相川奏多、楠木ともり、斉藤朱夏、矢野妃菜喜……野島伸司脚本『ワンダーエッグ・プライオリティ』の世界で戦う女性声優たち
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野島伸司が原案・脚本を手がけていることでも注目のアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(日本テレビ系、以下『ワンダーエッグ〜』)。主人公の大戸アイをはじめとした4人の主要キャラクターを、相川奏多、楠木ともり、斉藤朱夏、矢野妃菜喜という勢いのある若手声優が務めていることでも話題だ。若者たちが心に抱える問題をリアルに描写することを得意とする、野島伸司が描く少女たちの青春群像劇。その中で瑞々しい光を放つ、4人の声の演技に注目が集まっている。
10代が抱える悩みをアニメならではの手法で表現
『ワンダーエッグ〜』は、90年代に流行したトレンディドラマの請負人として『愛という名のもとに』や『ひとつ屋根の下』(ともにフジテレビ系)など、数多くのドラマ脚本を手がけてきた野島伸司。『家なき子』(日本テレビ系)など名作と呼ばれるヒットドラマを数多く生み出す一方で、TBSで放送された『高校教師』『未成年』『聖者の行進』など、ショッキングな社会問題をテーマにした作品で物議を醸すこともあった。そうした重厚感溢れる物語に起用されていたのが、香取慎吾、KinKi Kids、いしだ壱成、反町隆史など当時の人気若手俳優たちだ。重いテーマ性と役者の瑞々しい演技が相乗効果を生み、それらのドラマをライトな感覚で見ることがエンターテインメント作品たらしめていたと言える。
『ワンダーエッグ〜』もまた同様で、4人の少女たちがワンダーキラー(敵)と戦うシーンは疾走感があり、カラフルでファンタジックに描かれているものの、その一方で彼女たちが心に抱えているものは実に重く生々しい。物語が進むにつれ、彼女たちの悩みも少しずつ浮き彫りになり、その心情と作画とのギャップがSNSでも話題となっている。『ワンダーエッグ〜』は、問題意識の高いテーマ性はそのままに、アニメという自由度の高い表現方法で描かれることによって、口当たりは爽やかではあるが何とも言えない後味を残す、野島伸司イズムの新たな表現の場になっている。
野島伸司のドラマにおいて当時のフレッシュな顔ぶれが担った瑞々しさやライトな感覚は、このアニメでは高橋沙妃による愛らしいキャラクターデザインと、相川奏多ら4人の声優が背負っている。
4人の声優と「巣立ちの歌」が与える、他のアニメにはない空気
主人公の大戸アイを演じるのは、現在16歳の相川奏多。ミュージックレインの3期生で、アニメ『IDOLY PRIDE』(TOKYO MXほか)ではドジでいじられやすいお嬢様=成宮すずを演じている。黄色いパーカーがトレードマークのアイは、見た目には明るいがイジメに遭った親友の(長瀬)小糸ちゃんの死に責任を感じていた。そんなアイを相川は、変に大人びることもなく、初々しく演じあげている。どこか人見知りな雰囲気も実にアイらしく、友達のために必死で戦うアイの姿からは健気さも伝わってくる。
『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の優木せつ菜役でも人気の楠木ともりが演じるのは、死んだ妹を生き返らせるためにワンダーキラーと戦う謎めいた少女、青沼ねいる。14歳ながら会社の社長であり、いつもクールで静かだが物言いはストレート。最初はアイに対して冷たい態度を取っていたが、ワンダーエッグを通して少しずつ心を通わせる。回を追うごとに心を開いていくねいるを、楠木は繊細な演技で表現。今後もどんな新しい表情を見せてくれるかに注目だ。
元ジュニアアイドルでどこか擦れた感じのあるヤンチャ系少女の川井リカは、『ラブライブ!サンシャイン!!』の渡辺曜役で知られる斉藤朱夏が演じる。注目なのは、心の奥底にはっきりとした芯を持ちながら、表面的には世間を見下した感じを装う、表裏があるリカの感情を絶妙に操る斉藤の声と演技だ。斉藤の代表キャラクターである渡辺曜とは真逆のキャラクターだが、持ち前のハリのある声色と明るさでリカを見事に演じ上げている。
そしてボーイッシュな少女、沢木桃恵を、私立恵比寿中学の元メンバーで『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の高咲侑でも知られる、矢野妃菜喜が演じている。見た目と穏やかな優しい口調が特徴の桃恵だが、中身は悩み多き少女であり、そのアンバランスな役どころを矢野は巧みに熱演。自分の殻を破ろうとする桃恵に、渾身の演技で挑んでいる。
また相川ら4人は、音楽ユニットのアネモネリアとして同アニメのオープニングテーマ「巣立ちの歌」とエンディングテーマ「Life is サイダー」を歌っている。「巣立ちの歌」は1990年まで小中学校の卒業式でよく歌われた合唱曲のカバー。野島作品と主題歌の関係性として、かつてはドラマ『高校教師』で森田童子「ぼくたちの失敗」を起用したように、「巣立ちの歌」もアニソンらしからぬ神聖さで他のアニメにはない空気感を与えている。
14歳の少女たちが自分の心とどう向き合い、どう問題を解決していくのか。野島節とも言える行間を読むようなナイーブさのあるセリフとそれを彩る音楽、そして4人の瑞々しい声と演技。それらがセットになることで『ワンダーエッグ・プライオリティ』は、アニメの枠を越えた表現作品として成立している。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。