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ホアキン・フェニックス版、来秋米公開! 改めて振り返る“悪役ジョーカー”の歴史と高い人気の秘密

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リアルサウンド

 先日、アメリカに行った時に、ヒース・レジャー版のジョーカー(『ダークナイト』)が
プリントされたTシャツを着ていました。その時に空港の職員の方から「ジョーカーが好きなのか? 新しいジョーカー役が誰か知っているかい?」と話しかけられました。「ホアキン・フェニックス」と僕が答えると、その人は嬉しそうに笑いました。来年秋に米公開される映画でフェニックスがジョーカーを演じると発表され、エンタメ系メディアの間で話題になっていた時でした。

 ジョーカーはアメコミ・ヒーローのバットマンの敵なわけですが、今度のフェニックスの映画はバットマンの映画ではありません。なんとジョーカーを主役にした、その名も『ジョーカー(原題)』という作品なのです。つまりジョーカーは“バットマン物に出てくるキャラの1人”という枠を超え、自身が主役を張れるぐらいの人気キャラということです。ジョーカーはアメコミ史においても1、2位を争うぐらいの、スーパー人気ヴィラン(悪役)ですが、『ダークナイト』で故ヒース・レジャーが演じ、アカデミー賞を獲ったことで、映画史においても『羊たちの沈黙』のレクター博士や『スター・ウォーズ』のダース・ベイダー級の悪役になったと思います。だから先ほどの空港職員の人もアメコミ・ファンではなく映画ファンである可能性も高いわけです。

 もともとジョーカーは、1940年のコミック『Batman #1』でデビューしました。この号には5つのエピソードが収録されているのですが、”The Joker”と”The Joker Returns”とジョーカーについては2編載っており、ジョーカーを推していたことがわかります。当時の資料などを読むと、「人気の出てきたバットマンに対し、それ相応のすごい悪役を出そうということになった。しかしギャングや悪の科学者系はもう登場しているので、一目見てそれらと異なりハっとする顔がいい。基本、バットマンは黒いし無表情で夜のシーンが多いので、そこに白くて大きく笑っている、いかにも邪悪な奴がいい」と書いてあります。そうした狙いからジョーカーが生まれたそうです。

 この『Batman #1』を見る機会があったのですが、ジョーカーは扉ページから登場! 緑の髪、白い顔、紫のジャケット、なによりも大きくあいた口と、邪悪そのものの目つき、というジョーカー像はすでにこの時に確立しました。手にトランプを3枚持っていて、バットマンとロビン(バットマンの相棒)が書かれたカードの間にババ(ジョーカー)をはさんでいます。トランプのジョーカーを意識していたことがわかります。また物語の中でも、予告状を出して宝石を盗むがその際、毒ガスを流して相手を殺す。しかもそのガスを吸った者は、ニヤケた顔の死に顔になる、というとても残酷な手口を使います。

 当時こういう言葉があったかわかりませんが、ジョーカーは劇場型のサイコパスであり快楽殺人者なのです。ジョーカーが人気を博した理由は、ストイックなバットマンに対し、なににも縛られるず思うがままに犯罪をくりひろげる、その自由さでしょうか? 彼は、犯罪こそ最高のユーモアと考える、狂える天才です。彼に惹かれるのは、そこに危険な憧れを感じてしまうからかもしれません。例えばあなたが役者だったら、バットマンよりジョーカーの方を演じてみたいと思いませんか? その方が楽しそうですよね(笑)。

 50年代ごろコミックにおける過激な表現への規制が生じ、60年代のテレビドラマシリーズではコミカルなジョーカーが登場したので、ジョーカーは“白塗りのイタズラ好きの愉快犯”のイメージがしばらく続きます。しかしその後、コミックの方でもジョーカーの狂気が復活し始め、ティム・バートン監督の『バットマン』(89)に登場したジャック・ニコルソン演じるジョーカーが怖いジョーカーのイメージを取り戻しました。

 当時の製作陣のコメントで「今度の映画に出てくるジョーカーは『エルム街の悪夢」のフレディ並みに怖くする」とあり、まさにその通りの怪人としてジョーカーは『バットマン』(89)に登場します。またこのあたりから、ジョーカーとバットマンは“コインの表と裏のような対(つい)の存在”であると描かれるようになってきました。それからは、新たな視点でバットマン伝説を描き直す『ダークナイト』でレジャー版のジョーカー、そして『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レト版のジョーカーが登場します。

 どのジョーカーがいいか好みはわかれるところです。まず大前提として、僕はどのジョーカーも好きです。この3人のフィギュアを持ってますから。その上であえて3者を比較すると、ニコルソン版は毒ガスを使うとか、大げさな仕掛けや武器で狂気のバカ騒ぎをするなど、コミックのジョーカーには近い気がしますが、一方僕はジョーカーはスリムなイメージがありそういう意味でレト版の方があっていると思うのです。ただレト版は、狂える恋人ハーレイ・クインとペアで描かれるので他の2人に比べ、人間味やかわいげがあります。実際、ハロウィンでもこの2人の仮装をするカップルが多いですよね。

 レジャーのジョーカーはビジュアル的には他の2人より、コミック版のイメージとは異なるのですが、ジョーカーというキャラの持っている底知れぬ怖さを見事に表現していたように思います。『ダークナイト』ではジョーカーの“過去”(ニコルソン版は誕生秘話が描かれている)や“プライベート”(レト版はハーレイ・クインとの関係)が一切描かれず、こいつがどういう奴なのかは、ひたすら観客の想像に任せられています。要はどうやっても理解・コミュニケートできない存在です。

 ニコルソン版のジョーカーは大虐殺を企て物理的に街を攻撃するのですが、レジャー版は市民の心を狂気と恐怖で汚染していきます。レト版は、とにかく自分の好きなようにやりたいという感じで(笑)、ニコルソン版、レジャー版ほど大それたことは考えてはいないのです。

 映画としても、ニコルソン版はバットマンの敵、レト版はハーレイ・クインの相手役ですが、レジャー版はジョーカーこそが主役であり、バットマンがその敵に描かれているという構造です。今回のフェニックス版『ジョーカー(原題)』は、若き日のジョーカーをテーマにしているそうですが、ジョーカーを主役として描くレジャー版と、ジョーカーの過去を描くニコルソン版、そしてプライベートを描くレト版すべてにチャレンジした作品になりそうです。きっとフェニックス版のジョーカーのフィギュアを買うことになるでしょう(笑)。それほど期待してしまうのです。(杉山すぴ豊)