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沖縄と台湾の間で揺らぎ続けた女性と“忘れられない記憶”に迫る映画公開

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「緑の牢獄」ポスタービジュアル

沖縄を拠点に活動する黄インイクの監督作「緑の牢獄」が3月27日に沖縄・桜坂劇場で公開。4月からは東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場など全国で封切られる。

黄インイクが7年の歳月を費やし完成させた「緑の牢獄」。前作「海の彼方」に続き、台湾から八重山諸島に渡った“越境者”たちとその現在が独自の視点から描き出される。

カメラが追うのは、台湾から養父とともに沖縄・西表島に渡り、人生のほとんどをこの島で過ごした女性・橋間良子の88歳から92歳までの軌跡。彼女の穏やかな日常を記録する一方で、かつて繁栄した炭鉱にまつわる暴力、伝染病、麻薬といった負の歴史や、彼女の記憶に焦点を合わせていく。YouTubeでは予告編が公開中だ。

黄インイクは本作について「沖縄がもつ特殊な近代史を遡ると、彼女がこの帝国と植民地の辺境で経験したトラウマや、常に日本と台湾で“移民”や“部外者”として生きた傷跡が感情的に絡み合い、そのほどけない結び目と本作では向き合ってきました」と説明。また映画監督の河瀬直美は「死をこんなにも美しく、不在をこんなにも豊かに描ける作家がここにいる」とコメントを寄せた。そのほかの著名人によるコメントは以下に掲載している。

※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記

黄インイク コメント

私は大きな歴史の中に埋もれる個人的な歴史に焦点を当ててきました。沖縄がもつ特殊な近代史を遡ると、彼女がこの帝国と植民地の辺境で経験したトラウマや、常に日本と台湾で“移民”や“部外者”として生きた傷跡が感情的に絡み合い、そのほどけない結び目と本作では向き合ってきました。

河瀬直美(映画監督)コメント

何もない空間に、確かにある気配を映し撮る撮影者の息遣い。それは、過去や未来の時空を超えて、永遠となる。老婆の顔に染み付いたシミの跡は、人生の軌跡。

四方田犬彦(映画史・比較文学研究家)コメント

「緑の牢獄」を観終わってただちに思い出されたのは、溝口健二「山椒大夫」の結末部であった。歴史から追放され、置き去りにされた人たちが、歴史の証人となる。恐るべき緑のなかの、貴重な静寂である。

ウェイ・ダーション(映画監督)コメント

その場所は、「緑の牢獄」と呼ばれた。あまりにも美しい森だが、過酷な作業環境で石炭を掘り、彼らの姿はいかにも哀れであった。そして肉体だけではなく、魂さえも囚われた。

野嶋剛(ジャーナリスト)コメント

日本と台湾の中間地帯であり、炭鉱のある西表島で人生の大半を送った台湾出身者、橋間良子さん。流暢な台湾語と、少しどたどしい沖縄なまりの日本語。彼女の言葉は、その間をゆらゆらと行き来する。その不自然さこそ、西表島に取り残された「最後の台湾人」の存在を物語っている。故郷を失い、「緑の牢獄」の囚われ人になった彼女の運命は、幸福や不幸といった言葉では簡単に片付けられない。時代の流れに巻き込まれた漂流者の姿に私たち観客は視線を釘付けにされるはずだ。

一青妙(作家・役者)コメント

西表に生きた台湾の同胞たち。石炭が光り輝いた時代に生きた彼らは、時代に取り残されたかもしれないが、「台湾」は確かに島に存在した。橋間おばあは、その生き証人。この貴重な記録映像は彼女の魂の声であり、見る者の心に、静かに、重く響き渡る。

三木健(ジャーナリスト)コメント

西表炭鉱の最後の残り火が消えた。生まれ故郷の台湾から、炭鉱労働者の管理人の養女として海を渡ってきた橋間良子(旧名・江氏緞)にとって、西表はやはり「緑の牢獄」であり、彼女はその犠牲者であった。戦後、「牢獄」から解き放たれた彼女に、もはや帰るべき故郷はなかった。

安田菜津紀(フォトジャーナリスト)コメント

この映画は、過酷な土地の記憶を刻んだ記録であると同時に、「故郷」から切り離された人々の物語でもある。

李琴峰(作家・翻訳家)コメント

鬱蒼と茂る森林、果てしなく広がる海原。陽射しが燦々と照りつける美しい秘境に隠されているのは、極東の島々に連なる暗い歴史。最後の証言者が世を去った後、それを記憶し、語り継ぐのはきっと、芸術の使命だと思う。

(c)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.