り立てられたオルタナティブロックが詰め込まれた1枚だ。今回リアルサウンドでは、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo&Gu)にインタビュー。アルバムの制作についてはもちろん、楽曲にも反映されている価値観や思想の変化についても聞いた。(編集部)
「生まれてきた時代を間違えてきた」と言われる(笑)
一一先日のライブ(9月13日、新代田FEVER『on tabuz nine』出演:クリトリック・リス、THE NOVEMBERS、GEZAN)は新曲がメインでしたね。感覚は今までと違いますか。
マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒト):やっぱり新しい曲をやってる時が一番フィットします。昔からずっと、血とか身体が新曲と密接に繋がってる感じがあって。逆にモードじゃなくなった曲は、弾けるけどあんまり心が入らなかったりするから。いつも新しい曲のほうがやりやすいっすね。
一一アルバム単位で考えたら、前作の『NEVER END ROLL』から『Silence Will Speak』って物凄い落差がありますよね。
マヒト:そうですよね。でも理由はわからなくて……。自分はけっこう後追いというか、まず音楽が先に走っちゃって、理由とか辻褄が後から合ってくる感じ。だから、まず曲に引っ張られた感覚はありますね。
一一この曲調が揃ったからスティーヴ・アルビニだったのか、アルビニで録れると決まったからこういう曲が増えたのか、どちらに近いですか。
マヒト:あぁ、最初にアルバムのイメージが7割くらい見えたところで「アルビニでいきたい」と思って、で、メールで音源聴いてもらったらOKだったんで、残りの3割はそっちに寄せていったところがありますね。俺、ヒップホップのライブとかクラブにも遊びに行くし、むしろそっちのほうがよく行ってますけど、音だけでいえばベースミュージックのほうがレンジも広いし、コントロールしやすいし、何よりスピードも早い。バンドはもうスタジオに何回も何回も入らなきゃいけないし、比べると本当に動きが鈍くて。だからこそ、一番不自由な環境でやりたいなって。
一一不自由な環境?
マヒト:スティーヴ・アルビニは、そういうバンドの不器用さ、面倒な生き物の部分を尊重してくれる、息遣いみたいなものがちゃんと録れる人で。環境が不自由っていうのは具体的にもそうなんですね。オープンリールで録るから使えるトラック数も限られるし、オーバーダブも「この曲は一回だけ。ギター重ねたらもうベースは録れない」とか具体的に制限があって。それで早送り、巻き戻しをしながら、重ねるタイミングもスティーヴの指ひとつで決まるみたいな。すごくアナログなやり方だけど、そこでしか掬い取れない温度感はあって。そこを無視して綺麗なもんとして扱われると「え、打ち込みでいいじゃん」って俺も思っちゃう。この温度感がなくなったら、バンドやってる意味がないかなって気がしてますね。
一一そういう考え方は初期からあったものなんですか。
マヒト:そうですね。けっこう昔っから「生まれてきた時代を間違えてきた」みたいに言われますけど(笑)。一番最初に言われたのが阿木譲っていう『ロック・マガジン』を作った評論家/編集の、大阪の名物おじさん。その人にはバンドやる前くらいから、よく「生まれてきた時代を間違えてる」って言われてましたね。それはGEZANのメンバー4人ともあって。大阪でバンド始めたけど、もともとあった関西ゼロ世代みたいなシーンに馴染めなかったし、かといってすぐに繋がれる友達もいなかったんで。大阪だけど大阪じゃない感じ。それは東京来てもあんま変わってなくて。ちょっと根無し草というか、今の時代とかシーンにも違和感があるんですね。異物感みたいなものが消せない。
一番大事なものを壊したくなる気持ち
一一GEZANのいるシーンというのも曖昧で。大きくいえばオルタナティブなんだけど、まぁ初期はジャンク寄り、近年はよりメロディアスなパンクやロックンロールをやっている印象がありました。
マヒト:あぁ、そうですね。
一一だから今回、ここまで重いビートの、エクストリームな曲が一気に増えたことが面白くて。
マヒト:うん………いまいち何に突き動かされてるのか自分でもわかんない。なんですかね? お腹の中にいるバケモノみたいなものに遊ばれてる感じというか。そういう感覚はずっとあるんですよね。上手い見せ方を考えていけば、変化だってもう少しなだらかなほうが付いてきやすいのかもしれないけど。だって「Absolutely imagination」の次のMVが「NO GOD」なんで……それは確かにアレですよね?
一一(笑)。叫ぶ曲が増えた理由って思い当たります?
マヒト:わかんないっす。ただまぁ唄い方に関しては、今東京に住んで生活してますけど、言語化するよりは一言「アーッ!」ってシャウトしちゃったほうが全部を象徴できる気がして。今までは歌詞を書く時「言葉にできないことを言葉にしたい」っていうことを考えてたんですけど「もう言葉にしなくていいじゃん」みたいな。そのまま叫べばいいし、アルバムの始まりは絶対声からにしたいなって。それは唯一このアルバムで最初から決めてたこと。だから(一曲目の)「亡炎」も、まず声が先に来るように変わっていって。理由の説明じゃないもの、ただの答え、みたいなものから始めたかった。それは今回のひとつのコンセプトかもしれないです。
一一もう獣の音ですよね。理性ってものが何の役にも立たないところにいきなり放り込まれるようで、聴いてて怖くなります。
マヒト:うん……自分でもたまにね、怖いですよ。「何考えてんだよこの人は」って気分になりますね(笑)。
一一そのお腹にいるバケモノみたいなものは、マヒトさんの脳みそとは違うんですか。
マヒト:脳みそとは絶対違います。仲良くしたいなぁとは思うんだけど、ほんとによくわかんない。あの、俺コーヒーカップ集めるのが好きで、すごい綺麗な、一番お気に入りのコバルトブルーのやつがあったんですね。大阪時代はみんな同じアパートに住んでたけど、その屋上から、そのコーヒーカップ投げて割っちゃったんですよ。全然哀しいとかそういう感情もないのに。そういう気持ちってあります?
一一ないです、私は(笑)。
マヒト:理由はわかんないけど一番大事なものを壊したくなる気持ちというか。そういうのが昔からあって。ちっちゃい頃でいうと、両親がまだ仲良かった時……小学校の1〜2年ですけど、結婚指輪がリビングのところに置いてあって。それほんと何の理由もなくポケットに入れて持ってって、ドブに捨てたんですよ。それもまったく理解できなくて、未だに。
一一……悪いことしてるなぁ、みたいな気持ちもないんですか。
マヒト:いや、無です。あれはほんとにGEZANをやってる理由に近いかもしれない。
一一……わからないけど、なんか納得します(笑)。
マヒト:これ、上手くまとめられることでもないんですけどね。でも理由はついてないけど自分の身体が求めてることがあって。同じくらい、理性とかルールに縛られて選択してることがたくさんあって。それは生活してく中である程度必要なことですけど、なんか黒と白だけじゃない、悪魔と天使だけじゃない、もっと曖昧なものを掬い取りたいとは思いますね。それはもうポップスっていう概念では回収できない部分。僕らはせっかくオルタナティブなことをやってるわけだから、そこでしか掬えない感覚ってあると思うんですね。
一一「忘炎」で歌っていることですよね。〈持ってちゃいけない感情なんてない〉と。
マヒト:そうですね。今はすごくシビアな時代で、言葉の選択もひとつ間違えると大炎上するし、もちろん言うべきじゃないこともいっぱいあるけど。でも本来、本当に持ってちゃいけない感情はないし、それをないことにすべきじゃない。その使い方に想像力があるかどうか、だと思うんですけどね。
一一この曲は〈エンドロールの終わり/今はロスタイム〉という言葉から始まりますが、何が終わるという感覚なんでしょうか。
マヒト:や……明らかにおかしいですよね? この夏の異常気象とかも。あとは音楽業界も、メディアもそうだし。もっと大きな地球規模の範囲でも、ごく身近な生活の範囲でも、いろんなものが破綻してる感じがする。それがなくなったら困る人たちが、頑張って延命に延命を続けてきたけど……そうやって守ってきたものにどれだけ意味があるのかも怪しいし。まぁ勘のいい人はずっと気づいていたと思うんです。これは陰謀論とかじゃなくて。
一一はい。陰謀論でも終末思想でもないけど、皮膚感覚でそういうことを感じるのはわかります。
マヒト:もろちんね、このアルバムが出て一回ライブをやれば、世界のすべてが入れ替わるような一一そんな安い映画みたいなことは起こらないんです。でも少なくとも、これからの時間の使い方、自分の感覚とか嗅覚なら今からでも選んでいける。そういうことに対する警鐘、警告というか。まぁ「自分たちは今あるルールとか勝負から一抜けさせてもらいます、その代わり好きにやらせてもらいます」ってことですよね。これが自分たちの常識だし、大事なのは「何をクールと呼んで生きるか」「どういう自分で終わるか」っていうことで。そういうことをずっとGEZANで警告してる感覚はありますね。
極端な二者の合間にある曖昧なもの
一一「細光胞/DNA」では〈革命ごっこは終わった〉という言葉も出てきます。革命って、まぁ何十年も前からロックバンドが口にしてきたテーゼですが、自分たちがやっているのはそういうものではない?
マヒト:そうですね。いわゆる革命らしい革命、何か物事が変化していく時って反対側も生まれますよね。カウンターとしてぶつかっていく側も、結局また体制みたいな大きいものになって、また次のカウンターが生まれて。その繰り返しの中に組み込まれるつもりはなくて。だったら自分の思う本当の意味の革命って……まぁ毎月花を買って、水も入れ替えて、部屋にちゃんと花を飾る。そっちのほうが俺にとっては革命なんですよね。本当なら政治って言葉とかもそんなふうに使われるべきだと思っていて。
一一どういうことでしょうか。
マヒト:テレビや新聞に出てくる政治家の顔とか、そういうものが浮かぶのが政治ではなくて。もっと毎日の暮らしの中の、友達とか好きな人が浮かんでくるほうが政治だと思う。革命っていう言葉とは真逆に思えるかもしれないけど、部屋に花を絶やさないとか、コンビニまで行く道もちょっと遠回りして散歩しながら歩くような。そういう選択を持つことのほうが革命的だし、それを歌えることが今の自分にとって一番の優しさかなって思ってます。
一一アルバムの前半はまさに世界が終わっていくような轟音ですけど、後半になると優しさや寂しさ、言葉にならないけど忘れたくない気持ちとか、そういうテーマに変わっていきますよね。
マヒト:そうですね。時代のスピードって凄まじくて。たとえば10年前は優しさとされていたことが今はもう優しさではなかったり。10年前に笑えてたことが今は笑えなくなってたり。それはとんねるずとかダウンタウンもそうで。なんか、背景や時代が変わっていくと優しさの意味も変わらざるを得ないんですよね。今ここで歌ってる優しさも、10年後には暴力になってるかもしれない。だから……音の変化に関しては、自分の変化じゃなくて時代が変わったっていうほうがしっくりくる。
一一価値観が激変しているのは事実ですけど、マヒトさんはなぜ、優しさの意味、というところに着目するんでしょうか。
マヒト:うーん、それをずっと歌ってきたつもりなんですね。あの、eastern youthの「素晴らしい世界」っていう曲がすごく好きで。タイトル通り〈命かけて笑えるなら素晴らしい世界〉って歌ってるじゃないですか。吉野(寿)さん、あんだけ怒り狂ってて批評性も鋭いし、世の中のヘイトな部分がいっぱい見えちゃう人が、それでも歌では「素晴らしい世界」と歌い切る。パーセンテージの話じゃないですよね。6:4で世界は素晴らしいと思ってるから歌うんじゃなくて、9割は「最低だな」って言いたくなることばっかりの世界でも、残りの1割で「素晴らしい世界」って歌にする。それを俺はすごく綺麗だなと思っていて。なんかこう……本音で「素晴らしい世界」って思えてるかは疑問だけど、でも音を鳴らしてる間はそういう世界であってほしいっていうスタンスを選べる。そういう自分でいたいなって思うんですね。俺が優しさを見てしまうのって、そういうところかもしれないです。
一一紐解いていくと、すごく個人的な選択の話に収斂していきますよね。逆に不思議なのが、その感覚が〈世界の終わり〉とか〈ニューワールド〉という大きな言葉になっていくことで。
マヒト:なんか、さっきも言った、革命っていう言葉と部屋に花を飾ることがリンクする話と一緒だと思うんですけど、自分の内側のものと、宇宙的な規模のことがリンクしてるような感覚があって。ミクロもマクロも突き詰めていけば同じところに向かうというか。個人的なことだから、少数だから、それは世界とは関係ないとは思ってないんですね。人が増えていくと「ひとり」が「みんな」って言葉になり、もっと大きくなると「シーン」とか「時代」になっていくんですけど、俺はそこに段階があるとは思ってなくて。もちろんメディアが作りたい時代のカラーはあって、そこに寄り添って大多数は進んでいくと思うんですけど、そういう多数決はもういいのかなって。
一一どういうことですか。
マヒト:いろんなモノを知れば知るほど答えが遠のいてくこともあって。正義とか正解の形も、ひとつあれば幸せだったのに、二つあることで迷いが出てくるし、それが百になったらもう信じるものが何もなくなるかもしれない。何が勝つか、何が成功かは、この先もっとオリジナルになっていくだろうし。そのヒントは個人の中にあると思うんですね。自分自身の曖昧な感覚を自分が尊重してあげられるかどうか。
一一「みんな」で考えていくとわからなくなってしまうもの。
マヒト:そう。やっすい学園ドラマにあるセリフですけど「先生は、優等生の子と不良の子、そのどっちかにしか興味がないんだから!」みたいな。それはけっこう的を射てて。テレビのニュースでもヒーローか犯罪者か、極端な二者が取り上げられるだけで、その合間にある曖昧なものはカットされていく。でも、そういう人たち一人ひとりも当然映画になると思うし、絶対に面白いと思うんですよね。自分としては、そういうものにピントを合わせていきたい。エクストリームなアルバムだとは思いますけど、0と100の間の世界の話です。
(取材・文=石井恵梨子/写真=稲垣謙一)
■商品情報
GEZAN『Silence Will Speak』
●LP先行発売
2018年9月26日発売
¥3.000(税込)
●CD
2018年10月3日発売
¥2.300(税込)
01. 忘炎 / forgotten flame
02. 無神 / NO GOD(know?)
03. 肉体異詩 / BODY ODD
04. 懐かしい未来 / Nostalgic future
05. 龍のにほい/ smells of unbelivable
06.優陽 / red kind
07. 淡赤 / Ambient red