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初登場5位『クワイエット・プレイス』にみる、「ネタバレしてはいけない作品」の境界線

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リアルサウンド

 先週末の映画動員ランキングは、人気深夜アニメの初映画化作品『劇場版 夏目友人帳 〜うつせみに結ぶ〜』が、土日2日間で動員11万7000人、興収1億7200万円をあげて初登場1位に。数字自体はそこまでインパクトがあるものではないが、全国136スクリーンでの公開であることをふまえると、1スクリーン当たりの動員数はかなりのハイレベル。久々にアニプレックス配給作品のヒット・パターンの王道にハマった作品の登場となり、今後の伸びも大いに期待できる。公開3週目で1位の座を明け渡した2位の『プーと大人になった僕』は、土日2日間で動員11万1000人、興収1億5500万円。累計では動員115万人、興収15億円を突破した。

 今週注目したいのは、5位に初登場した『クワイエット・プレイス』。全国194スクリーンでの公開で、土日2日間で動員8万2000人、興収1億1200万円、初日の金曜日からの3日間では動員11万1000人、興収1億5000万円という成績。近年、『イット・フォローズ』、『ドント・ブリーズ』、『ゲット・アウト』などを筆頭に、低予算作品ながら全米で大ヒットを記録するホラー映画が相次いでいるが、今年4月に全米公開されて初登場1位となり、超人気番組『サターデー・ナイト・ライブ』でチャイルディッシュ・ガンビーノ(=ドナルド・グローバー)がパロディを披露するなど、社会現象となった本作もその系譜にある作品。配給の東和ピクチャーズによると、日本でも若い世代のカップルや友達連れの観客が目立っているとのこと。つまり、昨年の秋に日本でも大ヒットを記録した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の観客層とも近い傾向を示している。

 と、ここまで「ホラー映画」という文脈で『クワイエット・プレイス』について話をすすめてきたが、本当にこれはホラー映画と言っていいのだろうか? 一応、日本の配給サイドも「サスペンスホラー作品」という言葉を使ってはいるが、作品を観た人ならば、本作を語る上でそれとは別のジャンル名を挙げたくなる人も少なくないのではないか。

 「低予算作品(といっても、『クワイエット・プレイス』はハリウッドの人気女優エミリー・ブラント主演の正真正銘のハリウッド映画ではあるが)ながら大ヒット」、「ホラー映画のようでホラー映画ではない!?」といった本作の特徴を並べてみた時、ふと思い浮かぶのは公開15週目にして先週末も前週に続いて7位にランクインしている日本映画の『カメラを止めるな!』のことだ。念のために言っておくと、『クワイエット・プレイス』と『カメラを止めるな!』は、テイストも仕掛けもまったく異なる作品だ。しかし、観た後に批評家も含めすべての人に「これは絶対にネタバレしちゃいけない作品だ」と思わせる点において、この二つはとてもよく似ている作品と言ってもいいだろう。

 映画におけるネタバレ問題。これは、別に今に始まった話ではなく、映画好きの間では昔から「どこまでがネタバレじゃなくて、どこからがネタバレか」という議論が盛んにおこなわれてきた。そこでは、かつての淀川長治氏の解説がしばしばそうであったように、「ネタバレをしても聞いた人(読んだ人)に作品を観たいと思わせるのが名解説」という見解もあり得る。もっとも、そこまで踏み込ためには、相当の評者としての実力と(多くの場合、知名度からくる)説得力が必要であり、わざわざその火中の栗を拾うような批評家は今はほとんどいないわけだが。

 また、前提として能動的にこちらが情報を受け取るテレビやラジオや新聞や雑誌と違って、ネットが普及してからは、不意にネタバレを目にしてしまう機会が飛躍的に増えたことも考えなくてはいけない。なにしろ、一般公開前はともかく、今では作品が公開された瞬間から、観客の誰もがネットの掲示板やソーシャル・メディアで情報を発信することができ、もしそこに悪意や悪戯が介在すれば、あっとういう間に拡散してしまうことも可能なのだ。

 どちらも、ある意味ではワン・アイデア映画(もちろん、それを長編作品として成り立たせるためには優れた演出や編集が不可欠なわけだが)と言える『カメラを止めるな!』と『クワイエット・プレイス』。両作品のヒットの大きな理由の一つとして、ネット情報が社会のインフラと化した現代ならではの、「絶対にネタバレしてはいけない」という心理的プレッシャーを受けた観客の反応が、結果的に作品をまだ観ていない人への期待感を煽ることになったことが挙げられるだろう。

 そういう意味では、昨年の『IT』の日本での「“それ”が見えたら、終わり。」というサブタイトルも秀逸だった。『クワイエット・プレイス』の宣伝コピーは「音を立てたら、即死。」。それは暗に「ネタバレしたら、即死。」という作品からのメッセージとしても機能している。1977年に日本で流行語にまでなった『サスペリア』の宣伝コピー「決して、ひとりでは見ないでください」の時代から、日本でのホラー映画のヒットには、優れた宣伝コピーが付き物なのだ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『クワイエット・プレイス』
全国公開中
監督・脚本・出演:ジョン・クラシンスキー
脚本:ブライアン・ウッズ、スコット・ベック
製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
キャスト:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://quietplace.jp/