ひらめ、SNS発アーティストの中でも際立つポテンシャル ソングライティング力が飛躍の鍵に
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ひらめ「ポケットからきゅんです!」を初めて聴いた時のインパクトは凄かった。一度聴いたら耳から離れないほどの求心力を持つ楽曲だ。〈ポケットからきゅんです!え?何落としたの?きゅんです!君がくれたきゅんです!でも君にあげられなくてシュンです。〉をリズミカルに歌うメロディのキャッチーさにやられた。ひらめのキュートな歌声も楽曲と相性が良い。シンプルな弾き語りで派手さはない楽曲だが、耳に残る仕掛けが多彩だっためヒットにつながったのだろう。
ヒットのきっかけはTikTokだ。2020年6月に15秒のオリジナルソングとしてTikTokに投稿されると、わずか1カ月で数億再生を超える大きなバズを巻き起こした。現在は3億回を超える再生数を記録している。曲に合わせて人差し指と親指を交差させて「指ハート」を作る動画や、弾き語りのカバーなど30万を超える関連動画が投稿されている。投稿しているのは一般のユーザーだけでない。ディーン・フジオカや千鳥、渡辺直美など芸能人も投稿している。その結果として曲中のフレーズ「#きゅんです」が「TikTok流行語2020大賞」に、またJKトレンドランキングの「今一番よく聴く曲」、雑誌『ニコラ』での「SNSで流行った曲ランキング」などで1位を記録した。「ポケきゅん現象」と呼ばれるほどの社会現象になっているのだ。
バズはTikTokだけの話ではない。LINE MUSICではデイリーランキングで1位を記録しSpotifyのバイラルチャートでもトップ50にランクインしている。1月10日に放送された『関ジャム 完全熱SHOW』(テレビ朝日系)で放送された「プロが本気で選んだ2020年のマイベスト10曲」では元SUPERCARで作詞家のいしわたり淳治が「ポケットからきゅんです!」を9位に選んでいた。SNSで使用する目的だけでなく、楽曲としても評価され、プロを含む多くの人に愛されているのだ。
ひらめは「ポケきゅん」以外の楽曲も発表しているし、シンガーソングライターとして活発に活動している。発表された楽曲のどれもが「ポケきゅん」と同様に一度聴いたら耳から離れないインパクトがある。特に歌詞が特徴的なのだ。1月29日にリリースされた「君にチューしたい」も個性的な歌詞でポップでキャッチー。特に〈君にチュッチュッチュってされたら 私キュンキュンが止まらない〉という部分は歌詞もメロディも一度聴いたら頭から離れない。ひらめの歌詞はオノマトペが多い。「君にチューしたい」では〈チュッチュッチュ〉〈キュンキュン〉というフレーズを使っている。また「ポケきゅん」では〈きゅん〉〈しゅん〉〈ぎゅっ〉を使用し、「既読無視」では〈キョロキョロ〉〈スヤスヤ〉〈ウキウキ〉という言葉を使用している。
オノマトペは響きを重視した言葉なので、それが綺麗にメロディに当てはめられていることでキャッチーに感じるのだ。また歌詞全体でポップな世界観を構築しているため、可愛らしいオノマトペを違和感なく歌詞に取り入れ、さらにポップで可愛らしい楽曲へと彩ることに成功している。また複数のオノマトペが乱立すると、楽曲全体が散らかった印象になってしまうが、ひらめのこれまでの曲では最大でも1曲で3つまでしか使用しない。多用するのは2つまで。そのため一つひとつの言葉が印象に残る仕組みの歌詞になっている。
ひらめの歌にはこのように「歌詞やメロディが頭から離れない仕掛け」がこれでもかというほどに施されているのだ。その仕掛けに自然とハマってしまうので、「ポケきゅん」はたった15秒の動画をきっかけにバズに繋がったし、多くの人に愛される音楽になった。
また使う言葉が個性的なだけでなく、歌詞の設定や内容も個性的だ。「君にチューしたい」は身長差があるカップルの青春を切り取ったような内容。少女目線の歌詞だが登場人物の性格や関係性が十二分に伝わって感情移入できる仕組みになっており、まるで少女漫画のような世界観を音楽で表現しているのだ。その内容には思春期特有のリアリティを感じる。歌詞と同じような経験をした人も少なくないだろう。「既読無視」は片想いの少女の目線の歌詞だが、こちらもLINEの既読無視をテーマに歌詞を構築するという、誰もが共感してしまうようなリアリティある内容。それをオノマトペや可愛らしい表現の歌詞で表現している。
ひらめはリアリティある内容をファンタジーに感じる言葉で表現し歌うことで、他のシンガーソングライターとは違う個性的な音楽を作っている。彼女がバズったことは偶然ではなく、才能や個性による必然なのだ。
2020年は時の人となったひらめ。実は本格的に活動を開始したのも2020年で、活動開始後すぐにバズったアーティストである。まだ活動開始から1年も経っていないのだ。まだ伸び代はあるはずだし、まだ隠れた才能が眠っているかもしれない。TikTokで流行ったアーティストとしてだけではなく、一人のシンガーソングライターとして今後も注目すべき逸材だ。
■むらたかもめ
オトニッチというファン目線で音楽を深読みし考察する音楽雑記ブログの運営者。出身はピエール瀧と同じ静岡県。移住地はピエール中野と同じ埼玉県。ロックとポップスとアイドルをメインに文章を書く人。
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