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『あの頃、君を追いかけた』には齋藤飛鳥の“成長”が刻まれている 真愛と重なる等身大の演技

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リアルサウンド

 “あの頃”と言われ、人はどのような過去を思い出すだろう。楽しかった青春の日々、思い出したくもない苦い毎日……今を生きる人それぞれにあの頃の記憶がある。〈あのころの未来に/ぼくらは立っているのかなぁ〉とは、SMAP「夜空ノムコウ」のあまりにも有名なフレーズで、過去があったからこそ今の自分があるという考え方は、自身を肯定する最も簡単な方法の1つだ。

参考:齋藤飛鳥が明かす、初出演映画で感じた乃木坂46の活動との違い「最初はなかなか掴めませんでした」

 主演に山田裕貴、ヒロインに齋藤飛鳥を迎えた映画『あの頃、君を追いかけた』は、ある青春の1ページを“あの頃”として提示する。水島浩介(山田裕貴)、早瀬真愛(齋藤飛鳥)、どちらか一方を“君”として、過ごした・過ごせなかった、もしくはこれから訪れる恋愛を2人に投影するだろう。キャッチフレーズ「たかが10年の片想い」から溢れるのは、10年間という月日が決して無駄ではなかったという今への肯定だ。

 2011年、200万人を動員し大ヒットとなった台湾映画を同名作として、舞台を日本に移した本作。キャスト陣の中でも注目は、やはり映画初出演にしてヒロイン役に抜擢された齋藤だろう。乃木坂46の1期生としてデビューした齋藤は、今でこそ白石麻衣、西野七瀬と並ぶ、グループを代表する顔であるが、アンダーメンバーを経験し、選抜メンバー、単独センターへと徐々に上り詰めていった苦労人でもある。

 初センターとなったのは、15枚目のシングル『裸足でSummer』がリリースされた2016年7月。翌年の2017年5月から6月までは舞台『あさひなぐ』の主演を、10月には映画『あさひなぐ』の主題歌でもある19枚目シングル『いつかできるから今日できる』で、西野とともにダブルセンターを務めた。そして、今年2018年8月に齋藤は21枚目シングル『ジコチューで行こう!』で再び単独センターを務め、グループ最大規模のドーム、スタジアムツアーの先頭をひた走った。齋藤は、毎夏大きな“試練”とも言うべき壁を越え、現在のグループ位置に立ってきたのである。泣いてばかりだった一昨年のツアーから、今年はほかのメンバーを気遣う余裕をも見せた齋藤。1期生最年少だった彼女が、8月には20歳を迎えグループを支える柱の1人として存在している。齋藤の見違えるほどの成長は、誰もが認める事実だ。

 その成長の背景には、『あの頃、君を追いかけた』での演技経験が大きなきっかけとしてあったのではないだろうか。というのも、今作の撮影時期は、2017年9月27日から10月25日までの23日間と、舞台『あさひなぐ』と『いつかできるから今日できる』の間にあったからだ。かつて生駒里奈がグループを飛び出し、1人出演した舞台が大きな経験となったように、齋藤にとっても今回の映画初出演は考え方すらも変えるほどの大きな糧となり、グループの中の自分の立ち位置が客観的に見えたはず。舞台『あさひなぐ』では、小さな身体で薙刀を持ち、会場全体に届くようなダイナミックな演技が求められたが、『あの頃、君を追いかけた』は繊細な表情の移り変わりで心情を表現しなければならない。齋藤演じる早瀬真愛は、有名な町医者の娘で学校一の優等生。冷静かつ淡々としたその性格は、実際の齋藤とイメージはかなり近い。

 本作のクライマックスは、劇中の後半にやってくる真愛の思いが明かされるところだろう。あの頃には時間は戻らない。やり直すこともできない。違う未来もあっただろう。けれど、あの頃があったからこそ今の自分がいる。自然とそう思えるのは、きっと2人のあの頃が一生懸命に輝いていたからだ。その2人の始まりとも言えるのが、教科書を忘れた真愛に浩介がそっと教科書を渡し、代わりに教師から怒られるシーン。感情の起伏がなく穏やかだった真愛は、そこから浩介に興味を示し始める。「幼稚」という真愛のキラーフレーズや青のボールペンで浩介の右肩をつつく仕草など、生粋のドSキャラでもある齋藤と真愛の似通った部分は多くある。中でも浩介との心の距離をだんだんと縮めていくが、どこか天邪鬼な真愛の在り方が、最も齋藤の等身大の姿を彷彿とさせた。徐々に笑顔が自然になっていくその様は、仲良くなっていった制作陣との絆だけでなく、齋藤自身の演技の表れだ。

 『あの頃、君を追いかけた』は、2017年の齋藤という“あの頃”を内包した作品でもある。これから先、乃木坂46の齋藤飛鳥としても、1人の齋藤飛鳥としても、輝き続けるだろう。10年先の未来、齋藤がどこかのインタビューで「『あの頃、君を追いかけた』があったから今の私がいる」と、そんな風に答えているような気がしてならない。(渡辺彰浩)